哀しい顔は、見たくない。
納得のいかない別れを迎えたとき、あなたは、相手の幸せを、願う事が出来ますか?当然、相手が、不幸な目にあうように、願うのが、本音だと思う。相手が、自分と、一緒にならなかったから、不幸になったと、悔やめばいい・・・。そう思いますか?でも、本当に、その人を、愛しているのなら、「哀しい顔」は、見たくないと、思いますよね。やはり、一緒に、なれなかったのには、「理由」があるのです。仮に、無理に一緒になったとしても、別れは、いずれやってくる。だとしたら、彼の「哀しい顔」は、みたくないはず。お互いに、幸せになるのが、最善の、策では、ないでしょうか。
一条 真理は、何処にでもいるはずの、女性でした。・・・が、それは、見かけだけ。この世に、未練を、残して、無くなった霊。悠に逢ってしまったその日から、彼女の、報われなかった恋の、続きを、追う事になってしまうのでした。それは・・・。
夏。
「蒸れる」
真理は、恨めしく空を、見上げた。この天気じゃ、浴衣を、着込むのは、相当辛かった。友人と、何人かで、7時からの、花火大会に、向かうべく、送迎バスに、乗り込むはずだったが、カンカン照りの、中、バス停で、待つのは、酷だった。
「絶対。死ぬ」
毒付いていた。
「あのさ・・・。真理たら、さっきから、文句しか、出てないんだから」
「だって、暑くて、死にそうなんだもん」
「こんなんじゃあ・・。浴衣着るのも、辛いよね」
暑いから、浴衣は、会場近くの、お店の、更衣室で、着替えようという話になっていた。
「あぁ!」
真理は、大声をあげた。
「やばーい」
「何よ」
「忘れた・・・。」
「どうしたの?」
友人の一人の華が、聞いた。
「浴衣・・・。忘れた・・・。」
「はぁ?」
全員で、写真を撮ろうねという話になっていた。
「ばかじゃん」
「すいません・・。」
真理は、シュンとした。
「あのさ・・・。1枚余分にあるんだけど・・・。処分してもいいかなって、やつなんだけど」
友人の、一人、未来が、声をかけた。
「母さんの、友人のなんだけど、どうしても、処分できないから、貰ってくれって、渡されたんだけど。」
未来は、大きいバッグを、広げた。
「綺麗な浴衣なんだけど」
広げたバッグの中のは、黒地を、ベースにした赤や紫、銀色の、花々を散らした浴衣が、入っていた。
「これなんだけど」
「素敵」
真理は、人目で、気に入った。
「帯も、あるの?」
「あるみたいよ。着てみる?」
気が、すすまない感じで、未来は、聞いた。
「うん」
真理は、もう、その浴衣に、クギ付けになった。
「着たい・・・。」
その浴衣1枚が、真理のこのあとの運命を、変えていく事になろうとは、誰も、気付かなかった。