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さらわれ少女の消えた理由 11『さらわれ少女⑤街の門』

「私もサファちゃん探しに行きたいですぅ」


 大聖堂の執務室。椅子に座っているアシェルの横で、フィリズが躑躅つつじ色の髪を揺らし、情けない声をあげた。


「悪いな、俺の護衛をしてもらう事になって」

「王命なら仕方ないですよねっ」


 単純なやつだが、聞き分けはいいらしい。

 長くなってきたな、とアシェルは黒い髪先をつまんだ。


 討伐など、事件があった時は、父である国王陛下から自分に命令が下る事になっている。今回は直談判じかだんぱんして捜索をさせてもらっていたが、例外なくその筋は通している。

 だから、俺には言われていたことがあり、それを守らなければいけない。


 なるべく、なんだろうがな。

 アシェルはほくそ笑んだ。


 それは、俺の身が護られていることと、国境を越えたら諦めること。それに、犯人は死罪にするという三点。

 だから、居場所が分からない現時点では、闇雲やみくもに動くことは出来ずに、ここで番をする事になっていた。


 まぁ、フィリズが残る事になったのは、当たりくじを引いてしまったからなんだが。一番意気込んでいた彼女が残る事になるとは、運が悪いとしか言いようがない。


 頬杖をつき、壁にかかる時計に目を向けた。時間はそろそろ2の刻半(5時)。日が暮れる時間だ。


 エリュシオン達は上手くやっているだろうか、と思っていると、ちょうど彼から連絡が入ってきた。


『こちらエリュシオン、調査が終わったよ』

『ご苦労さん、何かわかったか?』


『結論から言うと、邸にサファはいなかった。帰ってくるはずの息子アイヴァンが朝から帰ってないらしいよ。あとさ、』


 加えて、ピストスが見つかった事も報告を受ける。なぜそんな物を。サファに使うためか、違う目的のためか。どちらにせよそれは、


『面倒だな』

『そうだと思って、法立館におまかせしちゃった』

『あぁ、それでいい。助かった、じゃあ一度戻ってくるのか?』

『そのつもり』

『じゃあ、気をつけて帰ってこいよ』


『あ、そうそう!』


 通信を切ろうとして、伸ばした手を慌てて離す。


『あれ、切れちゃった?』

『いや、繋がってる。どうした?』

『前に言ってた脅迫状の話。やっぱりそうだったよ』


 システィーナの事か。エリュシオンは前々からメルヴィル家が怪しいと言っていた。犯人が捕まれば、彼女の自邸保護も解ける。


『それは、ありがたい事だな。で、エミュリエールは大丈夫だったのか?』

『まぁ、激おこだけど、なんとか平気かなぁ』

『さすがだ。帰ってくるまでが任務だぞ。気をつけて戻れよ』

『りょーかい!』


 プツッと通信が途切れた。

 

 あんな状態のエミュリエールから威嚇いかくされれば、いくらメルヴィルだってひとたまりもないだろう。アシェルは椅子に足をかけて寄りかかると、いい気味だ、と思って笑った。


 後の部下たちは、どうしているだろうか。


 待つことなんて、いつもだから慣れている。なのに、今はもどかしかしくて仕方ない。

 

 何か情報がつかめればいいが。


 アシェルは髪を掻きあげて、目をつぶった。

 


            ※


 城下町のアクティナは東西南北に門を持つ。

 アレクシスは小隊をさらに四つに割り、残り三つの門は他の騎士に任せ、女騎士のジュディ=ファーディナンドと共に、南門の詰所を訪れていた。


 理由は、以前言っていた、南領の動きが怪しかった、という事と、なんとなくという”感”


 詰所内はまきの燃える、香ばしい匂いが立ち込めていた。これも、この時期ならではのおもむきである。


 顔見知りだったのもあり、なつっこく寄ってきた門番と、挨拶がてら世間話をする。大雑把で声も大きいが、身分に関わらず気さくで面倒見の良いアレクシスは、彼らから慕われていた。


「それで、年明けそうそうどうしたんです?」

「ちょっとな。今日、門を通った人間のことを知りたい」

「こんな時期ですからねぇ。ちょっと帳簿見てみます」


 年明けというものは、街への出入りがゼロにちかい。この日は、神も休むとされており、故郷への帰省は、年が明ける前までに行くのがほとんど。

 それ以降は、年が明けた次の日に、出かけたほうがいいとされているからだ。


 門番が中の机から帳簿を取ってくると、それを開いて指を置いた。


「一組だけです。これじゃあ、あまり参考にならないかもしれませんね」


 それは、馬車で来た3人組で、この門番が5の刻からの勤務に入ってしばらくしてのことらしい。


「そういえば。そいつらみんな男なんですけど、一人は女言葉使ってて妙に印象に残ってるんですよね」

「何か話をしたのか?」


「商人だったみたいで。早くしないと大雪になって船が出せなくなるって言うんです。だから、出る門を間違えてないか? って聞いたんですけど、『鳥を撃ち落とさないといけないから』って行ってしまったんですよね。少し急いでいるようでした」


「おかしいな」

「でしょう?」

 

 アレクシスは顎を撫でた。

 フェガロフォトでは、雪が降る地域が限られている。それで港のある場所なんて”タラッサ”としか考えられない。だけど、そこへ行くには、この南門ではなく、北門に行かなくてはいけないはずなのだ。


「他の情報とも照らし合わせたほうが良さそうね。そろそろ何か進展があるかも知れない」

「そうだな」


 ジュディをの方を向き、アレクシスはコクリと頷いた。


「サンキュー、今度何か美味いもんでも食いに行こうぜ」


 そう言って立ち上がると、アレクシスは門番の肩を叩き詰所から出た。鳥《召喚獣》に飛び乗り部下への複数通話につなぐ。


『各班どうだ?』


 通信機に話しかけると、それぞれ返事がかえってくる。


『こちら東門は出入りゼロです!』

『西も同じく!』


 さすがに年始めじゃどこの門も情報は希薄きはくである。それには、だいたい予想していた。


『そうか、北はどうだ?』

『はい! 北は早朝に入りが一組だけだそうです』


 アレクシスは目を横に流して耳を押さえる。


『出は?』

『ありません』


 そういえば、さっきの三人組も、港に行くような会話をしているが、その後戻ってきていないらしい。

 ますます気になるな、とアレクシスは鼻をこすった。

 

『一応そいつらの人数と、特徴を聞いといてくれ』

『了解しました!』


 自分はあまり頭を使うようなことは向いていない。だから、情報はとっといて、後はエリュシオンとかに任せたほうが得策だろう。

 そろそろあいつらも帰ってきているかも知れないしな。


『取り敢えず一段落だ。ひとまずに大聖堂に戻るぞ!』

『『了解』』


 通信を切る。後は、街で聞き込みに行っている奴らが大変なはずだ。


 少し手伝ったほうがいいな。

 アレクシス達は鳥《召喚獣》に指示を出して、急いで大聖堂に戻ることにした。

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