テクニシャンにめろめろなのにゃ
オオシロとオオハチは、直ちににふれあいペットクリニックに入院し、身体の洗浄、精密検査、ワクチン接種を経て去勢手術をした。
寅之介が聞いた話では、2匹とも近所の雌猫には手当たり次第種を撒いて、自分の子どもは何匹もいるらしい。
しかし、もう子種はばら撒けなくなった。
「どう、調子は?」
「まだ動くと痛いけど少し良くなったみたい。」
雄猫であるが、雌の寅之介には従順な2匹である。
「早く良くなってね。退院したら、お仕事頑張ってもらうんだから。」
まるで寅之介や深雪に対する里沙の言葉みたいだった。
自分にも里沙と同じブラックな血が流れている事に不安を覚える寅之介である。
化けねこカフェは大盛況で、手術を終えたオオシロとオオハチは退院してすぐに現場に投入された。
「おはようございます。今日からオオシロさんとオオハチさんがカフェのスタッフに加わります。オオシロさんはシロのお父さん、オオハチさんもハチのお父さんです。みんな、仲良くお願いしますね。」
開店前に猫だけのミーティングで2匹は紹介され、今日から5匹体制となる。
『もう少し、増やしたいわね。』
猫カフェとしたらまだ猫が少なく、里沙は10匹くらいにはしたいと考えている。
『人手も増やして欲しいんですけど……。』
深雪が嘆いた。
里沙は調理やドリンクを作るため、ほとんどカウンターから出る事はないし、寅之介も出来る仕事は限られているので実質ホールは深雪だけしかいない。
『そうねぇ。アルバイトを募集してみるか。』
早速、店の中と外に猫好き店員募集と書かれたビラが貼られた。
化けねこカフェの客層は全体的には若い女性が多いが、平日の日中は主婦だったり、土日になると親子連れもやって来る。
単独で入店出来るのは高校生からとなっていて、平日夕方になると制服姿の高校生も来店する。
『いらっしゃいにゃ。学生さんですかにゃ?』
ブレザーの制服を着た男子高校生が一人でやって来た。
『注文はにゃににするにゃ?』
『ブレンドコーヒーをお願いします。』
店の中では靴を脱いで、客は座椅子に座って飲み物を待つが、深雪がコーヒーを運んでくると、既に男子高校生はタロをあやしている。
『上手いね。家でも猫飼っているの?』
『うち、マンションだから飼えないんです。今まではテレビの猫番組とかネット動画で見ているだけでしたからこうして猫に触れたりしたのはほとんど無いんです。』
『へぇー、その割には上手だね。猫好きなんだ?』
深雪が感心すると、次第に高校生の目が輝いてきた。
『はい。本を読んで猫と仲良くなれる勉強をしています。』
タロはすっかり高校生に馴染んで気持ち良さそうにしているが、他の猫も相手をして欲しいと待っている。
『部活とかやっていないんなら、ウチでバイトしてみない?』
『そうにゃ。働きながらいっぱい猫に触れるにゃ。』
こんなに猫が好きなら大歓迎だ。
『ありがとうございます。……だったらひとつ、お願いしたいんですけど。』
高校生は寅之介に向かって聞いた。
『寅さんも触って良いですか?』
寅之介は忙しくて他の猫みたいにじゃれたり出来ない状態が続いていたが、ちょうど今なら余裕がある。
『良いにゃ。』
寅之介が高校生の前に寝転がると、高校生のテクニックに悶え始めた。
『ふにゃっ、……気持ち良いにゃ。……最高にゃ。』
寅之介も深雪も、この高校生に是非店のスタッフになって欲しいと思い、スカウト活動に熱が入った。
『名前、教えてくれる?』
『平野恭太郎です。東野高校の一年生です。』
女性客が多い店なので、男子高校生というのは意外だったが、高校一年生でまだ幼さが残っているし、言葉遣いも丁寧なので接客は問題ないだろう。
『恭太郎くん、是非ウチに来てよ。』
『すみません、取り敢えず親に聞いてみないと……。』
恭太郎は即答を避けたが、二つ返事で後から駄目でしたと言われるよりは信頼出来る気がした。
『待ってるにゃ……。』
あまりの気持ち良さにぐったりしていた寅之介が、声を振り絞ってエールを送る。
翌日夕方、店に電話が鳴り、里沙が受話器を取った。
『はい、化けねこカフェです。あ、はい、平野恭太郎くんね。』
里沙は昨日の一連の流れをカウンターの中から眺めて知ってはいたが、深雪に任せて一切口は出していない。
『そう、それは残念ね。ちょっと待ってね。』
里沙の口振りから、恭太郎は親を説得出来なかったと分かる。
『もしもし、代わりました、深雪です。……謝らなくて良いから。……え、そうなの?』
単に高校生だからとかの理由ではなさそうだ。
『どうしたにゃ?』
『恭太郎くんのお母さん、大の猫嫌いなんだって。』
今まで、自宅で猫が飼えなかったのはマンションだからという理由もあるが、恭太郎の母親が猫嫌いで、その為か恭太郎が小さい頃から猫に近付かせなかった様だ。
『でも、恭太郎くんは猫が好きなんだきゃら、お母さんは関係ないのにゃ。』
『お母さんに直接説得出来る?もしかしたら猫アレルギーで、自宅に猫の毛が着いた服で帰ったりしたら反応しちゃうのかもよ?』
里沙は冷静に分析しているが、深雪は諦めきれない。
『分かった。お店が終わったら、恭太郎くんの家に行くから。』
深雪は電話を切った。
『ちょっとそこまでやる事はないんじゃにゃい?高校生なんにゃし。』
寅之介は深雪の暴走を止めようとするが、深雪は諦めない。
『私は恭太郎くんの熱意を冷ましたくないの。寅ちゃんも一緒に来てくれるよね?』
『寅も?只でさえ猫嫌いにゃのに、こんなのが行って良いのきゃ?』
そう言って寅之介は里沙の方を向いて助け舟を出すが、里沙は呆れた顔で一緒に行ってやれという仕草をする。
『にゃんだかにゃあ。』
深雪は店で出している菓子を箱に詰めて、土産を用意した。




