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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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拷問される吸血鬼の幼女

 薄暗い個室。コンクリートで作られた壁が四方を囲っている。壁にはナイフや鎌、木刀などが設置されている。窓は無く、外の空気も気温も感じない。空調も無く、そこは肌寒かった。そこはある地区の建物にある地下だった。そこは外界から隔絶されており、唯一外界と繋がっているのは一箇所の出入口と思われる鉄の扉のみ。そして部屋の中央には鉄の柱が建っていて、そこには一人の幼女が縄で縛られていた。

 幼女は短い金髪、赤い瞳、丸い顔で貧乳。容姿は十に満たない程度に見える。だが彼女は人間では無い。吸血鬼と呼ばれる妖怪の一種だった。その証拠に犬歯が人間のそれよりも鋭く尖っている。吸血鬼であるために年齢は見た目によらず五十歳になる。それでも子供の見た目なのは、吸血鬼としてはまだまだ子供の年齢だからに他ならない。衣服はビキニのような小さな黒い紐パンと白いワンピース一着。吸血鬼というからもっと綺羅びやかで豪華な服を着ていると思われたがそんな事は無く、とても貧相と言えるような格好をしていた。ワンピースの丈は短く、太腿の大部分が露出している。簡単に下着が見えそうだ。そして腕も肩も露出している。肌の露出は高い方であろう。

 吸血鬼の幼女は眠りから覚めた。寒さに体を震わす。そしてここはどこなのかと辺りを見渡している。自分は夜中、街中で人間の子供の生き血を吸っていたのではないか。記憶が無い。この吸血鬼は幼い頃に親を亡くした為に家がなく外を放浪しながら人間の子供を攫っては生き血を死ぬまで吸い尽くすといった、盗賊のような生活をしていた。ついこないだもいつものように子供の生き血を吸っていたわけだが、おそらく気を失っていつの間にかこんな場所にいる。

 体を見て自分が縛られている事に気付いた。そう言えば気を失う直前何かが頭に強くぶつかったのを覚えている。そうなるとおそらくはデビルハンターにでも捕まってしまったのかもしれない。吸血鬼の幼女は恐れた。デビルハンターといえば人間に害をなす妖怪を仕留めるプロではないか。当然人間の生き血を吸う吸血鬼も駆逐対象の一人だ。となると自分はこのまま殺されてしまうのか。そんなの嫌だ。死にたくない。

 吸血鬼の幼女は精一杯声を上げた。吸血鬼特有の怪力で縄を解こうと全身に力を込める。しかしこの縄は魔法陣が仕掛けられた特殊な縄であり、まだ子供の彼女の力では振り解く事が出来なかった。


「はぁはぁ。クソクソクソ! このボクがなんたる失態だ。なんとかしてここから抜け出さないと」


 何度も力を込めて縄を振り解こうとするが無駄な努力である。何度も叫んでいると喉がやられてしまう。吸血鬼の雄叫びは人間のそれよりも何倍も大きい。だからそんな大声を出していると子供の彼女の喉では簡単に枯れてしまうのだ。喉の痛みを感じると途端に喉の渇き、飢えが感じられた。喉が渇いた。人の生き血を吸いたい。彼女は子供のために育ち盛りだ。腹も減る。いや、腹が減るというより、喉が渇くと言ったほうが適切か。とにかく喉が渇いた。苦しい。苦しい。吸血鬼の幼女は辺りを見渡した。目に飛び込んでくるのは刃物ばかりで当然ながら人間の体など何処にも転がっていなかった。


