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第一次試験

郁子と私は内幸町にあった元のNHK本館の前で待ち合わせて試験に臨んだ。


応募者が1000人くらいと聞いてはいたけれど、確かにすごい人、人、人。

受験番号が郁子の次の私は恐る恐る郁子についていった。


「こちらへ座って、前の人が進んだら一人ずつ前へ進んでください」と言って示されたのは50メートルもあろうかと思われる長い廊下の片側にならべられたベンチだった。

いちばん先頭の人が呼ばれて部屋へ入ると一人ずつ前へ席をずらしていく。

一次試験に合格した人には二次試験の要綱が渡されるとのことだったが、

出てくる人、出てくる人、それらしいものを持って出てくる人はいない。

手ぶらで出てくる人ばかり。

要綱らしいものを持って出てくる人はなかなか現れなかった。


「なんだか、難しそうね。

だれも、紙を持って出てくる人いないわね。」


「ほんと!」


私達がベンチに座ってから、10数人目の人が初めて要綱らしきものを持って出てきた。


「あの人、受かったんだ!」


それにしても、テストの時間は非常に短く、おそらくは2~3分で次々に人が入れ替わるので、あんなに大勢の人が並んでいたのに、いつの間にか、私達の番になってしまった。

まずは、郁子の番号が呼ばれて、郁子が部屋に入った。


(どうか、紙をもってでてきますように!)


願っていると、数分後に郁子が扉から姿を現した。

笑顔だった。

なんと、右手にはしっかりと紙をもっている。


「ヤッタネ!郁子!」


そういう間もなく、私の番号がコールされ

私は慌てて、ドアを開けた。

およそ3畳くらいの部屋が、目の前に現れた。

部屋の中央には机が一つ。

机上には卓上のマイクロフォンと、B5くらいの紙が置かれており、

その紙には、数行の文字が印刷されていた。


おそらく隣がモニタールームになっているのだろう。

その方角から、「その原稿を読んでください。」との声。

私はさっそく読み始めた。

もう郁子が合格したのだ。

私の役目は終わった。

だから早くこの試験を終えて、郁子とお祝いに行こうと考えていた。


「八幡神社の境内を抜けて・・・」


確かそんな言葉から始まる文章だった。

「はちまんじんじゃ」しかしこの字は「やはた」とも読める。

まあ、どちらでも良い。とにかく読んでしまおう。

そして3分の2ほどを読み終えた時、


「はい。そこまでで結構です。お疲れさまでした。」と声がかかった。


これで終わった。と、椅子から立ち上がり、ドアへ向かった。

すると、


「一寸、お待ちください。お渡しするものがあります」という声と共に、


隣の部屋へ通ずるドアが開き一人の男性が現れた。

その人は手に持っていた紙を差し出すと、こう言った。


「この用紙を持って行って、2次試験の手続きをしてください。」


一瞬、私は何が起こったのか見当もつかなかった。

ポカンと口を開けていたかもしれない。

おそらく、まるで夢遊病者のようだっただろう。


ふらふらと受験室を出た私を待っていてくれた郁子は目ざとく私の右手に握られていた紙片に眼をとめた。

そして、驚いたように、


「受かったんだ!」


そう、言うなり私の腕を掴むと、エレベーターホールへと急ぎ足で歩き始めた。エレベーターに乗ると、


「さあ、二次試験の申し込みに行こう」と郁子は言った。


それでも、私はまだ腑に落ちなかった。

たった数行を読んだだけで?

合格?

なんだかおかしい。


それでも、二次試験の申し込みを済ませて家路をたどるころには次第に一次試験に合格したこと、そして、二次試験は筆記試験で早稲田大学で行われることが少しずつ呑み込めてきた。


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