Episode13:Chapter2 霊の戦い・第二節―――フィジカルバトル②
遅れました
『では、初めて行きたいと思います!鬼ごっこ、レディー……ファイッ!』
そうして、鬼ごっこが始まった。パルクールエリアにて、これから激戦が始まろうとしていた。
『最初に、言憲 楽歩を狙え。言憲の“想像力”は今まで発生例から見て、機動性に優れた“想像力”ではないと思われる』
『『了解!』』
智香の合図で、ゆうかりんと姫様が動き出す。その標的は、ホリセブの癒やし担当である言憲楽歩である。彼女の“想像力”は会長が調べ上げた限り、名称が『化身・知恵』で、知識系の“想像力”だった。
そうして、彼女の様子を見てみると、大雑把な動きで、お世辞にも速いとは言えない。ただ、平均の女子ぐらいの走り方で、速さだとは思う。だいたいのタイムで言うと、50メートルが9〜8秒台ぐらいか。そしてゆうかりんと姫様の動きは“想像力”の補助もあってか速い。見ていると、どんどん差が縮まっていくのを感じ取れる。
ゆうかりんの“想像力”で彼女自身の身体能力を一時的に超強化しており、そして姫様も“想像力”で怒りを身体能力に変えている。この二人が揃えば、なるほど平均のタイムで走っている女子一人、追いつくのは造作もないことか。この差は、言わば「普通の軽自動車」と「プロ御用達のレーシングカー」がサーキットの上で競い合っているようなものか。
「そろそろ―――」
手が触れるまであと数メートル。このとき、私の心拍数が上がっていくのを感じた。これが、いわゆるスポーツ観戦の瀬戸際で手に汗握る、というものか。
『あともうちょい―――』
そして、反対側からも姫様がやって来て、そこでも手が触れるまで数メートル。智香も脳をフル回転させながら、自チームの拠点から指示役としてモニターからフィールドを見ていた。そうして、自分の精神に響くその声からは、緊張の意も感じられるが、それよりも、大きな期待が込められており、私と同じ心境ということを感じた。
「『いけ―――!』」
どちらも残り数十センチメートルという所まで来た。モニターから見ている智香・千明、フィールド上で実際に見ている私達。その二人以外の全員の声が重なり、今、大きな声援―――大絶叫と化す。刻一刻と迫る魔の手(実際問題、悪魔だし)から逃げ切れるはずもなく、言憲は捕まり、キュグデ側に1ポイント入る。
―――と、思われていたその矢先、それは起こった。
「今!来て、ヱリル!」
口を全く開かなかった言憲が、初めて声を発したのである。その声は、大人びていたが、かといって艶っぽさがあるわけではなく、少し少女としてのあどけなさが残り、しかしながら大きな優しさが感じられる声であった。だが、その声は誰に届くか。それは、彼女である。
「―――その願い、確かに受け取った。私が出よう、言憲よ」
空から轟々と降り注ぐ炎の矢のように、その声は天より降りた。音としては高く、それなりの幼さがある声だが、その声には確かに氷のような冷たさ―――凛々しさ、というべきか―――も残っていた。そして、その声の持ち主は―――何を隠そう釉累ヱリルである。
ゆうかりんと姫様は、その突然の出来事に上を向き、そしてその雄々しさと神々しさを持ち合わせる声に屈しそうになりながらも、心の土俵際で堪えた。
「ふむ……、貴様らか。神の理を破りし愚か者は。罰を与えよう―――“想像力”『化身・忠誠』―――彼女らを罰せ」
『危ない!チクショウ、なんでこんなときに……。まぁ良い。下がれ!』
そして、彼女の“想像力”が発動しようとする。その時、異変に気づいた智香がとっさに撤退の指示を出すが、間に合わず―――発動してしまう。
「焼き払い、薙ぎ払い、駆逐せよ!―――『破天の軍勢』!」
そうして、最大規模の“想像力”が発動する。それは、世界の終わりのような景色であった。空から舞い降りる炎の兵士たち。その手に持つ弓を射出したかと思えば、その矢は次第に火炎へと変わり、彼女らに降り注いだ。
そして、ゆうかりんが倒れる。姫様は、まだ倒れはしないが、それでも意識が朦朧とし、今にも倒れそうになっている。そこを、私が空間を喰らって強制的に移動させた。
『ななな、なんということでしょう!ヱリルの手によって呼び起こされた炎の天使の軍勢に、有可、倒れました!』
そう、無慈悲にも発せられたそのアナウンスを聞き、私は、初めて“相手への恐れ”というものを抱いたのであった。
まだ続きますよ〜!




