悪霊左府編第4話
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悪霊左府編 4話
『やっと来たか。待ちわびてたぞ。』
その声は、いつの日にか聴いた懐かしい、あの声……。
あの声は……。いつの日にか再び、話したいと思っていた、あの人の……。
懐から左で呪符を取り出し、手刀で構え、呪符を持ったまま左手で小さくセーマン描きながら詠唱する。
「八隅八気、五陽五神、害気を攘払し、悪鬼を逐い、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る。霊光よ我を照らしたまえ。」そう詠唱し、呪符に息を吹きかける。
すると、呪符は闇にとけ、代わりに手のひらサイズの光玉が出現した。
光玉は、あたりを放射状に照らしていく――。
段々と人影の顔が少しづつ。そして、着々と光玉の放射状の光に照らされていく――。
口元が光に照らされ視える。不自然に口角が上がり、口端から一筋の紅の筋が流れているのが分かる。
光玉はどんどん照らしていく――。
鼻筋、瞳とどんどん顔が顕になっていく。 目は血走り鬼のような形相になっており、瞳には生気がない。
だが、面影はあの人と変わらない。だが、あの方と格段と違う所がある。それは――。
そう思った時、彼から負のオーラが増大する。それは、疑いようもない彼の応えであった。
彼は、口端を不自然に上げながら厳かに口を開く。
『ひかる。久方であるな。元気だったか?』
そう語り掛けてくるが、明らかにいつもの彼とは違う。
いつもの彼はもっと気さくでフレンドリーな人であった。
だが、声色はいつもの彼。ひかるは呆然として、何も応えることはできていない。
すると、再び彼は口を開く。
『この依代は、とても居心地が良い。乙森葵の依代こそ、我に相応しい、唯一、我を宿らせることができる器である。』
そう言い、口角を怪しげにつり上げる。鮮やかな紅の筋が、たらりとたれ、大地に音もなく滑り落ちた。
最悪の事態が起こってしまった……。
『ミチカ、あの悪霊……。なんで、葵くんが……。』
そう心の中でミチカに伝えようとする。
だが、その刹那。彼の発言により歯車が狂い出す。
『あー。なんで葵が我の器になっているのかが知りたいのか?教えてやろうか?聞くのをやめてもいいが……。拾秒だけ待ってやる。それまでに応えな。』
え……。この悪霊、心が読めるんだ……。
『ああ。言い忘れていたか。我はお前の考えなど全てお見通しであるぞ。蟻のように小さな思考さえもな。我は、道満様に力を与えて頂いたのだから。
さあ。早く決めな。もう拾秒をすぎるぞ。拾秒を超えたら……。そうだなあ。ひかる。お前も我の器となるがいいさ。居心地がいいかは分からぬが、ひかる。お前は乙茂内家の当主なのだからな、お前の器はそんじゃそこらの払い屋とは違うのだろう。』
彼はそう言い、再び口を閉ざす。
ひかるは嫌な予感を覚え、鞄の中から、一振りの名刀を取り出す。
その刀は、天下五剣の一振と数えられ、最も美しいと評される。『三日月宗近』である。『三日月宗近』を、鍛えたとされてるのは、「三条宗近」。彼は三条派の中でも素晴らしい腕の持ち主であったと謳われ、語り継がれている。
ひかるはゆっくりと鞘から刀を抜き、上段に構える。
光玉の光によって、打ちのけの綺麗な三日月が煌めく。
すると、ミチカが刀に吸い込まれるように、闇にとける。
ミチカが刀に憑依するのと同時に、刀身から、霊気が湧き立つ。
霊気は七色に色を変えながら、美しく、そして、神々しく輝いている。
ひかるが刀を構えたのを見定めると、彼は腰に差していた、刀を抜く。
それは、ひかるにとってどこかで見た事のある。デジャブを感じる刀であった――。
✄------キリトリ------✄
ひかるたちが、隠り世に誘われ姿を消した。
轟原光莉。彼女は隠り世に誘われずに一人取り残された。
その事に気づき、彼女は焦燥感に駆られた。
自分の力不足に嘆き、そして、慟哭する。
隠り世には、霊から誘われた者しか赴くことは出来ぬ。そう言われていた。
だが、しかし。実際のところは、一つだけ隠り世に赴く方法がある。
それは、数ある禁咒の一つであり、平安の世に乙茂内家の初代当主「乙茂内清孝」が、主である「安倍晴明」から賜ったとされる、咒集・「五陽霊神集」に、記されているが、過去のとある事件により、長い間詠唱することを禁じられている咒だ。
この呪法は、「隠行方術」
と呼ばれ、術者の膨大な霊力が必要となる故に、とても危険が伴う。
そして、膨大な霊力が必要となる故に、現世で「隠行方術」を扱える程の霊力を持つのは、乙茂内家の直系の家系、そして、十二神将直系の家系の者だけである。
よって、現在の現世で扱うことができる、術者はとても少ない。
彼女の、家系の轟原家は、十二神将・朱雀の「印鑰家」の傘下の家系であり、霊は辛うじて視ることができ、軽い咒だけしか使えぬ。
だが、彼女は轟原家の中でずば抜けて霊力が高く、親戚が使えぬ咒も扱うことはできるが、しかし、「隠行方術」を使えるほどの霊力は持ち合わせていなかった。
彼女は、行き場のない怒りと焦燥感に駆られ、唇を噛み、地団駄を踏んだ。
刹那の間。ひかるたちが消えていった辺りの空間が歪んだ。
だが、彼女は気づかなかった。空間の歪みを。
その空間の歪みは少しづつ、そして着々と、蝕んでいく――。
近日、用語集を載せようと思います。気になる用語ありましたら、コメントで教えてください!