悪霊左府編第7話
長らくおまたせしました、悪霊左府編7話。
物語が急加速し、様々な謎が深まり、解き明かされていきます。
死にたいと思わない夜は無かった。
もし、私がもっと強ければ。もし、私が存在しなければ。
大切な人を亡くすことも、一生消えない負の刻印も押されることもなく、フラッシュバックに悩まされることも無く。負の感情に苛まれることも無かっただろう。
あの時の私は、弱かったのだ。死に行く大切な人を見送る事しか。縁者として、大切なあの方を殺して、暴走から止めることしかできなかった。
何が正しく、何が正解なのか、それとも不正解なのか、あのころの私は、理解こともできなかった。
何が正しく、何が正解なのか、何が不正解なのか分からないこの世界で、もう、私のように、負の刻印が押される人を。負の感情に苛まれる人を1人でも減らすために。私は、その刃を振るう。
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光莉は意を決して、パラパラとノートのページを貪るようにめくっていく。
やがて、あの咒を見つけると、貪るようにページをめくる手を止めた。
咒の名は、「隠形方術」――。
その名を心の中で反芻すると、クラっとめまいがした。
心の臓の動きが激しくなり、息が乱れる。
脳裏をやがて、走馬灯のように、5年前の忌まわしき、情景が掠めていく――。
人を蔑むような、何対ものの瞳。真っ赤な血で濡れた短刀。返り血を浴びた、手を呆然と見つめる、妙齢の女性。
そして、
人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人……。
息が乱れ、心の臓の動きが激しくなると、やがて光莉は、音を立てて、膝から崩れ落ちるように、倒れる。
意識を失い、息も絶え絶えになりながらも、手の先にあるのは、無造作に開かれた1冊のノートであった。
それでも、息の乱れは、元のようには戻らない……。
✄------キリトリ------✄
自分付きの牛飼い童の光丸に、引き連れられ、牛車の方へ、1歩1歩足を進めて、向かっていく
やがて、牛車が見えてきた。牛は、光丸気づくと、尾をちぎれんばかりに振り、嬉しそうにこちらに駆けてきそうな勢いで激しく嘶いている。
牛に光丸が駆け寄ると、嬉しそうに舐め始める。
通り越しに、舐められた。舌はとてもザラザラしており、分厚かった。
そのまま、牛車に乗り込み、光丸が物見から、少し中を覗き込み、顕光が乗り込んだことを確認し、牛を動かし、家路につき始めた。
牛は嬉しそうに、嘶き、ゆっくりと、邸の方角に向けて、ゆっくりと歩を進め始めた。
ゆっくりとした、規則だしい歩調に体をまかせていくうちに、やがて、まどろみながら、顕光は夢の中へ、落ちていく……。
✄------キリトリ------✄
光莉は夢を視ている。心の臓が激しく蠢き、乱れた呼吸の中。
夢の中で、人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。
見知らぬ人達。
だが、既視感を感じる瞳。
人達は、寸分も違わず恨み、蔑むような瞳を、この身に向けてくる。
やがて、先頭にいた男が、口を開く。
「愚か者。罪人。お前なぞ……。」
その男の言葉に呼応するように、周りの人々も口々に口を開き、「罪人。お前は愚か者だ。」
どんどん、人々の罵声が熱を帯びていく。
現実出みたような、情景に魘され、やがて光莉は、夢の世界から、現の世界に戻ってきていた。
身体中にじっとりと、冷や汗をかき、心の臓の動きが激しい。
光莉は、ゆっくりと息を吸って、吐き、息を吸って、吐き、やがて呼吸は規則正しく、脈をうつようになる。
ふと、傍らに無造作に、開かれたまま置かれているノートに目を落とすと、「隠形方術」の文字が目に入った。
息も絶え絶えに、意を決して文章に目を走らせていく。
✄------キリトリ------✄
水を纏わせた衝撃波が、水しぶきとともに飛んでくる。
それを、すんでのところでかわし、刀を構え直す。
そして、咒を唱える、
「とってもありがたき軻遇突智神。我に力を貸したまえ。弱鬼怨霊を祓えたまえ。急急如律令」
そう、咒を唱え終えたとたん、刀の刀身に、焔が帯び、刀身に焔を纏わせた。
幻想的に炎が揺らめき、色形を次々と変えていく。
刀身に纏った焔は、軻遇突智神の焔。産み落とされた歳に、母神・伊邪那美命の身を焼き、焼死させたという伝説を残す焔。
生きとし生けるもの、万物を焼き尽くして、罪をも浄化する地獄の業火だ。
ひかるは、上段に構え、下段にかけて刀を真っ直ぐ振り下ろす。すると、悪霊の方へ、焔を纏わせた衝撃波が飛んでいく。
しかし、彼は、焔を軽くあしらい、何も無かったかのように、消してしまった…。
「!?、?え……」ミチカが息を呑む気配が伝わってくる――。
✄------キリトリ------✄
あの時と同じだ。5年前のあの忌まわしき事件と同じだ。
生きとし生けるものを焼き、罪をも浄化する、軻遇突智神の焔を消せるのは、水神罔象女の繰り出す、水のみ。
そして、5年前よりも水神罔象女の気配が、ビンビンと伝わってくる……。
この状況を打開する方法は、あの方法しかない……
だが今は……。
ミチカはこの、どうしようもない状況に置かれている状況であることを悟り、唇を少し噛んだ。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
5年前の忌まわしき事件が走馬灯のように、駆け巡っていく。
償っても償いきれぬ過ち。
もうあのようなことは起きて欲しくない。起こして欲しくない。
自分と同じように、「縁殺」の烙印を、左腕に押され、後ろ指をさされ、揶揄されながら生きていく、屈辱を味わう人がふえてほしくない。1人でも減って欲しい。
だけど、あの場に残された、霊気は、まぎれもなく、あいつの霊気だった……。
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