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暴れ牛と夜明けの唄 8『イストリアの嗎』

 今回、魔獣が出現したのは、アクティナから南下した領地『プルグラインド』にある、街の外れ、だった。


「マズイな」

「これじゃ、やたらに攻撃できないねぇ」


 虎、熊、鹿。3体の召喚獣が空中で止まり、横に並ぶ。ファクナスの巨体が、のそのそと、既に街の中に入り込み、先についた騎士たちが、人々を救助してるのが見えた。


はりつける?」

「いや、今はいい。あの場所で止めたら、えまくりだろ」


 周りへの被害が大きくなるだけだ。それに、エリュシオンが使う『オクトソロス(八つのくい)』は、連続して使う事が出来ない『抑制時間』というものがある。


 アレクシスを、攻撃できる状態にしてからの方が賢明だな。



「どうする? ドカーン!! と一発、お見舞いしてくるか?」

「そんな事したら、街がなくなっちゃうよ」

「わはは、多少は残るだろ?」


「冗談言ってるんじゃない。いや……」


 少しは本気か?


 あごに手を置いた。


 ここ最近は、2人の攻撃を使わなくても、討伐できていたが、今回に限っては、そういうわけにはいかないだろう。その為には、開けた場所が必要だ。


『セドオア』


 アシェルは、通信器となってる耳飾りから、騎士団長のセドオア=セガールに話しかけた。


『見ての通りだ。なんとか、そこから引きり出せないか?』


『そうですなぁ。ここでは少々、おふたりには狭すぎますしね』


 おい、何言ってんだ? お前もだろ。


 アシェルは口角こうかくをヒクつかせる。


『少しお時間、頂いてもよろしいですか?』

『構わない。指示を出したら、お前は一度、野営地に来てくれ。話がある』

『心得ました』


 セドオアにだけは、サファの事を伝えておこうと思った。彼なら、信頼でき、俺の望む指示を、部下に出してくれるはずだ。



「取り敢えず、待ち、だ。俺たちは一度、野営地に行くぞ。そいつも置いてこなきゃいけないだろ」


 通信を切って、アシェルが、エリュシオンの手元を見やった。


「了解ー、ちょっと先行ってて」

「あぁ、おい! どこ行くんだ?!」


 エリュシオンが、すいーっと、街にむかって飛んでいく。その背中に、アレクシスが声を投げたが、彼は、それにひっかかることなく、行ってしまった。



「ぬらりっぽいヤツだな、まったく。いいのか? アシェル」

「何かやるんだろ。先行くぞ」


 野営地に向かって飛んでいる間にも、大気がゆれておぞましい声が聞こえている。



 振り向くと、街の上空でエリュシオンがてのひらに、魔力の玉を作っているのが見えた。


 何やってんだ? あぁ……


 彼は、それをかかげると、下へと放る。音もなく。一瞬、風が、時が、止まったかのように。優しく地面に達したそれは、街に薄い膜を貼っていった。




 ヒィ────────……ン



 ケリュネイアが、甲高く鳴き声をあげる。エリュシオンが一面に広がった薄い紅紫色で、体を照らして、満足そうに口をひらいて笑みをつくった。



「アイツ、こんなとこで『イストリアのいななき』なんて使って平気なのか?」


 同じように見ていたアレクシスも、片方だけ眉をあげる。


 各家は、個々に持つ技があり、この『イストリアの嗎』は広範囲で保護をかける、バウスフィールド家の固有魔術である。



「そういや、使い勝手がよくない、とか何とか言ってた……」

「あれも『抑制時間』あるやつだろ」


 それも、確か、『オクトソロス』よりも時間は長く、他の魔術を使うのも、少しの抑制を受けたはずだが。


「あれは、改造版だな」


 効果を下げて、抑制でも緩和させたんだろう。


「もしかして、試しに使ってみたかったのか」

「どうだろう。まぁ、それでも、何もないよりかはいいだろな。行くぞ」


 あの魔術の光があるだけで、人々の恐怖は和らぎ、騎士たちの行動もしやすくなる。これは、正直ありがたい。


 ケリュネイアがヒンッと短く鳴くと、エリュシオンが首筋を撫でていた。街にベールが掛けられたのを見届けて、2人は、野営地へと向きを変えた。

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