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6 掃除

 ペルカに来て一月以上が経つ。

 人とはよく出来ている。受け入れられないような事もその為の能力があるらしく時間の経過とともに環境に慣れていった。

 今日もペルカの中を歩けば何かを踏みつけ、ゴミや下水の臭いがある場所を進んでレイの場所を目指して歩いた。


「配っておいてくれたのか?」


 朝早くに出かけていくレイは私にここの子供達は配る食べ物を置いて出ていく。

 彼はお金を地面に置いて何やら難しそうな表情をしていた。


(そう言えば……)


 私はここの資金を稼いで欲しいと言われていたのに働き口も無いまま現在に至る。


「足りない?」


「うん、まぁ」


 そりゃそうだ5万フィードを渡してから一月も経っていればそろそろ無くなるはずだ。

 働かずにここに居座っているのが悪い気がしてもう5万フィードを渡す事にする。

 レイはまたも少し嫌そうな表情をしていたが

私がやりたい事を引き換えにすると渋々受け取った。


(自分が働いて稼ぐよりも多い金額をポンと渡されたら嫌な気分にもなるよね)


 今回やりたい事として私が言い出したのはペルカの掃除だった。もともと孤児院では掃除をしていたのでひもじさとか寒さとかそんな事より不潔さに慣れたものの不満に思っていた。環境に慣れてくれば心に余裕が出来たもんだなと落ちたゴミを眺める。


(あのまま置いておく訳にもいかないし)


 働く気がないと言うわけではないけどあの日、アイヴァンに会ってしまったのが怖くて外出はしないようにしていた。


 箒とバケツと雑巾が恋しいし。


 そんな思いでレイに頼みお金を渡して買ってきてもらう事にした。



 レイが掃除道具を買ってくれば今度は水がない、光がない、ゴミ箱がないなど色々なところが目についてしまった。


 光は光石を何個か買ってくればいいだろう。ゴミ箱も何でもいいから大きな籠でいい。


(ゴミの処理をどうするか)


 魔術で丸洗いしたら楽なのに……

 はっと思って手で口を塞いだ。


(危ない……)


「魔法が使えたら楽なのにって思ったろ?」


 口を手で塞いだままレイを見る。


「そんな顔してた」


 呆れたように見ていたレイからそろ〜っと視線を逸らして笑ってごまかした。


「あれ、キトリが笑ってる」


 私よりも幼い子が私を見上げて不思議そうにしているのでその頭を撫でてみた。


「ユリ? お外に出てみたくない?」


 何というか、ここの子供達は井の中の蛙の様だ。

 人は日に当たらないだけで病気になるとエーヴリルがエミュリエールに話していた事がある。最近は暖かくなってきた事だし天気の良い日にでも外に出た方が良いと思った。


 ここにはレイと私の他に同じくらいの子供がいるが精神を病んでいてとても働ける状態ではないのだそうだ。

 ノエルもここの出身だが、店で稼げる様になってから一月に一回お金を渡しにくるだけ。

 少し年下にジムとジルの双子がいて昨年の末からようやく働き始めたという事だ。

 後は働けない幼い子がいるだけ。

 六、七……


「レイ? 一人いなくなった?」


 確か八人いたはずの幼い子は今は七人しかいない。レイを見れば聞こえていた筈なのに無言だった。


「リリはお墓に行ったの」


 ユリが言ったその言葉の意味が最初は分からなかったがレイの態度を見て何となく分かった。

 死んだのだと。


 この先を聞くには後にした方がよさそうだ。そう思ってレイに掃除の話を振る。


「レイが手伝ってくれたら外に連れて行けるのに……」


「手伝うって何を?」


 何かするんじゃないかと思っている視線が少し痛い。


(心外だなぁ)


 と思っても、確かにそのつもりなんだけど。


「子供達を散歩がてら川に連れて行って綺麗にしてきて」


「それはいいけど……ちょっとお前奥に来い」


 いつものレイの場所にやってきて話の続きを始めた。


「使うのか? その……」


「出来れば」


 魔術を、という事だろう。


「危なくないのか? 見つかるとか」


 首を傾げて想像した。


「(多分)大丈夫」


「ならいいけど、じゃ俺はみんな連れてその時に出ていればいいんだな?」


 コクリと頷いた。


「あ、でも。出来たらついでに必要な物も準備して欲しい」


「というのは?」


「光石とゴミを入れる大きい籠が欲しい」


 光石と聞いてレイが驚いていた。


「光石なんて高価な物買える訳ないだろ?」


「人間には光が必要なの。光があるだけで明日を生きていく力になる」


 人が暗い時に火を灯すのはただ暗いからと言う理由な訳ではない。人の本能としてそれを求めるからだと昔本で読んだことがある。


「そんな大袈裟な」


 レイが言うその横で袋を取り出して中に何か良いものはないかとさがすが結局お金より役立つものはなさそうだ。

 光石用に8万フィードレイに渡す。


「私が欲しいから」


 そう言えばそれなら仕方ないとレイも受け取るしかない。

 いつやるかは、レイの都合が良い時に合わせる事にした。


 その事とは別に私も日を分けてしておこうと思っていた事をレイの都合がつくまでの間やっておく。


(二つくらいは作れたらいいけど)


