1-4 どうやら僕は失敗作らしい
ケイの切られた腕から血が吹き出す。表情一つ変えずにいるケイ。それを横で見て何が起こったのかを理解するのに数秒かかったリキヤは、ワンテンポ遅れて叫び出す。
「け、ケイさんの腕がぁ!」
「何時までそこでぼやぼやしてる! お前が逃げられなければこの戦争は終わりだ! 最後の―」
「おっとおっと、私の前では余所見は禁物と言ったでしょ〜?」
喋るケイを追い詰める謎の男は、とても細い剣を両手に持つ二刀流の使い手だ。狂気に満ちたその顔は殺すことを楽しんでいるかのような表情だった。
「クソッタレ。なぜ貴様らはそうも本物を狙う!?」
「簡単です、使い物になるからですよ〜」
「貴様らのせいで……何人の人が犠牲になったと思ってる!?」
「犠牲ではありませ〜ん! 彼らは私共の為になっているので〜す! 魔王様の為、神のため、我々の為にとっても役に立つので〜す!」
その言葉にケイは激怒する。片腕というハンデをもろともしないような剣さばきで、謎の男の剣を片方を真っ二つに折る。
「おや?」
みるみるウチにケイの剣さばきの速度は上がっていき、更にもう一本の剣を弾き飛ばした。
「まずいですね〜!」
跳躍して逃げようとした所をケイは追い詰めようとする。だが、何かを察知したケイは同じように後ろへ跳躍し、距離をとる。いつの間にか出血は収まっており、息一つ切らしてはいない。
「流石に気づきましたかね〜?」
「見えすぎた罠に引っかかる程やわな鍛え方はしていない」
「そのガキを守るのに必死になるのは構いませんが、それをしてられるのも時間の問題で〜す」
「チッ……ダメだったか……」
「そのガキが逃げていれば、もっと楽しめたものを……ま、我々としてはありがたい限りなのですがね〜?」
「はぁ……逃げろと言ったのに、何故そこで尻もちをついたまま動かない?」
呆れられたような声にリキヤはなんの反応も出来ない。力がない自分を殴りたくて仕方がなかった。だが、それを行うことも出来ないほどに怯えていた。
「この村の住人は……まだそう遠くへは行ってませんね。なら、そのカス共は本体に任せましょ〜! 私は貴方と楽しみたいで〜す!」
「悪いが、ここは引かせてもらう。コイツは師匠に届けないとならないからな」
ケイは剣をしまい、指笛を鳴らす。その瞬間を見逃すほど馬鹿ではない相手は、距離を詰めようと地面を蹴る。だが、ケイの顔を見た瞬間顔色を変えて元いた場所へ戻って行った。
「貴方、さっきのはわざと……本気ではない?」
「本当は力を出したくはなかったんだが……まぁ仕方がない。腕一本と剣片方では釣り合わないからな」
「ほう、私の腕をご所望で〜?」
「ああ。もうここにある」
「へ?」
ケイの左手には確かにどこかしらから現れた腕があった。そして、相手の腕が片方もぎ取られていた。
「貴様なにを……」
「口調が変わってるぞ? 焦ってるのか?」
「なにを……調子に乗るな……」
ケイの挑発にまんまと乗せられた相手から、黒い靄の様なものが出現する。それは体の周りを覆い尽くし、少し景色が歪んで見えた。
「オーラがこんなにも濃く……やはり貴様らは危ないな」
「殺して差し上げましょう、一瞬で」
相手が動きだそうとした瞬間、突然巨大な影が空を辺り一体に出現し、動きが止まった。リキヤもその突然の出来事に空を見上げると、そこには全長50メートル以上をも軽々と超える大きさの龍が飛んでいたのだ。
「りゅ、龍!? 何故ここに!?」
「貴様のお望み通りとは行かないぞ? こいつが跡形もなくお前ら本体を焼き尽くしてくれたから」
『ほんと龍使いがあらいったらありゃしねぇ。後で金は貰うからな、ケイ』
「はいよ」
突然の事だらけで頭がパンクし、リキヤは目の前がグワンと歪みだし、そのままバタリと倒れてしまった。
「お前オーラ出しすぎ……リキヤ倒れちゃったじゃん」
『こんな程度で倒れる程の人間に、お前の腕一本分の価値があるのか?』
「あるね、これは未来への投資だよ」
「なにをゴチャゴチャと……」
隅に追いやられた相手は、負けてなどいられないといった顔でケイへ襲いかかる。だが、その前に龍が着地し、相手の前へ立ちはだかった。
「邪魔だ龍!」
『時間の無駄だ、雑種』
軽く一息。ホコリを払うかのように吐いた息は、嵐のような突風を巻き起こし、相手を数十メートル先へ吹き飛ばす。
『お前、こんな相手にやられたのか?』
「フリだよフリ。お前俺のこと知ってるでしょ?」
『性格の悪い奴だ……』
ケイが龍の背中に飛び乗ると、龍は離陸する。龍は、起き上がろうとした相手を睨むと、龍は口を大きく開いた。そして、口の前に魔法陣が出現した瞬間にとてつもない大きな落雷が目標目掛けて落下した。
その魔法が落ちた場所は、ポッカリとクレーターが出来上がり、死体は跡形もなく焼け焦げて無くなった。
「さぁ、帰るか」
『貴様で片付けやがれ、このクソッタレ』
龍とケイはそんな言葉を交わし、その場を飛びさっていった。