1-2 どうやら僕は失敗作らしい
日も暮れ、明日の朝にまた話しましょうと長老に言われ、リキヤは与えられた部屋へ移動する。ベッド何てものはなく、ボロボロの床に薄っぺらい布団が敷かれているだけ。
「これは……明日は腰が痛くなりそうだ」
することも無く、寝ようとした時軽いノックが2度なり、リキヤは部屋へはいるように促す。
「失礼するよ」
そこに居たのは、出会ったばかりで弱いと言ってきた転生者だった。
「こんばんは。どうされたんです?」
「同じ転生者だ、敬語はやめよう。俺の名前はケイ」
「あ、じゃあ遠慮なく。僕はリキヤ、よろしく」
握手をしようと手を出すも、ケイは知らんぷり。部屋に上がり込み扉を閉め、床へ座り込んだ。この態度は何とかしてくれないものかと少しため息をつく。
「それで、何の用?」
「お前のステータスは?」
「え?」
「だから、お前のステータスは?」
「僕のステータスは―」
集会所内で見た残念なステータスを伝えると、ケイは「やっぱりか」と一言いい、額を抑える。
「いきなり会ってその態度か?」
つい堪えきれなくなってリキヤは口に出してしまう。だが、ケイはそんなことは聞いてもいないかのように話をし始める。
「ここは危ない。お前みたいな運が無かった転生者はどこか別へ移ったほうがいい」
「なんで?」
「言っただろ、ここは危ないんだ。聞いただろ、食料の供給が止まったと」
「聞いたけど、それが何?」
「ここは最前線だ。いつモンスターが襲ってきてもおかしくないんだ」
それを聞いたリキヤは少し狼狽えるも、自分には与えられたステータスがあると知っている。
「僕は転生者で、与えられたステータスがある。戦える」
「お前は知らない。モンスターの強さを。奴らの恐ろしさを」
ケイの表情が少し変わる。真顔だった表情が今は少し眉間にシワがより、何か酷い物を見てきたかのような面をしている。
「そんな事を言うけど、君のステータスはどうなんだい?」
外見を見てみると、特にそこら辺の人と代わり映えのない姿で、装備だって付けているようには見えない。武器すら持っていない人からそう言われても、説得力は無かった。だが、ケイが言うステータスにリキヤは言葉を失う。
「俺の総合ステータスはSだ。オールS。見したっていい。そんな俺が言うんだ、早く逃げた方がいい」
「オールSって……ケイがいるなら安心じゃん」
その強さを目にしたことはない。だからSという評価に単純なイメージでそう言った。だが、ケイの表情はさらに険しくなるだけで、目に見えて苛立っていた。
「そんなことは無いんだ……この世界は可笑しい。全てが。何が敵で、何が味方なのかわからない」
「えっと……どういう事?」
「与えられた情報が、与えられたステータスが、全て本当だと、お前は思っているか?」
突然聞かれたその質問は、全く理解できなかった。それもそのはず、目に見えるものがあって、与えられたものがあって、それを疑う事なんてまず有り得ない。
「本当だと思ってるけど、違うの?」
「違う。全くな」
「どこがどう違うの?」
気になるリキヤは、その質問を投げかける。だが、ケイはどこか答えたくないような顔をしている。
「これを聞けばお前は狙われ、俺も狙われる。あいつらは聞いているんだ……」
「はぁ? ごめん、全く話が分からない」
誰が聞いていて、どうやって聞くのか。リキヤの頭の中は謎だらけでパンク寸前だった。
「狙われる覚悟があり、絶望のみの未来をお前は耐えきれるか?」
「なんだその質問……は……」
そのバカげた質問をケイは本気でしている事を悟り、リキヤは唾を飲み込む。だが、気になってしまった以上、リキヤは聞く覚悟を決める。
「わかった聞こう」
「軽い気持ちで聞くな、本気で言ってるんだぞ」
「うん、大丈夫。転生者になった以上、同じ道を歩むのが仲間だからね」
「仲間、か……お前も裏切らないでくれよ、俺を」
「え?」
「いや、なんでもない。話をしようか」