第3の雄猫登場にゃ
亜矢が帰り、化けねこカフェに日常が戻った。
深雪は父親からもしぶしぶ承認を勝ち取り、寅之介が不在のまま晴れて二人は婚約者となった。
そして、おめでたい話題がもうひとつ。
シロの懐妊である。
『妊娠していますね。』
既に乳首の色や膨らみがあったので分かっていたが、篠原医師の診察を受け改めて確認をした。
『寅さんも遂におばあちゃんになったか。』
シロの子どもという事は寅之介の孫となるが、実感があるわけがない。
『シロの子どもたちにおばあちゃんとは呼ばせにゃいのにゃ。』
寅之介は亜季が帰ってから、徐々に元の姿に戻った後の事を考える様になった。
婚約者の深雪を傷付けないためにはどうすべきかというのが寅之介の根底にはある。
『ただいまにゃ。』
『お帰り、どうだった?』
病院から帰ると深雪が出迎えるが、寅之介は深雪を意識して目を見る事が出来ない。
『妊娠しているにゃ。』
『本当?良かったね!』
シロの身体の変化で分かっていたとはいえ、病院でお墨付きをもらえると嬉しいのだ。
猫の懐妊を喜ぶ深雪を見て、本当は自分に置き換えて早く子どもが欲しいのではと思っているのではないか?
『……深雪ちゃん……。深雪ちゃんも自分の子ども欲しいかにゃ?』
今まで考えてみた事もなかった想いをぶつけてみた。
『寅ちゃんは、今は気にしないで良いから。先の事はその時が来たら考えよう。』
自分と寅之介の母親の前で堂々結婚をしたいと言い放った深雪に対し、逃げている自分が恥ずかしくなる。
『……ごめんにゃ……。』
寅之介は涙を流した。
『もう。寅ちゃんは寅ちゃんなんだから。気にしないで。ほら、猫ちゃんたちが見てるよ。』
親猫としてますます恥ずかしい気持ちが込み上げ、寅之介の涙は止まらなかった。
『こんにちは。』
カフェに、客には見えない男性の二人組が訪ねてきた。
『いらっしゃいませ。』
『保健所の生活衛生課動物担当の渡辺と原田です。今、猫を飼っている家を訪ねて調査しています。』
『ご苦労様。ウチは今、雄4匹と雌2匹います。』
里沙が答える。
『避妊・去勢手術もみんなやっている様ですね。……いや、猫カフェを経営されているお店に失礼ですが、一応確認しなければならないので。』
二人は店内にいる猫たちを目で追い、手術した猫を判別する耳の切れ込みを見て里沙に説明した。
『大丈夫ですよ。ウチは定期的に健康診断やワクチン接種もしています。今繁殖の為に一匹だけ避妊しない雌がいますが、別の室内で飼っています。ちょうどさっき、病院で妊娠を確認したところです。』
『ご協力、感謝します。保健所でも、野良猫対策としてTNRを進めていますが、最近この近所にTNRをしていない猫が増えています。』
TNRとは、Trap(捕獲)Neuter(不妊手術)Return(元に戻す)の略で、昔の様に殺処分をせずに捕まえた猫に手術を施した後は元の場所に帰す保健所も増えている。
野良猫でも避妊・去勢手術をしていれば自然に数は減るという考えだ。
一方で産まれた猫を棄てる飼い主は多く、現実はなかなか野良猫の数が減っていない。
『私たちも協力します。』
保健所の職員が帰ると、暇になった。
『深雪ちゃん、お使いお願いしていい?』
『はい、行ってきます。』
深雪は駐車場で車にエンジンを掛けると、野良のトラ猫が駐車場から逃げ出した。
(あの猫、耳に切れ込みがない。やっぱり最近、野良猫増えているみたい。それにしてもタロそっくり。タロの父親だったりして。)
トラ猫は身体が大きく、一目で雄の成猫と分かった。
(なんか強そうな猫ね。)
深雪はカフェに帰ると、里沙と寅之介に雄トラの話をする。
「タロの父親ってあんな感じかな?オオシロたちは知ってる?」
寅之介はシロとハチの父親で、元は野良猫だったオオシロとオオハチに聞いてみた。
「タロの父親?……ヤツが帰ってきたのか?!」
2匹とも、急に怯え始める。
『あら?どうしたの?』
里沙は急におかしくなった2匹の様子を寅之介に尋ねた。
『トラ猫の話をしたら急に怯えたにゃ。やっぱりタロの父親かもしれないにゃ。』
『もう少し詳しく聞いてみてよ。』
どうも雄トラと2匹の間に何か隠された過去があるみたいだ。
『2匹とも怖がっちゃって話してくれにゃいにゃ。』
オオシロとオオハチは雄の癖に臆病な猫だった。
その晩、夢の中にトラの間が現れ、寅之介はトラと分かれて会話をする。
『確かに、あれはタロの父親です。』
トラは交尾した相手なのでよく分かる。
『そうなの?それじゃあカフェで一緒に暮らせないかな?』
オオシロとオオハチ同様、タロの父親である雄トラも化けねこカフェで飼えば良いと寅之介は思っている。
『出来ればあの方には関わらない方が良いです。』
『なんで?』
『あの方は凶暴な性格で、街の秩序を乱します。私も一方的にやられました。』
交尾がお互いの合意ではなかったというのはショックだった。
『タロなんかあんなに弱虫なのに。』
『風来坊な野良猫と、最初から飼われていて子どものうちに去勢された子は全然違いますよ。』
産まれてからずっと一匹で生きてきた野良猫とは違い、タロは過保護に育っている。
『私は何か起こる様な気がしてなりません。寅之介さん、充分気を付けてください。』
トラは意味深な言葉を残して同化した。