 ここの所あまり良い生活をしていない。これからペルカの丸洗いもあるのに魔力を使いすぎるわけにも行かない。

 私は何日もかけてその作業に取り掛かった。



「明日休み取れたぞ」


 レイから朝仕事に行く時に伝えられ、私は頷いて了解した。


 その夜。

 いつもなら寝てしまう所、レイを待って起きていた。

 話したい事があったからだ。


「あれ、起きてたのか? 珍しいな」


「………」


 そんな事を言いながら帰ってきたレイは私の顔を見て話したい事があると分かったようだった。


「私がもし、この前熱が出た時に死んでしまっていたら、私もお墓に行ってた?」


 レイはお墓という言葉を聞くと辛そうな顔をする。


「そうだな……」


 レイの表情はまるで私が虐めているかの様に辛そうだった。

 『お墓』は名ばかりのペルカの奥にある死体の捨て場所。

 

「責めてるわけじゃない」


「気分がいいものじゃないだろう」


「明日掃除をする時そこも綺麗にしていい?」


「出来るなら……」


 変わらず言いたくなさそうにしているので、それ以上は私も何も聞かずにレイと離れて毛布に包まる。




 「いいの? バレちゃうよ?」


 夢の中の自分がそう言ってるところで目が覚めた。


「いいんだよ」


 ボソっと言えばレイが無言で私を見ていた。



「じゃ、頼むな。2刻だな」


 コクリと頷いた。


 日が少しだけ高くなるのを待ってから掃除のために残る私に声をかけてレイが子供達を連れて川に出かけるのを見送って掃除に取り掛かる。


 魔術で水を放水してゴミや汚れを押し流す。同じことを繰り返せばようやく綺麗になってきた。

 火と風の混合で今度は熱風を巻き起こせば濡れていたところは瞬く間に乾燥した。


(魔術はずるい……)


 そんな事を思っても、世話がない。

 今まさに自分が使っているのだし。


(さて……)


 昨日話していた『お墓』ので前で立ち止まった。


 ここに死体を置いてくるのはレイだった筈。

 別に悪いことをしているとは思わない。弔うのにもお金もかかるし、土に還すにも許可が必要だ。生きている自分達の生活を必死にしなければいけないレイ達にとって仕方のない事であるのはわかっていた。

 理解した上でこの汚れてしまったペルカの良いところだけを残してまっさらにしたいと思った。


 魂送りをして気づかれて、ここに誰か来るまでどれくらいかかるだろうか?

 その為に準備をして来た。


 ざわざわする虫の動きに鳥肌がたったが弔わなければ。

 レイはいつもどんな気持ちでここに死体を置きに来ていたのだろう?

 そう考えると悲しくなった。


 気づかれなければそれでいい。

 でも多分十中八九気づかれる筈。


 ふぃーん と魔法陣を広げて一年前の祈念式で唄った歌を歌い始めた。




「うぉ! 綺麗になったな」


「わぁすごーい」


 川で体を洗い、髪を切ったさっぱりとした姿でみんながペルカの変わり様に感激しながら帰ってきた。


「レイ」


 レイは少しだけ首を傾げただけだったが『お墓』に向かう私の後に黙ってついて来た。


「ここも、綺麗になったな……」


「魂送りした後、焼いて流した」


 振り返らず、なるべく感情が篭らない様に気をつける。


「そっか、ありがとな」


「…………レイ」


 どう切り出して良いか分からない。不自然ではないだろうか?


「レイの場所にあるものが置いてあるの。それをこれから来る人に渡してくれる?」


「何だよ、自分では渡せないのか?」


「…………」


 はっと息を呑むのが分かった。


「出て行くのか……」


 返事に困ったまま黙って俯いた。


「…………」


「ここは止まり木だもんな」


 振り返ったレイの顔は笑っていた。きっとこういう風に何人もの人と別れて来たのだろうなと思う。


 ごめんね


 心の中で言うその言葉はここでは相応しくない。


「さっき言ってた事、ただ渡せばいいんだろう?」


 コクンと頷く。


「ありがとう」


 最後は笑って行こう。

 転移魔術を展開する。


 私たちはお互い励ます様に微笑み合うと私は転移に身を投げた。




 キトリの言った通り暫くすると見た目ですぐ貴族だと分かる出立の人物がやって来た。

 ただ渡せばいいって言ってたけども……


 見たこともない貴族が来るなんて聞いてない!