「喉が渇いた……」


 吸血鬼の幼女は再び雄叫びを上げて縄を解こうと力を込める。そんな事に何の意味も無く、ただ体力を消耗するだけだというのに。

 ……刃物? 彼女は再び周囲を見渡した。辺り一面にナイフやら槍やらノコギリといった不穏な気分にさせられる刃物がずらりと並んでいる。デビルハンターは何故自分をすぐに殺さずにこんな場所に閉じ込めたのか。まさかこの先、あの刃物で八つ裂きにされるのではないか。彼女は吸血鬼だ。頭以外がふきとぶような大怪我を負っても数日あれば元通りになる。ただナイフで刺されたくらいで死にはしない。しかし、苦痛はもちろん感じられる。もし、デビルハンターが自分を殺すためではなく、痛め付けるためにここに閉じ込めたとするなら……。デビルハンターならば吸血鬼の子供くらい、簡単に殺せるはずだ。だから、わざわざこんな場所に閉じ込める理由なんて……それくらいしか思い付かない。

 途端に彼女は怖くなった。呼吸が詰まり息が出来なくなる。経験上、何度かデビルハンターに殺されそうになったことがあった。ナイフで刺され、魔法の炎で焼かれ――どれ程痛かった事か。このデビルハンターは自分を殺さずに、あるいは止めを刺す前に自分を酷く痛めつけるつもりなのだ。恐ろしいことこの上ない。どうせ血を吸われて死んだ子供達の霊を慰めるためとでも言うのだろう。冗談じゃない。吸血鬼は人間の生き血を吸って生きる生命体なのだ。食事しなければ死んでしまうではないか。

 デビルハンターは人間である。デビルハンターにはこれまでも注意してきたつもりだったが運が尽きたということか。このまま痛い目に合わされて殺されてしまうのか。吸血鬼の幼女は自分の未来を想像し、恐怖した。


「嫌だ! 嫌だぁあああ!!」


 吸血鬼の幼女はまた同じように精一杯の力を振り絞った。手足をジタバタとみっともなく動かし頭を振りながら、縄を引き千切ろうとするがやはり力及ばない。彼女に逃げるという選択肢は無かった。

 その時、吸血鬼の人並み外れた聴覚が、扉の向こうから、階段を降りてくる足音をハッキリと捉えた。誰かが来る。彼女は身構えた。コツコツコツ。少しずつ音が大きくなってくる。本来この部屋は防音性で外の音など聞こえないのだが吸血鬼の聴覚は音を拾うことが出来たのだ。

 やがて、ギィィという音と共に扉が開いた。そして現れたのは、白い顎髭を生やした筋肉質な爺だった。爺は吸血鬼の姿を見るやニヤリと笑って扉を閉める。


「吸血鬼の娘、目覚めたか」

「……お前が私を捕まえたデビルハンター?」

「そうだ。こうして見ると本当に人間そっくりだな。吐き気がするくらいに」

「こっちの台詞だ」


 爺は壁に立てかけてあったナイフを手に取ると吸血鬼の幼女の前に歩み寄った。そしてナイフを振りかざし、幼女の露出した肩に思い切り突き刺した。


「痛たああ!!」

「痛いか? お前達に殺された人間の怨みを思い知れ」


 ザクッザクッ。とナイフが吸血鬼の幼女の体を切り刻む。幼女の体は血に染まっていく。白いワンピースが赤く染まる。床が赤い血で染まっていく。部屋に木霊す吸血鬼の叫び声。爺は容赦無く、冷徹にナイフを手にした腕を何度も振った。


「止めろ! 止めて! イタイイタイ!」

「……止めないね。俺はな、お前のような害獣を痛めつけて殺すのが大好きなんだよ」


 ワンピースをめくりあげると腹にナイフを突き入れた。そして腹を割いた。腹からドバドバと黒い血が零れ落ちて、内臓がぼとぼとと落ちていく。吸血鬼は泣き叫んだ。しかし声を出す気力もなくなっていき、ヒューヒューと虫の息になり始める。ちなみにこの程度の傷では吸血鬼は死なない。内臓が零れ落ちるような傷を負っても、吸血鬼にとっては致命傷にはならない。それでも苦痛は感じる。吸血鬼の幼女は痛みの余り気絶してしまった。


