時を越えて。
結局、花火会場で、海樹の幻視を見せられたが、真理は、そこから、逃げ出した。海樹と連れ立った女性は、真理が、望んだ女性とは、遥かに遠くイメージが、異なったものだった。というより、嫌いなタイプだった。どうして、女は、別れた男性に、自分の理想とする女性と、一緒になってほしいと、思うのだろうか・・・。真理も、やはり、理想とする女性を、望んでいた。自分より、綺麗で、素敵な人・・・。だが、真理が、目にした女性は、何処にでも、いる垢抜けない、冴えない女性だった。それでも、海樹が、幸せなら、良しとしようと、思ったが、幸せそうに、見えた海樹は、昔のような面影は、なくただの、父親になっていた。
「ぱぱ・・・!」
海樹の腕にいた幼子が、手を空に向かって声をあげていた。
「花火!キレー」
幼子は、無邪気だ。
「本当だな」
海樹も、声をあげた。
「今年も、凄いな・・。」
「本当」
少し、太った隣の、女性が、空を、見上げた。当人同士が、幸せなら、何も言うまい・・・。真理は、そっと、その場から、離れたのだが、心の奥、小波が、たっていた。
「これで言い訳が無い!」
悠が、叫んでいた。何度も何度も・・・。
「当人同士が、幸せなの。樹は、あれでいいの。私達は、終った事なの!」
「終ってなんか無い!」
悠は、怒り狂っていた。あれから、花火会場を、後にし、帰宅してから、何度も、同じ夢を、見せ、真理に訴えかけた。毎回、目が覚めるのは、午前2時、一番、この世と、あの世の、波長のあう時間だ。
「ねぇ・・・。悠。」
真理は、話しかけた。
「自分を知りたいというあなたの気持ちは、判るわ・・・。でも・・・。」
それでも、彼は、幸せになるの。もしかしたら、あたしが、早く亡くなるのも、仕方ない事かもしれないの。決められた運命を壊す権利は、ないのだから・・・。」
そう、続けたかった。
「繰り返すの・・・。何度も・・・。あなた達は、決して結ばれない」
悠は、真面目だ。
「あなたが、鍵よ。真理。あたしの魂を、救うのも、あなたなの。」
時計の、針は、2時のまま、動かなかった。
「真理。こんどこそ。あなたの、力をかしてほしい。あたし達は、今も昔も、二人で、一人なの。」
悠が、両手を、目の前に、かざすと、真理の、両手が、指先に触れた。重なり合うと、中指から、次第に、1本ずつ、吸い込まれていった。最初は、手だった。それは、腕となり、胸になり、お腹になった。
「悠」
拒否できなかった。悠の、体が、入り込み、次第に、思考は、真理1人のものだけでは、なくなっていった。
「海樹のところにいくの・・。」
最後に、頭となり、瞳が、重なっていった。
「全てを。変える為・・・。」
悠・・・。否、真理の、体は、ベッドから、消えていった。