「お前がここのリーダーか?」


 大柄な男が大きな声で言うもんだから他の子供達がびっくりして縮こまっていた。

 出来ることなら自分もそこに混ぜてもらいたかった。


「……」


「アレクシス様、そんな大声で言って子供達が怖がってます!」


「そんなに大きかったか?」


「大きいです! そんなんじゃサファちゃんも怖がります!」


 男よりも幾分年下の女に言われると男がすまんと言いながら頭をポンっと叩いてニカっと笑った。

 思っより怖い人物ではなさそうだ。


「それで。ここにイシュタルの使いがいるだろう?」


 そう来るよな。

 でも、キトリを知っていそうな口振り。恐らくキトリが言っていた人物だと思う。


「ここにはもういません。でも、貴方がたに渡して欲しいと頼まれた物があります」


 二人が顔を見合わせていた。


「見せてもらえるか?」


 俺は頷くと自分の場所に案内する事にした。


「何を置いて行ったのか、俺も知らないんです。魔法でいなくなる時に言われて……あ、ここです」


 いつも二人で寝ていた場所も洗われて綺麗になっている。木箱も毛布もそのまま本人だけがいない。

 木箱の上に黄色い子供用の綺麗な服とその上にこれまた見たことない黄色の宝石が置いてあった。

 床に置かれた会話用に使っていた土に文字が書かれていた。


『ここの子供たちは何も知りません。ここの子供達からの情報とここにある物を買い取ってレイに渡してください。ここの子供達にどうかご加護を。私はもう少し知りたい事があります。探さないでください』



「何だよこれ……」


 俺は絶句した。


「サファちゃん……サファちゃん……」


 男は腰に手をつき、女は服に縋って泣いていた。


「あいつまたやりやがったな、わはは」


「もうっ! 笑い事じゃないです!」


 とても理不尽な責め方をされるんじゃないかと思っていたのに、なんか思ったよりも怒ってなくてよかった。


「お前がレイか?」


「……はい」


 呆然とその様子を見ていると男が声をかけて来て頷いた。


「俺は、アレクシス=ヘイワード、こっちのはフィリズ=ベルティ、騎士団に所属している」


「キトリは何か罪を犯して逃げているのでしょうか?」


 騎士団が動くのは暴走した魔獣が出た時や犯罪が起こった時だった筈、まさか自分が凶悪犯を匿っていたなんて知れたらと思うと冷や汗が出た。


「ここではあいつはキトリって名乗ってたのか」


「キトリとしか言われてなかったので……それに男だって言われてたし」


「え?! 男? だってサファちゃん可愛かったでしょう?」


「いやそうなんですが、口を聞いて貰えたのだってつい最近で……」


「あいつは何が嫌なのか飛び出して行った家出少女だよ」


 帰って来た言葉は意外と物騒ではなく、俺は胸を撫で下ろした。


 アレクシスがクククと笑っていた。

 話しやすい雰囲気にの二人にのまれ俺はキトリがここに来てから今日までの事を話す事にした。

 フィリズはキトリが熱を出して寝込んだ事に心配な様子だったが回復した事を話すとホッとした顔をした。

 なんだ、心配してくれる人がいるんじゃないかあいつ。


 最後まで話終わるとアレクシスが一度城に持ち帰ってから返事をすると言った。


「面倒見てくれてありがとな、あいつあれでも大分大事なやつなんだ」


 帰り際にアレクシスが苦笑いして言うと、その後ろには相変わらず涙目のフィリズが頭を下げていて驚いた。

 聞けば、彼女はキトリの護衛だと言う事だ。

 その事にも驚いたが、地上に出てから二人が帰り際にそれぞれ召喚獣を出して跨ったからそれにも驚いて、多分俺は物凄く変な顔をしていた事だろう。

 なんだか気のいい二人は驚いた俺を見て「わはは」と笑いながら暗い夜空を駆けるように飛んでいった。


「大丈夫じゃないじゃないか……」


 一人呟く。

 今日は星がよく見える。キトリも同じように空を見ているのだろうかと思いながらペルカに降りて行った。

光を浴びない生活は、人間に色々な支障をきたします。

くる病 うつなど

適度な日光浴は必要です。


少し切りが良いので数日お休みです。

読んでくださってありがとうございました。

数日後にお会いしましょう

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