「寝かせねぇよ」


 爺はバケツに組んだ水を吸血鬼の顔に振り掛けた。流水は吸血鬼の弱点。吸血鬼の顔が、体が焼け爛れる。吸血鬼の幼女は意識を叩き起こされ、また苦痛に顔を歪ませた。


「……死にたくない。死にたくない。殺さないでください。見逃してください」

「ダメだな。お前はこれまで何人の人間の、しかも子供の生き血を吸ってきた? その数だけ、苦しめて苦しめて苦しめて――それから殺してやる」


 吸血鬼の幼女は目から涙を零した。


「ボクは、食事をしていただけだ。なんでこんな目に、こんな酷い目に合わないとならないんだ。痛い……痛いよぉ……」

「お前が我々人間にとって、害獣だからだ。害獣は駆除せねばならん。まぁ悪戯に痛め付けるのは個人的な復讐心と、そして快楽からかな?」


 爺は壁に立てかけてあった鈍器――尖った鉄のハンマーを両手に持つと、吸血鬼の幼女の頭を思い切り殴り付けた。首が飛んでしまいそうな衝撃が頭にふりかかる。脳味噌が頭の中でぐじゃぐじゃに揺さぶられる。吸血鬼の幼女は顔の穴という穴から血を吹き出して、全身が痙攣してそして失禁してしまった。ビクッビクッと手足が勝手に震え始める。その様子を見て、爺はほくそ笑んだ。


「痛いか? 苦しいか? いい気味だ吸血鬼。お前が吸血鬼の子供と言えど容赦はせん。害獣は散々に痛め付けて殺すのみだ」


 その後も爺はハンマーを振って何度も吸血鬼の幼女の頭を、体を腕を足を殴り付けた。細い手足が簡単に折れて肋骨も潰れてヒビが入る。体のあちこちからたくさんの血が吹きでる。いつの間にかコンクリートの部屋は赤い部屋へと姿を変えた。




 それから時間が経過した。爺は疲れたのか休憩を挟んだ。その間に吸血鬼の幼女の体は再生して傷が折れた骨が元通りに修復されていく。しかし脳へのダメージは、苦痛の記憶が消えることはない。吸血鬼の幼女は痛め付けられる恐怖に心が押し潰されていた。そしてその上から、心を防衛するように、怒りを湧き上がらせた。何故食事をしていただけでこんな目にあわなきゃならないのか。人間許すまじ。


「……このクソ野郎。殺してやる! 殺してやるぞぉ! このクソ野郎! このクソ野郎!」


 爺は床で横になっている。寝ているのだろうか。吸血鬼の幼女は爺に罵声を浴びせた。それがせめてもの抵抗、一矢報いる行為だからだった。

 そして爺の体が起き上がった。吸血鬼の幼女は反射的に体を震わせる。ひっ! と短い悲鳴を上げる。爺は振り向き、幼女の顔を睨めつける。幼女の食い縛った歯が自然とカタカタと音を鳴らし始める。それを止めることは出来ない。爺が近付く毎に吸血鬼の幼女は体を震わした。


「お前、俺に文句でもあるのか、ん?」


 吸血鬼の幼女にとっては巨人に映る爺が、険しい目付きで見下ろしている。その姿たるや人にとってのクマやトラに等しい。吸血鬼の幼女は萎縮してしまい、さっきまでの威勢はどこへやら、すんなりと大人しくなってしまった。脂汗を垂らしながら、心臓をバクバクとならしながら、吸血鬼の幼女は小動物のように震えることしか出来なかった。

 バン! とハンマーが吸血鬼の幼女の頭に振り下ろされる。幼女は潰れたカエルのような声を出して手足がだらんと垂れる。爺はナイフで再び吸血鬼の幼女の胸を斬り裂いた。そして腕を切断した。腕がボトリと落ちて血が吹き出る。


