1-3 どうやら僕は失敗作らしい
あれから話を聞いた。全て。これがもし本当なのだとしたら、多分僕はこの世界に来たこと自体が失敗だったのかもしれない。
第2の人生と彼女は言った。人生? 否、2回目の死亡体験とでも言い替えた方がいいだろう。
間違っていた、与えられた情報が。自惚れていた、自分が強くなれる転生者だと。その内容はこうだ。
まず1に、ここへ送られる際に出会った女性に偽物がいる事。これに関してはもう止めることなど不可能らしく、来るもの皆を疑わなければならないらしい。
偽物の転生者に見られる傾向として、かなりステータスを盛った状態で送られてくるとのこと。皆その力を過信し、すぐに戦いに出て敵の捕虜や奴隷として扱われるらしい。
第2に、転生者自体を敵だと思わせるような情報を焼き付けられるという。ケイはそれで1度、仲間に裏切られ酷い目に会ったと言う。
第3に、どうやらこの世界に来た瞬間から監視をされているという。ケイの仲間が、転生者へ与えられた情報の相違や、ステータスの不正確さを疑問に思った者が何とか探りを入れようとしたが、何日かしてその転生者はモンスターに食い荒らされていたという。
そして厄介なのが、それを容認している上の存在。ケイ達は神と呼んでいるが、その神達がそれを知っているにも関わらず黙って見過ごしている事だ。
普通なら、それに気づいて何らかの行動を起こすはず。でなければ神側が魔王軍と繋がっているという風にも捉えかねない。
本当にそうだとしたら、我々転生者はモンスター達の実験モルモットとして送られたタダの道具としか思えない。
ケイはこう言っていた。
「俺の事も疑え。俺も操られているかもしれない。それか今後操られるのかもしれない。だから、俺を疑え。そしてもし、俺が何かおかしな行動をしたら、迷わず殺してくれ」
そんなの無理だろう。ステータスに差がありすぎる。リキヤはほぼFでケイはS。与えられた事が嘘にしたってそれでも差はかなりあるだろう。
でも、ケイはこうも言っていた。
「お前は所謂失敗作だ。だがそれは好都合かもしれない。これは俺の推測だが、お前は多分本物に送られてきている。その証拠にステータスの表示がハッキリとしている。しかも、運が悪いのか良いのか雑魚ステータスだ。そんな転生者を監視したところで意味は無い」
少しムカッとしたが監視されていないなら話は別だ。僕は自由に行動出来る。
他にも多くのことを聞いた。モンスターが強すぎるのは転生者を実験に使い強化している事や、各国の王は神と繋がっているかもしれないとか。
不確定要素満点のこの話だが、どうもケイが嘘をついてるように思えなかった。もし嘘なら大した演技力と想像力だ。
話が終わった後は、ケイは少し疲れた様子で自室に戻った。リキヤは、その話が嘘か本当か悩んでいる途中で眠りについてしまった。
翌日の朝、鳥のさえずりで目を覚ましたリキヤは、カチコチになった背中を伸ばして大きな欠伸をすると、集会所へ向かおうと身支度を進めていた。
「今日はどんな話をするのかな〜。モンスターが恐ろしいから守って欲しいとかかな?」
ブツブツと独り言を喋りながらも支度を終え、集会所へ向かうと、そこにはもう既に多くの人が集まっていた。そして、どの人も険しい表情でケイの顔を見ているのだった。
「どうしたんです?」
「いやな……どうやらこの村はもう捨てないとならないらしい」
「え?」
「昨日の晩の話なんだがね、モンスターの斥候が何匹がこの村の様子を伺っていたらしいんだ。転生者様はそれを察知して退治してくれたらしいが、何匹かは逃げたらしいんだ」
「そんな……」
ここに来てまだ一日、そんな短い時間でこんな状況に出くわすなんて、リキヤは不運の連続だった。ケイの足元には確かにモンスターの死体が転がっている。
それを見てリキヤは少し吐き気を催す。こんな事で吐くようでは冒険者にはなれないとぐっと堪えて、喉まででかかった物をゴクリと飲み込む。
「この村から早く離れよう。今晩中には奴らは来るだろう。だから、早く支度をするんだ」
「そ、そんなことを言っても食料なんて無いし、何より最寄りの村でも最低3日はかかる距離がある! しかも、年寄りの方が多いんだ。1週間はかかると思っても良い!」
ケイと村の若い人らが言い争っている。こんなことをしている間にも、刻一刻とモンスターは迫ってくる。ここは何とかしないとならない。
「あ、あの、僕も賛成です。逃げほうが良い」
「でも! ここは我々の大切な場所! そう簡単に捨てられるものでは―」
そう怒鳴っていた男性の首が突然宙を舞う。床にころがったその首から流れた血で池ができる。そして、首から下はまるで人形のようにだらりと崩れ落ちる。
「まずい! 早く逃げろ!」
ケイのその叫び声で村の皆は一斉に動き出す。僕も何とかしなければと、そう思うも恐怖で足が動かない。
「ど、どうすれば……」
「リキヤ早く動け!」
「で、でも足が」
「……!!」
動けなかったリキヤ目の前にいたケイが、瞬きの間にリキヤの背後へと移動していた。そしてその方向へ顔を向けると、謎の黒服の男とケイが剣を交えて睨み合っていた。
「おやおや、貴方やりますねぇ〜?」
「クッ……」
何とか押し返すも、ケイの額からは一滴の汗が零れ落ちる。
「リキヤ、早く逃げるんだ。奴らは本物だ」
「ほ、本物?」
「教えてる暇はない! 早く逃げ―」
ケイがこちらを向いて怒鳴った瞬間を見逃さなかった黒服の男は、一瞬で間合いを詰めケイの右腕を切り落とす。
「隙を見せてはなりませんよ〜、特に私の前ではね?」