1-1 どうやら僕は失敗作らしい
生い茂る草の中、リキヤは村をめざして歩く。五分もせず着く距離に見えたその村は、あまり口に出して言えることでは無いがボロかった。
木の柵で覆われているようだが、所々壊れている。建物も半分倒壊しているものが大半で、住むというよりは凌ぐ、の方が合いそうな建物が並んでいた。
「人は……何人かはいるな」
柵の間を通り抜け、村をぐるりと一周する。十分もせず元いた場所に戻れるほどの小さな村だ。老人ばかりかと思ったがそうでもなく、若い人達も結構いた。
村を見る中で、ひとしきり大きな建物があり、どうやらそれは村の集会所らしい。そこだけはとてもしっかり作られており、人も集まっていた。
「取り敢えずあそこへ―」
集会所のような所へ向かおうとした途端、1人の老婆が声をかけてきた。
「あんたは……どこから……来たんかね?」
「え、あ、僕? えぇっと……日本から?」
なんて説明したらいいかわからず、ついこう答えてしまった。すると、老婆は嬉しそうな顔をして握手を求めてきた。
「おお貴方は転生者様か……ついにこの村にも救いが来た……」
その手を取るやいなや、ワンワンと泣きながら喋りだし、リキヤは少し戸惑った。
すると、その泣き姿を見た村の皆が続々と集まってきて、最終的には村のほぼ全員がリキヤの周りを埋めつくしていた。
「転生者様か!」
「転生者様がおいでなさったぞ!」
何故ここまで転生者で喜ぶのかは分からなかったが、リキヤは少しだけ喜んだ。自分という存在が喜ばれていることに。
そこへ、1人の武器を持った男性が近づいてきて、頭からつま先を舐めるように見て、こう言う。
「お前は弱いな」
それだけを言い、どこかへ去っていった。
訳が分からず、リキヤは首を傾げてその男性の背中を睨んだ。
「転生者様、許してください。あの方も転生者様なのです。貴方が来る2日前ほどに来て、それからずっとここに居られるのです」
「転生者か……」
同じ転生者がこんなにも早く見つかるとは思ってもいなかったが、どうも彼には嫌われたらしい。
少し悲しい気持ちになりながら、まぁ初めてあったばかりだし、気にしなくてもいいかと腹を括った。
「ささ、転生者様。こんな所では何ですし、椅子に腰掛けて話しましょうか」
そう言われ、リキヤは誘導にしたがった。村一の大きな建物の中へ入ると、そこは外見とは裏腹にとてもボロボロな内装で、思わず口に出しそうになる。
「見た目は良くても中身がね……このザマなんです」
思っていた事を口にしたその人は、白髪頭のどこにでも居そうなおじさんだった。
「長老、そう言うもんじゃありませんよ」
先導してくれた若い男性がそういうも、長老は首を横に降り、ため息を付く。
「この村は捨てられたんだ……だから、こんな貧相な村になってしまった」
「捨てられた……って?」
「簡単な話じゃ。この国の王様が、ここへの食料の供給を止めてしまったのじゃ。食料だけではない。資材や武器などももう来ない」
運良くこの村に来れたと思っていたリキヤも、この話を聞いては落胆せざるをえなかった。先程リキヤに弱いと言った男は、角の席で酒を飲んでいる。彼は何故、2日もここに居るのだろう。
「転生者様、どうかこの村を救ってはくださらないか?」
「え、僕が?」
「そうです。転生者様には力があると聞きました。その力で、我々を救ってはくれないか……」
「そう言われてもなぁ」
そこで、リキヤはステータスの事とユニークスキルの事を思い出す。特典として授けられたその力で、少し役に立てるかもしれない。そう思ったリキヤは、急いでステータスを開いた。
そこに書かれていたのは、何とも言えない程のステータスと、よく分からないユニークスキルだった。
ステータス
名前【リキヤ】
魔力 F
攻撃力 F
防御力 F
精神力 F
敏捷力 E
知力 E
ユニークスキル
【現時点では発動できません】
「なんだよこれ……」
運の要素もないとは言えないが、それにしてもこれは酷かった。ほぼ最低の評価を示していた。努力でどうにかなるレベルでは無かったのだ。
「これは……先が思いやられるな」
ユニークスキルも発動できないと来た。これを見越して、彼が「お前は弱い」と言ったのなら、彼はもしかしたらかなり強いのかもしれない。
リキヤは、角で酒を飲む彼に視線を向け、なんとも言えない目で彼を見つめるのであった。