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10 窃に行われた祈念式 4

「――――と言う事があったんだ」


 昨晩遅くに呼び出しされた事を話すと、二人ともきょとんとした顔をしていた。


「先手打って来たな」


「2日待ってくれれば良かったのに」


 二人ともペルカの管理に問題を感じていたらしい返事が帰ってきた。

 先に言ってくれれば良いものを……


「サファの養子を早くしろ。ね……」


 国王の言った言葉についてエリュシオンが考えている。


「うちに管理させるつもりなんだろうね」


「え?!」


 バウスフィールド家は上流貴族なので本来ならアクティナの領地を統治するはずが、父母は死去して兄は出家、現在邸にはエリュシオンと使用人しかいない。

 そのエリュシオンもアシェルの側近をしておりとても統治をする暇はない。

 でもそれは今現在バウスフィールドに人がいないからで養子で人員が増えれば統治とまでは行かないが何か役回りをさせる事も無きにしも非ずという事らしい。


「クソ親父……」


 アシェルの言葉を聞いたアレクシスがあからさまに嫌な顔をした。


「僕さ、ペルカにちょっと行って来たいんだけど」


「何かするんじゃないだろうな?」


「そんな、うちの問題になる事かも知れないのにのんびりしてられないでしょう?」


「…………」


 アレクシスに厳しく見られるもそれに負けずにエリュシオンは正論をぶつけ黙らせると「じゃ、行ってくるから」と我慢の出来ない子供のような速さで出て行こうとして、またアレクシスと言い合いになっていた。


「二人ともやめろ! エリュシオン任せていいか?」


「勿論」


 アレクシスはフンっと鼻を鳴らした後、エリュシオンにレイと言う少年にいろいろ聞いたらいいと言った。


 アレクシスによると、ペルカに住むレイと言う少年は早朝の仕事を終えると夜からの仕事までの間一度戻ってくると言う。

 割りかしよく聞いて来てくれた事に感心しエリュシオンはケリュネイアでペルカに向かう事にした。


(全く何をしてくれるんだか家出少女は)


 本当にここ最近は飽きない毎日を送れる。

 内心あきれながらも、顔は笑っていた。


(おっと 確かこの辺……)


 エリュシオンはペルカの入り口にを見つけると中には入らずに誰が通らないかと待つ事にした。


 街の色々なところに行っているはずのエリュシオンでも流石にこの辺りだと来た事は無かった。

 少し身を隠すようにして通り過ぎる人を見る。

 つい最近まで凍えるような寒さだった。

 飢えと寒さで死人が出るのも珍しくないだろう。


「おじさん誰?」

 

 その衝撃的な言葉にエリュシオンは顔は笑ってはいたが顔に影を作って声をした方を見た。


(僕をおじさんだなんていい度胸……ん? 双子?)