「ほれ、血だぞ。吸えよ」


 爺は手に持った腕の切断面を吸血鬼の幼女の口に押し付ける。吸血鬼の幼女は苦痛の余りそれどころでは無かったが、どうしようもない喉の渇きを覚えて自分の腕の血を吸い始めた。吸血鬼は人間の血を吸わないと喉の渇きは潤わない。自分の血を吸ったところでどうにもならないのだ。それでも吸血鬼の幼女は血を吸い続けた。喉が一向に潤わず、吸血鬼の幼女はめいいっぱい血を吸い続ける。そこで爺は腕を口から遠ざけた。


「……!」

「やらねぇよバーカ」


 爺は腕を部屋の隅に放り投げた。腕はそこで灰となって崩れた。

 全身の耐え難き苦痛と、耐え難き喉の渇き。吸血鬼の幼女は発狂したように叫び始めた。


「このクソ野郎! あああああ!!! あああああ!!!」

「うるっせぇガキだな」


 爺は木刀で吸血鬼の幼女の顔面を叩きつけた。




 それから数日に渡り、吸血鬼の幼女は痛めつけられた。手足を折られ、内蔵を引きずり出され、全身をタコ殴りにされて、顔面を打たれて――吸血鬼の幼女はいつも喉が枯れるまで泣き喚いたがいずれそれも疲れてきたのか声を出しにくくなった。これでは面白くない。爺は吸血鬼の幼女に問うた。


「何故お前がこんなに痛い目にあわされるかわかるか?」

「…………」

「答えろ」


 木刀を肩に振り下ろす。肩がボギっという音と共に砕けて外れる。


「ボクが……人間の子供の血を吸って……殺したから」

「それだけじゃない」

「え?」

「お前が生意気なクソガキだからだ」


 木刀で顔面を叩きつける。吸血鬼の幼女は鼻が潰れて鼻から口から血が噴出する。爺は更にペンチを手にすると吸血鬼の幼女の手の指先をへし折った。


「あああああ!!!」

「ほら『ごめんなさい、許してください。私が悪かったです、すみませんでした』と、言ってみろ。泣いて詫びろ。そうすれば許してやらん事も無い。今すぐに殺してやる」

「……もう痛い事しない?」

「しないよ。誠意を込めればな」


 吸血鬼の幼女は涙を流しながら、しゃっくりをしながら言った。


「……ごめんなさい、許してください。私が悪かったです、すみませんでした」

「声が小さい!」


 木刀で顔面を叩きつける。歯が口から吹き飛んだ。


「ごめんなさいごめんなさい! 許してください! 私が悪かったです! すみませんでした!」

「ごめんなさいが一回多い!」

「ごめんなさい! 許してください! 私が悪かったです! すみませんでした!」

「台詞がテキトー!」


 そう言って爺は木刀で何度も幼女の顔面を叩きつけた。もう何度も木刀で叩きつけられて、幼女の顔は真っ赤に膨れ上がっていた。


「なんでぇ! ちゃんと言ったじゃんかぁ〜!」

「誠意が感じられねぇんだよ」


 それから吸血鬼の幼女は何度も先程の台詞を続けたが十回繰り返しても爺が暴力を止めることは無かった。

 そうして幾度も幾度も殴られて、吸血鬼の幼女はいつしか虚無の感情を抱くようになった。自分はこのまま死ぬ定めなのだと諦めた。もうどうなろうが知ったことではない。どうとでもなればよいと。その感情が伝わったのか、爺は趣向を変える事にした。


