花火の記憶。
昼間は、途方もなく暑かった。どうにか、花火会場へのバスには、間に合ったものの。会場には、やや遅れて着いてしまい、花火は、始まっていた。皆で、近くの、洗面所を借りて、着替えた。
「やっぱり・・・。」
未来は、感嘆の声をあげた。
「たぶん・・。真理が、一番似合うと思っていたの。」
まじまじと、下から、上まで、見つめていた。
「そう?」
少しだけ、照れた。あの、浴衣・・・。
「なんとなく、なんだけどね。」
自分でも、しっくりする。以前から、よく知っていたよな、この浴衣。どこかで、見たような記憶がある。
「うん・・・。自分でも、不思議なんだ。この浴衣・・・。何処かで、見たような・・。」
デジャブゥという言葉がある。それに、近い事が、最近、身の回りで、起きていた。真理は、小さい頃から、勘が、良かった。と、いうより、良すぎたのである。その日に、起きる事を、よく、夢で、見た。頭の中に、誰かの声が、浮かび、その通りになる事が、よくあった。もそかしたら、この場所に来たかもしれない・・・。と、いう事が、よくあった。そんな時、よく真理は、情緒不安になったものだ。
・・・自分は、別に帰る場所が、ある・・・
そう思うと、胸が、苦しく、切なくなるのだった。
「大丈夫?」
思いに、ふける真理に、未来が、声をかけた。
「あっ・・・。大丈夫。」
あわてて、真理は、返事した。
・・・自分は、何か大切な事を、わすれている・・・
そんな気がして、ならなかった。
「はじまってたね。」
華が、声をあげた。
次から、次へと、花火は、打ち上げられた。切なくも、はかない・・・。この花火が、終わると、もう、秋が、くる。昼間は、あんなに、暑かったのに、夜。山からくる風は、冷たく、心寒かった。艶やかで、綺麗は花火は、ほんの、一瞬で、散ってしまう・・・。
「忘れられないんだよ・・・。」
真理は、呟いた。
「終わってないから・・・。」
どっと、涙が、両目から、あふれてきた。
「忘れてしまえば、楽になれると、思っていたのに・・・。」
苦しい。切ない思いと一緒に、誰かが、真理の手を、とった感触があった。
「2人で、行ったよね・・・。」
この道・・・。真理は、振り返った。川沿いの、細く長い道を、2人であるった。初めて、来た場所なのに、真理は、この場所が、切なく、哀しかった。
「逢いたいよ・・・。」
突然、出た言葉に、真理は、戸惑った。一緒にいた未来達も、驚いた。
「どうしたの?」
「泣いているの?」
聞かれて、真理は、はっとした。
「何?」
「泣いてるじゃん!」
「はっ?」
真理は、はっとした。確かに、頬を伝わる涙の感触が、そこには、あった。
「どうして?」
判らなかった。ただ・・・。この花火の夜、真理の心深く、何かが、目覚めていたのである。