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どこかの。だれかの。  作者: 下鴨哲生
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1.あなたのことが

「あなたのことが好きです」

 十年前。そんな言葉すら口にできなかった。

 キミのことが好きだと、僕は自分でわかっていたのに。そんな言葉すら口にできなかった。

 代わりにキミがくれた言葉、僕は今でも覚えているんだ。

「私たちって未熟だよね」

 なぜキミがいきなりそんなことを言ったのか。その言葉の意味はわからなかったけど、妙にその言葉が頭の片隅に残っていた。

 ずっと一緒にいて、たくさんの思い出がある。それでも、お互い友達から抜け出す勇気がなかった。

 それは卒業するまで続き、結局そのまま。僕は就職し、キミは東京の大学へと進学していった。

 そして月日が流れ、十年後。

 延期になっていた同窓会でキミと再会する。友人たちと他愛ない会話をしばらくしたあと、僕たちは自然と近くの席に座っていた。

 話してみて分かったことはお互いが別の相手と出会い、結婚までしていたということ。僕は就職先で。キミは大学で。僕には子供もできた。

 違う道を歩きだした僕たちはその道の最中(さなか)で多くの人と出会い、そのうちたったひとりの大切なひとを見つけ、家庭を持った。

 そういう立場になって、キミと話す。なんだかふわふわとした不思議な感覚。昔とは違う感覚。

 時間は人を良くも悪くも変えてくれる。

「私たちってまだまだ未熟だよね」

 キミが言った。

 僕は静かに息をのんだ。そしてすぐにふっと微笑む。

「少しぐらいはよくなったさ」

 僕が自慢げに言うと、キミは小さく笑った。

 そう。少しくらいは勇気だってあるよ。

「あなたのことが好きでした」

 伝えたからってなにか始まるわけでもない。お互いに守るものがある。これでもう一度恋が芽生えるなんてドラマの中だけの話だ。

 それでも伝えようと、伝えたいと思ったのはただの僕のわがままだ。ひとりよがりで自己満足な十年越しの過去の清算。

「やっぱりまだまだ未熟者ね」

 なかなか認めてくれないキミと一緒に僕は声を上げて笑い合った。

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