Episode13:Chapter2 霊の戦い・外典:第二節―――昔のこと。
お久しぶりです。
―――六十三年前、青森。
あの「謎の力」―――“想像力”の暴走事故より数週間後のことです。
父は、その暴走した「謎の力」の性質を解明するため、NEF―――ノワール・エルドラド財団の総力を結集させ、研究を進めました。そして、その研究中、「謎の力」に目覚めた者たちが研究者の中から現れ始めました。その人達は異形の姿をしていたり、物理法則を完全に無視したような動きができるようになりました。父は、この力を自由自在に扱えるようになれば、人類はもっと繁栄できる、と考え更に研究に没頭しました。
そうして分かったのが、この「謎の力」は人類がこれまでに体験した、あるいは作り出した絶対に有り得ない現象を再現する―――想像上の現象を再現する力であること。その性質から、父は“想像力”と名付けました。
しかし、それと同時に父はこの“想像力”が人類を滅ぼす可能性もあると述べました。その根拠は、まずこの前の暴走事故と同じように、この“想像力”が暴走し、それが万が一何かの神話に記されている世界の創造と破壊を司る神の力だったとしたら、その力は何のためらいもなく世界を破壊するということは必然ということ。次に、予期せぬ暴走事故の場合は、誰も対処できないということ。今回の事例がまさにその通りでした。
そして、その様な事実が判明してから数日後のことです―――
「なあ、フラン」
「なんですか?マイフレンド」
マイフレンド―――一条無垢美は話し始めました。
「私は、このまま生きていても良いのだろうか?」
「!」
その一言は、私を驚愕させるのに十分でした。その二十一文字の自らの生の意味を問うものは、私は初めてマイフレンドから聞きました。
「前藤の弟とその彼女は未だに意識不明の重体。その一方の彼女はもっと酷い状態で、現代の医療では治療できないとされ、NEFに胸にポッカリと穴が空いた―――心理的ではなく物理的に―――まま輸送された。前藤の弟は起きたとき、精神的な大きな衝撃を目にするだろう。それが原因で自ら命を絶つかもしれない。前藤は……脳死状態―――いわゆる植物人間と同じだ。あのニチエが放った強烈な衝撃波。あれは精神に作用するものだった。私達は謎の力―――“想像力”を何故か獲得していたから無事だった」
マイフレンドの呼吸は浅く、早くなっていく。それと同時に、黒いシャツにも汗が滲み始め、その汗が肌を伝う。目には涙が溜まっていき、瞳孔が大きく開き始めていた。
そして、言葉の速度も早くなっていく。
「本当に申し訳ないことをしたと思っている!彼らの人生をめちゃくちゃにしてしまったと、今になって後悔している。あぁ、私は一体どうすれば!」
「落ち着いてください、マイフレンド!」
一瞬にして、静まり返る。
「……すまない、取り乱してしまったようだ。……本題に入ろう。私、旅に出ようと思うんだ」
「た、旅……?」
「そうだ。旅と言ってもただの旅行ではない。責任を果たす旅だ。私は、奇妙な力を、人にはない力を持ってしまった。そして、その力は常識の範疇を超越した大いなる力だ。だから、私はこの力を制御する必要がある―――強者の義務―――ノブレス・オブリージュというものだ。そして、それともう一つ。私は、この件を自分から他人に話すことは一切ないだろう」
―――「そう言って、マイフレンドは旅に出たんです。私はあのあとも青森に残ってマイフレンドの帰りを待っていました」
酷い話だ。私が聞いたときは、あまり深刻な問題だとは思わなかったが、それは被害を知らなかったから言えたことだと気づいた。聞くところによると、前藤さんは今もまだNEFの療養施設にて治療中、弟とその彼女は十年前に息を引き取ったという。
「あ、もうそろそろ着きますよ。準備しておいてください」
「え?あ、ホントだ」
見えてきたのは、あらゆるスポーツがここ一つでできる帝都内随一の複合型運動施設「うんどうできるーよくん」。明らかにネーミングセンスが終わっている。
「では、行ってらっしゃい。キュグデに栄光あれ!」
送り出してくれたフランさんに感謝の礼をしてから、私達は「うんどうできるーよくん」へと向かったのであった。と、いうか言いづらいな。
そろそろ書きましょう。