「俺がこれから指をへし折っていく。両手の指を全てへし折るまで叫び声を上げなければ水を飲ませてやろう」

「……ホントに? 喉が乾いてどうしようもなかったんだ。水をくれるなんてありがたい」

「それじゃあ行こうか」


 爺は吸血鬼の幼女の左手の人差し指をペンチでセットした。そしてペンチを握りしめて、指をボキンとへし折った。


「〜〜っっ!!」


 そして数秒。幼女は歯を食いしばり、涙を流しながら、叫ぶのを堪えた。


「よく堪えた。それじゃ二本目」


 ベキッ! と今度は中指をへし折る。吸血鬼の幼女は思わず泣き声を発した。しゃっくりが止まらなくなる。すると爺ははぁ~とため息をついた。


「黙ってろって言ったのに。また最初からだ」

「……そ、そんな」

「声を漏らしたお前が悪いんだぜ?」


 それから爺は吸血鬼の幼女の指が再生するのを待ってから、また指をへし折り始めた。

 そうして、十本の指がへし折られた。吸血鬼の幼女は叫ぶのを耐えた。耐え抜いたのだ。すると爺は拍手した。


「おめでとう。それじゃ水を飲ませてやろう」

「……ありがとうございます」


 爺は吸血鬼の幼女の背後の方の済に移動した。そこには水道があるらしかった。コップ一杯に水を汲むと、そのコップを吸血鬼の幼女に向けた。


「飲ませてやる」


 爺はコップの水を吸血鬼の幼女に飲ませた。吸血鬼の幼女は凄い勢いで水を飲み干した。血がなくて飢えていた所に水が注ぎ込まれるだけでも全然違う。根本的には喉の渇きが消えることは無かったがそれでも吸血鬼の幼女にとっては砂漠でオアシスを見つけたかのような思いだった。

 あっという間に一杯の水は飲み干された。水がすぐに無くなり、吸血鬼の幼女は惜しそうに爺に視線を向ける。


「もっと、もっと水が欲しい。喉が渇くの。苦しいの」

「また悲鳴をあげずに済んだら水を飲ませてやる」


 それから爺は吸血鬼の幼女を痛め付けた。鞭で体を打ち付けてハンマーで胴体を叩きつけて、ナイフで乳房をえぐり取った。手足の爪をはいだ。腹部を何度も殴り付けた。吸血鬼の幼女は耐えた。歯を食いしばり、耐えた。水を飲むために、喉の渇きを潤すために。

 そしてコップ一杯の水が与えられた。幼女はゴグゴクと水を飲み干した。


「うう……喉が渇く。苦しい苦しい……」

「今度は明日からだ。俺も準備をせねばならん」


 そう言うと爺は部屋を後にした。


「待って。水を……水をください……」


 小さく枯れた声は爺には届かなかった。



 夜、といっても地底深くの地下室では時間の経過などわかりもしないが。吸血鬼の幼女は寒さで凍えていた。体の傷は元通りになっていた。寒くて寂しくて怖くて、幼女は涙を流した。


「お父さん……お母さん……」


 幼女の両親はデビルハンターに殺された。幼女が三歳相当の頃だった。幼女は両親の顔をよく覚えていないが、それでも甘えていた事は覚えている。今は亡き、両親の顔を思い浮かべて、幼女は涙した。

 とそこに爺が現れた。幼女の言葉も遮り幼女の元へズカズカやってくると、爺は手に持っていた注射器を幼女の腕にプスリと刺した。


「っ……。何を入れたの?」

「じきにわかるさ」


 次の瞬間、吸血鬼の幼女の全身に激痛が走った。血管の中を針の玉が流れて、血管を内側から斬り裂いているような感覚が襲う。


「あああああ!!! イタイイタイイタイぃぃぃいい!!!」


 幼女は全身を震わせながら叫んだ。喉が枯れて、涙が枯れても尚、泣き叫んだ。しかしいくら泣いても叫んでも体内を駆け巡る激痛は収まる事がなく、むしろ痛みの鋭さが増すばかりだった。

 爺が注射したのは吸血鬼の弱点である銀が混ぜられた溶液だったのだ。溶液は吸血鬼の幼女の血流に乗って血管を焼き焦がし、毛細血管を伝って体の隅々にまで激しい苦痛を与える。