 輪郭が同じ子供が二つ並んでいた。


「ダメよジム、おじさんを見てもお兄さんて言いなさいってノエル言ってた」


「あ、そうか」


「…………」


 その子供達の話す内容に些か不満だったが絶句している場合じゃない。


「レイって言う子に会いに来たんだけど、いる?」


「もうすぐ帰って来ると思うけど。キトリの使いの人?」


「あー……まぁ、そんなとこ」


 使いと言うか、保護者なんだけど……

 相手にしても仕方ないので適当に話を合わせる事にした。


「レイが偉そうな人が来たらキトリの使いだから待っててもらってって言ってた。中に入っててもいいけど」


「いや、ここで待たせてもらうよ」


 親切に言ってくれたようだが、エリュシオンはそれを丁重に断った。



 程なくして、緑色の短髪の男の子がやって来た。アシェルと同じくらいの年齢で背は少しか低い位。


「……っ」


 もっと汚いのかと思えば意外と身綺麗で安心する。


「待たせてしまいましたか?」


 エリュシオンを見て息を飲んだ後、驚いた表情をして、サファ絡みの用件だと分かったのか丁寧に質問をして来た。


「大丈夫だよ。キミがレイって子かな?」


「はい」


 レイはこの前アレクシス達が来た時の返事で来たと思ってるはず。


「ごめんね、今日は返事そのものじゃないんだな」


「そう……ですか……」


「少し手を入れさせて貰うのに少し中を見せて欲しいんだけどいい?」


 抵抗することもなくレイは「どうぞ」と通してくれる。

 貧民街の様子を見れば中もきっと吐き気を催すかも知れないと思ってエリュシオンは覚悟して階段を降りていった。

 真っ暗だと思った地下には灯りがあり、意外と居心地は悪くない。レイ同じ年位の女の子が小さい子に唄を聴かせていた。

 午睡の時間なのだろう。子供を寝かしつける為の子守唄。

 普通なら母親が唄って聴かせる一般的な子守唄があるのに『父の子守唄』を唄っていた。

 歳の離れた兄にも唄ってもらった事があった事を思い出す。


「夜泣きする子供にキ……サファさんが唄ってくれて。今ではああやって毎日唄っているんです」


「そう……」


 エリュシオンが不思議そうに見ているのを見てレイが説明してくれた。


 エリュシオンはまず、サファが書いた伝言を見せて欲しいと言った。

 それを聞いてレイが粗末なスペースにエリュシオンを案内した。


「なるほど」


 エリュシオンは伝言を見てから、周りを見渡していた。


 サファからの伝言は一見お願いごとの様に見える。


「挑戦状とはいい度胸、あはは」


 突然笑い出したエリュシオンにレイの顔が引きつっていた。


「君さ、字書けるんだろう? 計算もできるの?」


「簡単なものなら……」


「宜しい宜しい」


 なんとかなりそうだ。

 後は、兄上のとこ次第だけど。


「君さ、僕が後見人になるからここの管理任されてくれない?」


 にっこりと笑って言ったエリュシオンにレイが「へ?」と間抜けな声を出し有無は言える雰囲気ではなかった。



 2の月に入りアクティナ大聖堂で本当の祈念式がシスティーナのトラヴギマギアによって行われた。

 昨年は問題の起こった祈念式も今年は恙無く行われるとエミュリエール達はほっと胸を撫で下ろした。


「やっほー兄上」


 今回の祈念式にはアシェルが来ているので、エリュシオンがいるのもおかしくはない。

 陽気に話しかけてくる時は何か企みがある様な気がしてならない。


「エリュシオン、サファはまだ見つからないのか?」


「うーんそれなんだけど、ちょっとお願い事されちゃって」


 「お願いっ」と言って拝まれて目配せされれば理由は聞かないでもない。

 しかもサファ絡みの件だ。


「二階の執務室でいいか?」


「おっけーおっけー」


 エリュシオンはアシェルとアレクシスにもそう伝えてくると言ったのでエミュリエールは補佐官ともう一人最近来た新入りに執務室に集まる様に言った。


「あ、きたきた」


 執務室に行けば、アシェル、アレクシス、エリュシオン、エミュリエール、ハーミット、レイモンド、最後に新入りの七人が集まった。


「久しぶり、アイヴァ……あっいけない」


 パチッパチッと警告の火花が新入りに飛びかかりびっくりしたハーミットとレイモンドが火の粉を払っていた。


「お前! 気を付けろよ!」


「ごめんて」


 てへペロな様子のエリュシオンにアシェルが声を荒げ、言葉なくエミュリエールが睨みをきかせる。新入りが青い顔をしていた。


「エアロンだったな」


「はい……」


 顔面蒼白のエアロンにアシェルが話しかけると目は合わせずにエアロンがお辞儀をした。


