間違いは無さそうだ
平原だ。
見渡す限りの平原が広がっている。
緑色の光に包まれたと思ったら、私はここにいた。
強制的に瞬間移動をさせられたのか?他者を強制的に別の場所に飛ばす魔法的なトラップを扱う魔物もアイデンには存在するのであり得ない話では無いが、それにしたって不可解だ。
死際にドラゴンが仕掛けたのか?しかしドラゴンにそんな事が出来るとは思えない。
予めあの場所に罠が仕掛けてあり、魔力に反応して発動した、のか?それが一番あり得そうだが……
自慢では無いが、私は単体ならばアイデン全体で魔物や怪物を含めたとしても、トップクラスの魔法使いであるという自負がある。魔法の腕はもちろん、魔法的な干渉にも非常に強い。大抵の魔法は無効化出来る自信があるし、常に対策は万全を期している。
第一、魔法的なトラップならば私は感知できたはずだ。
仮に超能力だとしても変わらない。超能力も魔力を使って超常現象を起こす力であり、魔法と原理は同じ。結果を生み出すまでのプロセスが違うだけで、アイデンにおいて広義的には魔法も超能力も同じものだと私は考えている。私には超能力は使えないが、魔力を使うものなら、私は感じ取れる。
だが、あの緑色の光から魔力を感じなかった。
だからこそ、わからない。魔法的なもので無いなら、一体どうやって?
わからないが、ずっと見知らぬ場所に突っ立ってるわけにもいかない。
とりあえず生体反応感知を使い身の安全を確保する。
近くに敵らしき反応はない。トラップの存在も確認できない。
ひとまず安心し、瞬間移動で元の場所に戻ろうと試みる。
しかし、魔法は発動しなかった。
発動しない??そんな馬鹿な。
何度か試してみるが、結果は同じだ。
確かに他者の魔法の発動を阻害する魔法も存在するが、それをされればすぐにわかる。今はそんな気配はない。
場所の情報を私が記憶さえしていれば、どれほど距離があろうとも瞬間移動は発動するはず。
異常事態である。
しかし発動しないものは仕方がない。不可解だが、今はどうしようも無い。
とりあえず、今私がいる場所を把握しなければなるまい。
空中浮遊を発動し、ある程度の高さまで上って辺りを見渡す。
平原の向こう側に森が見える。更に奥には山が見えた。この地形に見覚えはない。
……少なくとも、ここは私の知る場所ではなさそうだ。
反対方向を向くと、遠くに町らしきものが見える。
町?
千里眼の魔法を使い、様子を伺う。それなりに大きい町で、大勢の人々が活動している姿が見えた。
あれだけの規模の人間の町がまだ残っていたなんて。私は驚愕する。
人間の活動拠点はほぼ全て壊滅したと思っていた。残っているとしてもごく小規模の村くらいのものだと。
あの規模の町なら、すぐに怪物や魔物共に目をつけられて滅ぼされてもおかしくないのに。
町の周りも、特に魔物や怪物達に囲まれていたり襲われているような様子はない。
奇妙としか言いようがない。
ともかく、町の人間に話を聞くべきだ。
そう思った私は、町の付近まで瞬間移動する。
そのまま歩いて町の入り口まで移動する。
入り口には関所らしきものがある。そこに多くの人々が列を作っていた。馬車に荷物を大量に積んでいる人や、商人のような身なりをしている人もいる。
おかしい。現在はもう商売などできるような状況ではないし、大量の荷物を持って拠点の外をうろつくなど考えられない。この辺りに魔物や怪物の類はいないようだが、それにしたって正気の沙汰とは思えなかった。
私は混乱する。本当にここはアイデンなのか?もしや自分は、異世界にでも飛ばされたのだろうか。
世界が崩壊する前。まだ人間が繁栄していたとき、世界はアイデンだけではなく、幾つもの世界が存在する中の一つに過ぎないと論じていた学者がいたが、まさか本当に存在したのだろうか。
もし本当に異世界に飛ばされたにしろ、ここが未知の地であることに変わりはない。今は慎重に行動するべきだろう。
そして、確かめねばなるまい。
まわりへの警戒をしつつ、私は不自然のないようにさりげなく列に並んだ。
順番を待つ間、前に並ぶ商人の様な格好をしている男にアラスティアという国を知っているかと尋ねる。
アラスティアはかつて最も栄えた大国だ。ここがアイデンならば知らないなんて事はあり得ない。
「アラスティア?私は存じ上げませんが」
男の返答は、冗談には聞こえなかった。
間違いは無さそうだ。
ここはアイデンではない。私は見知らぬ異世界に飛ばされてしまった。
アイデンの文化レベルは一部例外を除き中世レベルです。