祭事の補佐 7『システィーナ』
「あ、や。凄く……とても良く似合ってるよ」
「ハーミット様……」
よかった。
久しぶりに彼の顔を見た。元気そうな姿にサファは安心した。
「あの、わたし、ずっと、姿を見かけなかったので心配で」
「そっか、ごめんね。びっくりしたよね。俺はこの通り元気だからさ。それにしても、本当に驚いたよ、凄く可愛い……指導が続けられないのが残念だな」
その言葉を聞いて、痛くなり、胸元を掴んでいた。
あぁ……
やっぱり……罰を受けたんだ。
サファは悲しそうな表情をして俯いた。
「ちょっ!」
「どうしたんだ?」
泣いてしまったのではないかと、エミュリエールとハーミットが、あわあわとしていた。
「わたしのせいで、罰を受けたのですよね……?」
「えぇ?! いや……違う! そんな事ないよ」
「何言ってるんだ? 普通に謹慎中だっただろ?」
サファが、顔を両手で覆い、黙り込んでいる。
「バカ! レイモンドのバカ!」
「すみません。本当なら、わたしが受けるべきなのになのに」
「何故、そう、思うんだ?」
エミュリエールが屈んで、サファの顔を覗き込んでいた。
「皆さんが貴族で、わたしが孤児だからです」
それを聞いたエミュリエールは、ハーミットと顔を見合わせた。
「サファ、それは、違う。ここでは、貴族のルールはない。ここでのルールは、力なき者に、暴力を振るってはいけないという事だ」
「でも、そのせいで、ハーミット様はわたしの指導者じゃなくなるのですよね?」
サファは、ふるふると首を振っていた。
「怖い思いをしただろう? 君の指導は、ハーミットの妹が引き継いでしてくれる事になっている」
「知らない人は、嫌です。ハーミット様がいい」
「君は、俺が怖くないの?」
あんな事があれば誰だって怖い。でも、知らない人の方がもっと怖い。それに、エミュリエール様にもっと早く話していれば、彼だってこんな事はしなかったはずだ。
顔を隠したまま、サファは、首を振るだけだった。
こんなに、嫌がるとは思ってなかった。
エミュリエールは、ハーミットを見あげ、2人して困った表情をすると、観念したように、深く息を吐いた。
「仕方ない……この話は無かったことにしよう、ハーミット」
「えぇ?!」
「この子がそう言うなら、そうするよかないだろう」
ハーミットも来て、2人してサファの前に屈んでいた。
「それでいいの?」
「はい、指導は、ハーミット様にしてもらいたいのです」
覆っていた手を外していく。サファは泣いていなかったが、覗き込まれていることに気づくと、また、顔を隠して、後ろを向いてしまった。
「そんなに、見ないでください」
いつの間にか、レイモンドも同じように2人の後ろで屈んでいた。
「お前まで、なにやってるんだよ」
「何って、2人ともしているから、した方がいいのかと」
「まぁ、いい。それより、しばらく話を保留にしてたから、少し急いで依頼してきてくれると助かる」
「明日でよろしいですか?」
「ああ、頼む」
明日……
読み書きも、礼儀作法も、身なりもクリアして、サファはいよいよ、システィーナに会いにいくことが決まった。
※
サファが帰った後、エミュリエール達が、執務をしていると、誰かが訪ねて来た。
「ごきげんよう。エミュリエール」
「システィーナ! どうしたんだ? 明日行くことになっていただろう?」
長い、艶やかな紺色の髪を揺らして、システィーナは、優雅に腰をおろした。
「だって、来るのが貴方じゃなかったんだもの」
金色の瞳が、エミュリエールを捉える。
「依頼するくらい、何も、私じゃなくていいだろう」
「相談したい事があったのよ」
システィーナはそう言って、連れて来ている侍女から手紙を渡してもらい、それを、テーブルの上に置いた。
「これは……」
「脅迫状ですね」
ハーミットも覗き込んでいた。
「これはいつ?」
「これは、今朝届いた物よ。だけど、同じような物が、年明けから少しずつ届くようになって、最近は、何日かにいっぺん届いているの」
「まめな犯人だな、イテっ」
「レイモンド!」
ハーミットが頭を叩いた。
「父は、たぶん祈念式に出ることは許してくださらないと思うわ」
「それは、困ったな。これの、届出は?」
「さぁ、父がしていると思うけど……詳しくは分からないわね。でもね、わたくしは、やりたいと思っている。だから、父に気づかれないよう、貴方に直接、相談しに来たのよ」
システィーナは、出された菓子を一欠片、口にいれた。
「なるほど。しかし、さすがにこれは、手に余るかもしれないな」
「騎士団の方へ申請したらどうでしょう? 国の催しですから、対象になるのではないでしょうか?」
「そうだな、ハーミット、連絡を頼む」
「分かりました」
ハーミットが机に向かって、すぐに、手紙を書き始めた。
「…………」
「どうした? レイモンド」
レイモンドが、手を宙に浮かせたまま、口を開きっぱなしにしていた。
「いや、明日、システィーナ様に依頼しに行くのって、どうなるのかと思いまして」
「あ……」
「そうでしたね」
「もう、するのは決まってるんだもの。来る必要はないわ。父もうるさいでしょうし」
エミュリエールは、トントンと、テーブルを指で叩いていた。
「システィーナ。少し、手伝ってくれないか?」
「え? 何よ」
一人だけ、何のことか分からなかったシスティーナは、3人の顔を交互に見くらべ、目をぱちくりしていた。