「頼み事と聞きましたが」


「エリュシオン」


「はいはい」


 はやく話せと言わんばかりにエミュリエールが聞いてくるとその威圧に急かされてアシェルがエリュシオンに説明をする様に指示した。


 サファが転移後、貧民街に居てペルカというところで何をしたかと言うとエアロンが先程よりもずっと顔色を悪くしていた。


「どうしたの?」


「…………」


 エアロンはここでの仕事以外に搬送などの仕事もかけ持ちながら生活をしている。


「……もしかしたら会ったかも知れません……」


「「えぇ!」」


 予想外の発言に周囲のものが驚きの声を上げた。


「荷物の搬入をしていて、荷を崩してしまったんですけど、それを手伝おうとしてくれて。自分の顔を見た途端物凄い勢いで逃げられてしまって」


「どんな格好してた?」


 エアロンはうーんと唸りながら考えを巡らせていた。


「髪も瞳も茶色だった事くらいしか……」


 呟く様に行った途中で何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。


「男娼って……」


「「えぇっ?!」」


「小さい子供からそんな言葉が聞こえて来たものだから驚いてしまって荷を崩したんでした」


「…………」


「マジか……」


 自分より他人を気遣うサファの事だ。

 もしかしたらそのくらいやってのけるかも知れない。


「…………」


「これは早く探し出す必要があるな……」


 ペルカの事とは別にそれは早急にしなくてはいけないと一同は思ったのだった。




「それで?」


 本題は何だとエミュリエールが言う。


「ペルカの管理者に僕が後見人になってレイっ子を据えようと思うんだけど、教育者が欲しくて」


 エリュシオンはエアロンを見ていた。

 エアロンがぎょっとして見返す。


「いや、自分はそんな教育とかできる立場じゃ

……」


 エアロンはそう言ったもののエミュリエールはなるほどと思ったらしく「良いだろう」と言った。

 エミュリエールの中ではやっぱりサファの存在が一番なのだ。

 若干不満に思いつつもエミュリエールから良い返事をもらったエリュシオンは八つ当たりの様にねっとりとエアロンを見た。


「あのね、難しい事を教えるとかじゃないの」


 エリュシオンは計算や文字を教えてやって欲しいと言う。


「それなら……」


 自分でも出来そうだとエアロンは首を縦に振った。



 そこから先は早かった。


 事前に国王から抑えとく点の助言を貰っていたアシェル達は、それを踏まえて国王に上申すると国王は嬉しそうにアシェルに一任すると言って周りの貴族達を黙らせた。

 なにせ、ここずっと統治に協力的でなかったバウスフィールド家が名乗りをあげたという点で印象は良かった様だ。


 エアロンがペルカに派遣されると、レイは水を得たなんとかの様に教えられた全てを吸収していった。

 彼の話によれば、ペルカの管理が仕事になるなら吝かではないとの事。

 問題のトイレに関してはバウスフィールド家の出資でトイレを置く事が決定されペルカは一気に孤児院としてその歩みを始めた。

 ここまで来れば死ぬ子供も殆どいなくなるだろう。


「エミュリエール様、レイが死人が出た時はどうしたらいいのかと言っています。エリュシオン様に伝言をお願い出来ませんか?」


 ここにきた時よりエアロンは生き生きとしている。


「分かった」


 サファが貧民街に居た事が分かったのは、魂送りをしたからだった。

 これは今までペルカという場所で魂が送られなかったという事だった。

 死んだら暗い闇の深いところに捨てられる。

 サファがどうしようもなくトラヴギマギアを使わなくてはいけない状況を想像してエミュリエールはゾッとした。


 エリュシオンから後日返事が来る。


『火葬の手配をするから、知らせてくれればいい』


 手紙をそのままエアロンに見せると納得した様に「知らせて来ます」と言って嫌がる様子もなく貧民街に出かけて行った。


『もう一度やり直す機会が欲しい』とタダを捏ねたサファの気持ちは間違いなく彼の心に届いているよ。


 エミュリエールは行方の知れないサファに伝えて嬉しそうに笑う姿を早く見たいと思った。

エアロンが、アクロンに見えてしょうがない。


クソ親父と言ったアシェルをアレクシスが嫌な顔をしたのは、アンセルさんが尊敬する先輩だからです。


ちょっと話でした。

今日もありがとうございました。

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