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15 ケラスィアの記憶 5

「君は可愛みがあるねぇ。とにかくまだその時じゃないから前言った通りに宜しくね」


「………分かりました」


 まだ顔の赤いエアロンが渋々返事をするとエリュシオンはニコッと笑って去って行った。


(俺って結構律儀な人間なんだな)


 別に恩があるとかそう思っているわけではないが、ノイが今暫くはここでこうやって穏やかに唄う日が過ごせれば良いと思ったのだった。


「誰だ?!」


 木の影に人が動く気配がして見ると、知った人物が影から出てきた。


「今のは、エリュシオン様か?」


「……ジェディディア」


 エアロンとジェディディアは特に親しい訳でもないが、修学院の同級生である。


「こんな所で何してるんだ?」


「それはこっちのセリフだね」


 平民落ちしたエアロンがここに居るのはそこまで不自然ではないが、貴族で音楽しか興味がないジェディディアがこんな所にいるのはどう考えても不自然。


「ふむ。唄の上手い子供が居るって聞いて聴きに来た」


「……なるほど」


 実にジェディディアらしい返事だった。


「お前は?」


「エリュシオン様に頼まれた調査だ。詳しくは言えない」


 ジェディディアは「そうか」と言うと、また唄い出したノイの声がする窓に目を向け聞き入る様に目を閉じた。


 雲一つない夜空の三日月が淡い月光を降らせ辺りをほんのり明るく照らす。


「音楽の事以外はどうでもいいんでな」


「…………」


 少し唐突に話し始めたので緊張が過ぎった。

 それは「私はどうでもいいんだが」と言っている様に聞こえる。


「躍起になって探している奴らがいるぞ?」


 エリュシオンの言ってた事を他者からも耳にすれば大分不安になってきた。


「お前は言わないよな?」


「…………」


 ジェディディアは問いかけに返事せず目を閉じて静かにノイの唄声を聴いていた。


「ジェディディア」


「あぁ……聴いてなかった。この種の声の持ち主はやはり心地よいな」


「…………」


(聞いてるじゃないか)


「私はイシュタルの使いが何処に居ようがあんまり興味はない。唄さえ聴ければ充分。だが……そうだな、欲を言えば自分の伴奏で唄って欲しいくらいか?」


 ジェディディアは前から耳が良い。一度聴けば同じ曲を弾け、一度声を聴けば誰の声か当てることができた。

 ジェディディアは去年の祈念式で伴奏をしている。


 サファがいくら姿を変えノイと名前を変えても声までは変えることができない。

 だから、ジェディディアは声を聞いてここに居る子がサファである事に気付いたのだろう。


(気づいたのがこいつでよかった)


 だが、そうは言ってもジェディディアには難点があった。

 良い音を聴くと自制が出来ない。


「なぁ、頼むから俺のいない時にノイの伴奏をしたいとか乗り込まないでくれよ?」


「……努力はしてみよう」


 心配になりエアロンが論うとノイの唄を聴いて気も漫ろな様子でジェディディアか答えた。


(大丈夫か……?)



 夕方2の刻半から夜5の刻までが店が空いている時間。

 その3刻を店の裏手で何故かエアロンとジェディディアは過ごしていた。

 立っているのが疲れてしまいには地面に二人とも座る。


「気が済んだだろ? もう帰れよ」


「帰るのが面倒になってしまって」


 学生時代から本当に音楽以外には全く無頓着なジェディディアはよく講義室や中庭の隅で面倒になったと言って寝ていたのを思い出す。


「頼むから寝ないでくれ」


 意外とそれは目立つ行動なのだ。

 しかも、こんな所に男二人。

 ここに何かあると知らせている様なもの。


「…………」


「おい、ジェディディア!」


 エアロンは焦りジェディディアの腕を掴むと立ち上がる様にと腕を引っ張り、表まで連れて行こうとした。


「あんた達、何なんだい?!」


 話し声が中まで聞こえてたのか、エイティが柄の長い箒を持って立っていた。


「こんな所でこそこそと、エアロン!」


「…………」


 まずいと思ったエアロンは言い訳を考えて無言になった。

 取り敢えず笑っておこうと作り笑顔をすると、エイティは今にも箒で追い返す勢いで睨みつけていた。


「あれ? アンタこの前の」


「唄を聴いていた。ここだとよく聴こえるんだ」


「唄? あぁ、ノイのかい?」


 ジェディディアが隠そうともせず言った言葉はエイティを納得させた様で唄が聴きたいなら次からは店の中に入るように言った。


「分かった、すまない」


「エアロン、アンタもだよ」


「分かりました」


 目的の違かったエアロンもエイティにノイの唄を聴きに来ていたと勘違いされ事なきを得る。

 窓から中を見ると流しにはノイの姿は無く、カウンター越しの店内にノイの頭の先がぴょこぴょこと見え隠れしていた。


「今日はもう店じまいなんだ。あの子は掃除してるから今日はもう唄わないよ。二人とも帰っとくれ」


 エアロンの態度を無言でみていたジェディディアが頷いてこの場から立ち去るのでエアロンもその後をついていく。



 次の日からは、エイティに言われた通りにジェディディアが店内で寛いでいるのでエアロンも同じテーブルに座った。


「お前、毎日来るつもりなのか?」


「聴けなくなる前に聴かないと」


「…………」


 それでも外に二人で居るよりかは、目立たないのでまぁいいかとエアロンは思う事にした。

また。エアロンが可愛くて。


まさかのジェディディアが表舞台に出て来ました。

彼は、『一章11 話 祈念式』に出てきた人物です。「三度の飯よりも音楽が好き」そんな人物がエアロンと再開して……

なんか話が出来てしまいそうです(*´-`)

ここからケラスィアの記憶は段々と佳境になって参ります。


今日も読んでくださってありがとうございました。


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