「一晩それで暮らせ」


 そう言って爺は部屋を後にした。幼女の泣き叫ぶ声は延々と続いた。




 二日後、爺が部屋にやってきた。吸血鬼の幼女は全身汗を流してぐったりと倒れてきた。薬の効き目が切れたであろう二日後に顔を出したと言うわけだ。吸血鬼の幼女は疲れ果てて眠っていた。爺は水を幼女の顔にかけた。幼女は激しい痛みと共に目を覚ました。

 吸血鬼の幼女は爺の姿を見るなりポロポロと涙を流して懇願した。


「助けてください。ボクを早く殺してください。もう痛いのは嫌だ……嫌だぁ……ううっ、ううう……」


 幼女はただただ涙を流していた。苦痛に苛まれるのはもうたくさんだ。早く解放されたい。死にたい。元々両親を失ってから何の目的も無く、喉の渇きを潤すためだけにひたすら人間を襲った。ちなみに人間の子供を狙ったのは強い大人を狙うより効率が良いからというだけだ。つまりは弱い方を狙ったほうが簡単だというだけの話。それも全ては喉の渇きを潤すため。生きるためだった。しかしもう終わりにしたい。デビルハンターに追われる生活も嫌だ。痛い目にあうのはもっと嫌だ。死んだほうがマシだ。楽になりたい。幼女は心からそう思っていた。


「痛いのは嫌だ! 痛いのは嫌だ! 殺して! 早くボクを殺してよぉおおお!!!」


 発狂したように泣き叫ぶ幼女。喉がやられて枯れた声を途切れ途切れに叫び、そして泣き喚く。もはや怒りで防衛するなんて芸当は幼女には出来なかった。それを見て爺はウ~ンと唸り声を上げた。そして、木刀を手にするとその小さな胴体に思い切り叩きつけた。


「痛い! やだぁあああ!! やだぁあああ!! 止めてぇえええ!! 止めてよぉぉぉ!!!」


 もう一発バン! もう一発バン! 無慈悲な木刀が幼女の体に叩きつけられる。幼女はケホケホと時折咳をしながら泣き叫ぶ。もうそれしか出来る事は無い。また長い痛め付けの時間が始まったのだ。


「黙れ」


 爺の言葉に吸血鬼の幼女は体を震わしてピタリと泣き声を止めた。しゃっくりは止めることが出来ない。涙と鼻水で顔は真っ赤に腫れ上がり涙の跡がくっきりと残っている。幼女はフーフーと荒い息をしながら、爺の姿を見つめていた。


「そんなに痛いのは嫌か?」

「嫌です。お願いします。許してください。殺してください。どうかボクにお慈悲を……お願いします」

「どうしようかな? もうちょっと反抗してくると思ったのに。やっぱりガキは折れるのが早いな」

「……すみません。ごめんなさい」

「黙れ」

「……」


 幼女は震えて黙り込む事しか出来なかった。怖くて泣き声を発するのも憚られる。しっかりと口を閉ざして、少しでも爺が不快になることがないように努める。爺の最終目的は自分を殺す事なのだから早く殺して楽にさせてほしい。幼女はそう心に思った。


「……チャンスをやろう」

「?」


 幼女は言葉の意味がわからなかった。爺は続けた。


「これからお前に水を飲ませる。それを三日間、腹に貯め続けるんだ。つまり小便をしたくても我慢しろ。それが出来たらすぐに殺してやる」

「……え?」


 爺はバケツにたっぷり水を張った。


「俺の知り合いに物好きなクソジジイがいてね。失禁を見るのが大好きなんだ。これからカメラでお前の姿を撮り続ける。三日間だ。その間、痛い目にはあわなくて済む。悪くないだろ?」

「……三日間、我慢すれば殺してくれるんですか?」

「…………あぁ。だから頑張れよ」

「わかりました」


 爺はバケツいっぱいに入った水を幼女に飲ませた。それを三杯。幼女は水を飲んでる瞬間は喉の渇きが軽減されるので少し心地良かった。しかしすぐに腹が破裂しそうなくらいの水が腹に入ってくるのですぐに苦しくなった。それでも楽になるために、爺の言葉を信じて幼女は水を飲んだ。そしてバケツいっぱいの水を三杯飲み干した。

