命を紡いで。
雨が、幻視の中で、降り注いでいた。
「これは、幻視だ」
わかっていても、頭から、肩先まで、雨で、濡れそぼっていった。
「わたし?」
「そう・・。あなたは、同じ事を、何代も繰り返している。何度も、何度も、決して、結ばれることはない。」
結ばれる事もない。そう言われて、真理は、胸の奥が痛んだ。そう、あの人。まだ、忘れられなくて居る。胸に染み付いたあの人の影。まだ、深い悲しみの、淵から、這い上がれないでいる。
「あなたの、持っている能力、故に、結ばれない。でも、その力で、解決できる方法は、ある。」
「私の持っている能力・・。」
「そうよ。もの心つく頃には、親や兄弟にまで、気味悪がられたはず。」
「そう・・。」
真理の胸の奥で、幼少の頃の嫌な記憶が、渦巻いていた。
「あなたは、前も、思いを果てせず、亡くなっている・・。これは、あなたからの伝言なのです。」
「私からの伝言。」
「繰り返すあなたの、運命を変えろと。」
「そんな事は、ないでしょ?」
真理は、笑った。確かに、彼とは、うまくいかなかった。それを、前世からの、繰り返しだといきなり目の前に現れた初対面の人(?)に、言われて、信じるほうが、どうかしている。
「疑っているわよね。」
「当たり前でしょ。」
真理が、言うと、女は、その着物を、指差した。
「その柄を、懐かしいと、思ったはずよ。」
「えぇ・・。ええ。」
真理は、見透かれたようで、どぎまぎした。
「最後に、着ていたもの・・。だから。」
「最後に?」
「前は、彼では、なく、あなたが、先に逝ったの・・。そうしないと、彼が、先に逝ってしまうから、自分で、試してみたのね。でも・・。ダメだった。」
この着物を、見て懐かしいと、思ったのは、そうだったのか。
「あたしは、先に死んだの?」
「事故で。」
戸惑うことなく、女は、答えた。
「彼と一緒になる。その約束をした帰り道、交通事故にあったの。即死でした。」
「そんな・・・。」
自分の最後を聞いて、真理は、愕然とした。
「このままでは、あなたは、今世も同じ。」
今の恋も、そうなりつつある。真理は、予感していた。
「自分の力を知っているからこそ、この話を疑う事は、出来ないでしょう。」
「あなたは、誰なの?」
「私と、一緒に探して欲しい。」
女の手が、そっと、真理の肩に触れた。その瞬間、懐かしい感触が、全身にはしった。一番、便りにしていた人の手が、触れたのと同じ感触だった。
「あなたは、誰なの。」
女は、目を伏せた。
「悠?」
自然と真理の口から、その名が零れ出た。
「悠?悠なのね?」
女は、優しく微笑むと、すっと、暗闇に消えていった。それと、同時に真理の居た場所は、騒々しい花火会場に、戻っていった。