Episode13:Chapter2 霊の戦い・第二節―――視点/角度①
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
キュグデやホリセブが移動中のことである―――。
―――コツコツと、廊下を歩く音がする。その音は高貴で、また狡猾な雰囲気を醸し出している。暗い廊下、色とりどりの聖者たちが描かれたステンドグラス。そして……そのスラッとした黒いシルエットは、どこかの企業のイメージポスターや、絵画を連想させるだろう。
そして、その者の前にはもう一つ人影がある。こちらは光が後方から微かにあるため、シルエットと青い髪だということのみが分かる。
その者の名は―――
「……また君か。懲りないな、空海久瑠」
「お前こそ、そろそろ社長の座を降りるべきではないのか?フェン・ミゼーア」
姉妹事務所でありライバル事務所である事務所の社長空海久瑠―――『ル・リエー』社長―――とフェン・ミゼーア―――『ティンダロス』社長―――であった。
その次の瞬間、久瑠が何か書類のようなものを突きつけた。そして、裏から護衛と思われる数人の屈強な黒服の男性たちが現れる。
「これがなにか分かるか?」
「さぁ?全く」
久瑠は少し間をおいてゆっくりと喋り始めた。
「―――これは、お前が今までに犯した非合法的行為の全てが記されている調査書類だ。中を除いてみたがひどいものだな。殺人、強盗、放火は当たり前。犯罪教唆、拉致監禁や極めて悪質な思考誘導―――洗脳と呼んだほうが正しいか―――。さらには海外の暴力主義団体との人身売買……吐き気のする悪というのはこういうことのことを言うのだろうな」
「しかし、それはあくまで調査書類の中の出来事に過ぎない。証拠はあるか? 音声記録などあればぜひ出していただきたいものだが」
久瑠はそう言われると、その取り巻きの黒服の一人に「アレを」と一言だけ言うと、黒服は何やらUSBメモリのようなものを取り出した。
「お望み通りのものを出そう。こっちはあらゆるお前の犯罪に関する資料―――音声や動画―――が収録されたUSBメモリだ。物的証拠もバッチリ。今日私がしにきたのはただの宣戦布告だよ」
「そうかそうか。宣戦布告か―――。面白い冗談だな。まあ良い。後ろを見てみろ」
ミゼーアが不敵に笑うと、久瑠に悪寒が走った。慌てて後方を見ると、今まで後ろに居たはずの黒服たちが消えている。地面を見てみると、おぞましい見た目をした角張った犬のような物体に貪り食われている。
「ミゼーアァ……!」
「そう怖い顔をするなよ。直に君もこうなる」
そう言うと、ミゼーアは手を掲げ、一言。
「死に給え。―――“想像力”『邪神・角度獣王』!」
―――それは女王の号令。時間を超えた彼方より、あらゆる角度が支配する異常都市よりの軍勢を呼ぶ狼煙。その合図を聞いた獣は、すぐさま駆けつける。
後ろからの奇襲。避けられない角度よりの究極の生物兵器の攻撃は久瑠に直撃してしまった―――かに思われたが。
「ほう、姉妹揃って疑似心象風景持ちとは。神の才能のパラメーター配分は適当なんだな」
疑似心象風景とは―――通常、〈ファイナルフェーズ〉にたどり着かなければ習得できない心象風景を“想像力”の性質上、はじめから持ち合わせていることである。
そして、久瑠はとっさに顕界させた疑似心象風景に狼達を引きずり込むと、
「やはりお前を殺す。法ではなく私が裁く。―――“想像力”『邪神・封海』……『深きものども』」
“想像力”で生み出した魚のような気味の悪い生物でその狼達を飲み込んだ。
「ほう、私が呼んだ猟犬たちを一瞬にして飲み込むとは。少しは認識を変えなければいけないかもしれないな」
「ああ、そうか。―――畳み掛ける!『海神の守り人』、『海神の九頭竜』!」
そう言って疑似心象風景の中から顕現させたのは、『海神の守り人』と呼ばれた先程の『深きものども』の進化形態のような生物と、『海神の九頭竜』と呼ばれた九つの首を持つ巨大なヘビ―――いや、龍であった。
『海神の守り人』は、召喚されるやいなや、地面を液体のようにし、その中に潜った。そして、『海神の九頭竜』は九つの首の内、中央の首以外を全て切り捨て、人間の少女のような形に変身した。そして、八つの首はそれぞれ、「兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という文字が一文字ずつ刻まれた剣となり、中央の首が操る人型の背中には「臨」という文字が刻まれていた。
「さあ、裁きの時間だ。フェン・ミゼーア。海神の怒りで眠るが良い!」
そうして左右の手を結び、人差し指を立てて合わせる形―――独鈷印を結ぶと、中央の首が操る人型―――以下、『海神の九頭竜』―――が動き出した。