 幼女は思わずゲップした。腹が明らかに膨らんでいて縄に縛られたままなので苦しくて仕方が無い。


「さて、と。俺は友人から特注の武器を揃えなければならん。今日はこれでお別れだ。じゃあな吸血鬼」


 そう言って身を翻した爺はすぐに振り向いて、


「カメラで撮った映像は俺の仲間達に共有される。恥ずかしい目にあわないように頑張る事だな」


 そう言って爺は部屋を後にした。これでしばらくは痛い目にあわずに済む。幼女は心底安心した。恥ずかしい目にあうのも嫌だが痛い目にあうよりはマシだと思った。

 そして半日が過ぎた。多量摂取した水は既に下腹部の膀胱に溜まり始めていた。量的にはまだ半分にも達していない。しかし尿意を覚えるには十二分な量だった。既に限界に近い尿意を感じている。まだ一日も経っていないのに、これを三日間我慢するなんて。幼女はそれはとても難しい事だと思った。思えば尿意を我慢するなんて初めての経験だった。これまでしたいと思ったらすぐに路地裏でもどこでも用を足していたからである。だからここまでの尿意を感じるのも初めての経験だった。


「ここから解放されるためだ。我慢しないと……また酷い目にあう」


 吸血鬼の幼女は必死に我慢した。痛いのを我慢するよりはいくぶんかマシである。どうせ我慢できたところで殺されるだけだが、痛い目に合わずに済むのならと、幼女はその一心で力を振り絞る。

 そして日を跨ぐ時間帯になった。下腹部と股間の不快感が凄まじく、眠気があってもとても寝れたものではない。少しでも股間への意識が薄れるとその瞬間盛大におもらししてしまいそうになる。幼女は両足をもじもじと震わしながら全身を震わした。もし漏らしてしまえばそれは穴に入りたいくらい恥ずかしい事だし、何よりまた苦痛の日々を味わう事になるのだ。それだけは何としても回避しなくては。

 幼女は必死に我慢した。


「はぁはぁはぁ……」


 二日目。吸血鬼の幼女は気が狂いそうになっていた。下腹部と股間の感覚が麻痺しておかしくなっている。実は既に漏れているのではないかと錯覚してしまう。何とか三日間耐えなくては。今何日目だろう? 幼女には時間の経過がわからなかった。後どれくらい我慢すれば良いのかわからなかった。でも我慢しきれば楽になれるのだ。そんな希望が幼女の気持ちの糧となっていた。

 三日目の朝。爺はもう一人の爺、黒髭を生やした男らしい見た目の男性を連れてきた。黒髭の男は幼女を見てニヤニヤと笑っている。この男が誰なのか幼女には気を配る余裕が無い。それどころでは無かった。

 幼女は歯を食いしばり体を震わしている。手足をガクガクと震わしている。出る出る……! とっくの昔に我慢の限界は突破している。まだ三日目にはなっていないのか。幼女は激しく息を乱しながら、脂汗をかきながら考えを巡らしていた。もう尿意の事しか頭には無かった。


「耐えているようだな」

「さすがは吸血鬼だ。こういう力も人並み外れているな。ははは」


 黒髭の男は笑い出した。吸血鬼の幼女を何とも滑稽で惨めで無様な姿であると笑っていた。爺は不機嫌な顔をしていた。


「悪趣味な男よ。小便が漏れたら汚いではないか」

「何を言うか。我慢する仕草が最高なのだ。お前こそ、真っ赤でドロドロとした血を好んでいて悪趣味極まりない」

「俺はこいつに断罪しているだけだ。性欲を満たすだけのお前と一緒にするな」

「まぁ良いではないか。天下の吸血鬼がこんな醜態を晒しているのだぞ? 面白いでないか」

「ふん。泣き叫んでいる方がずっとお似合いだ」


 吸血鬼の幼女は体を震わしながら肩で息をしていた。実を言うと既に下着の紐パンにシミが広がっていた。このまま漏らしてしまっては全てが露と消える。そんな事は絶対に嫌だった。


「……あと、どのくらいですか? もう我慢出来ない。嫌だ。嫌だ……」

「あともう二日かな?」


 と黒髭の男は嘘デタラメを口にする。幼女は泣きそうな顔で男の顔を見つめた。


「そんな……無理無理やだやだ」


 涙を零す幼女。もうこれ以上は無理である事は自分がよくわかっている。本当にもう限界である。それに多分既に漏れている。気付かれてはいないが気付かれたら終わりである。

 激しく取り乱している幼女の姿を眺めて、黒髭の男はやらしい笑みを浮かべる。そして幼女に近付くと幼女の股に手を突っ込んで、下着紐パンの上から股を押さえ付けた。


「ひゃっ!」


 モミモミグチュグチュと。いやらしい手付きで股を揉み始める。おしっこがその度に漏れて紐パンを濡らし始める。粘性のある液体が紐パン越しに黒髭の男の右手にこぶりつく。黒髭の男はニヤニヤと笑っていた。幼女は歯を食いしばりながら震え始める。


「止めてください……出ちゃいますから……うっくぅ……」

「既に漏れてるじゃないか? 楽にしてやるよ」


 すると爺が目をピクリと動かして、


「既に漏れているのか? それなら残念だがあの話は無しか」


 すると幼女は慌てて懇願した。


「そんな! ちがっ、違います! ただの汗ですから! ちゃんと我慢して……ぅあ……」


 黒髭の男は力を込めて、幼女の股をグリグリの押し付けて、更に下腹部も押さえ付ける。幼女は全身から汗を吹き出しながら、太腿をおしっこが垂れ落ちていくのに気付かずに、フーッフーッと激しく息を切らしている。

 そして、とうとう終わりの時がやってきた。黒髭の男が思い切り、幼女の下腹部を平手で押さえ付けたのだ。


「ああ……やだやだ、出ちゃダメ出ないで」


 幼女の言葉など無意味だった。次の瞬間、プシュッ! という音と共に、股からおしっこが、滝のように勢いよく噴き出した。決壊、失禁だ。

 ジュゥゥゥゥ!!!

 悶える幼女の言葉と共におしっこが音を立てて地面を打ち付けていく。


「あああ!! 出ちゃダメぇええ!! 止めてぇええ!!」


 おしっこは止まることを知らず勢いが増すばかり。黒髭の男の手を濡らし、下着とワンピースを濡らしてコンクリートの床を濡らし始める。それが一分以上続いた。やがて放尿は収まり、膀胱の中が空になった。幼女はしゃっくりをあげながら泣いていた。


「我慢したのに、こんなに我慢したのに……なんで勝手に出てくるの……」


 自責の念と後悔と快感が一斉に入り混じれ、幼女の頭はおかしくなっていた。

 

「残念だったな」


 黒髭の男はゲラゲラと高笑いを始めた。


「せっかくのチャンスを不意にしたな吸血鬼の娘よ。では早速、この武器を試してやろうかな」


 そう言って爺は懐からとある拳銃を取り出した。それは銀の銃弾が込められた散弾銃だった。幼女は泣き出した。また痛めつけられるのかと。せっかくのチャンスを、力及ばず不意にしてしまったのだと。


「…………」


 幼女はもう言葉も出なかった。




 幼女の体はそれからも何日も痛め付けられた。度々同じようなチャンスを与えられたが三日間経ったと思えば五日に増やされたりして、結局二の舞と演じることになった。幼女はこの地獄が抜け出す事は出来ない。ただただひたすら痛め付けられる毎日だった。

 ただ一つ変化が起きた事と言えば、縄の魔法陣が、幼女の魔力と混じり合い、弱まり始めた事くらいだった。

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