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とぎれた唄 2『水涸れとは』

 目が覚めると、2人はまだ話しているようだった。頭はすっきりして、怠さもほとんどない。これも、あの飴のおかげだろう。


 ノブに手をかけると、2人の会話が耳に入った。わたしの話みたいだった。


「おい、エミュリエール。お前、このままあの子を、孤児院に置いておくのか?」


「今のところそのつもりだ」


「はぁ……『イシュタルの使い』なんて、騒ぎにならないうちに、国の保護を依頼した方がいいんじゃないか?」


「保護なんかされたら連れていかれるだろう? サファが『イシュタルの使い』だったとしても、あの子は普通の子供なんだ。それに、今、彼女は孤児院にはいない事になってる」


 エミュリエール様……

 やっぱり、迷惑かけてしまっているのかもしれない。


 サファは眉を寄せた。


 それにしても、話しの内容が、とても深刻で出るに出れない。


 どうしよう……


 2人の話は、止まる事なく続けられ、もう暫くタイミングを伺う事にした。


「どういう事だ?」


「大聖堂の襲撃事件で、心を痛めて、療養していることにしているんだ。熱りが冷めるまでは、人前には出さない。もちろん、次の洗礼式もだ」


 その言葉を聞いて、サファは目を閉じた。


「ずいぶんと、慎重だな……」


「少しやり過ぎな気も、しないではない。だが、エリュシオンが、会わせろと、どうにも煩くてな」


「何でそこに、エリュシオンが出てくる? あの子とは関係ないだろう?」


「この眼鏡だ。瞳を隠すために、エリュシオンに作ってもらったんだ」


 コトっと、何か小さな物を置く音が聞こえた。


「それなら、仕方ないだろ。諦めろ、アイツはしつこいぞ。それより、あの子は魔術が使える人間なんだから、『暴走』や『水涸れ』とかの事だって、ちゃんと教えとかないといけないぞ?」


「『暴走』なら、この前、起こしかけた……」


「おまっ、大丈夫だったのか……? あの子、魔力が多いだろう?」


「正直、死ぬかと……」


 暴走? 水涸れ?


 どちらも聞き慣れない言葉。だけど、よく考えたら『暴走』は、あれ、だろう。サファは、祈念式の前の暴力受けた日に、起こしたものだと、なんとなく分かった。


「よく止めたな……『暴走』が抑えられなければ、必然的に『水涸れ』も起こる。そしたら、死、だ」




「あの、『水涸れ』って……?」


 ”死”という言葉に堪えきれず、サファが扉から顔を覗かせた。


「サファ!」


「聞いてたのか?」


「開けようとしたら、聞こえてしまって。すみません。『水涸れ』は、魔力切れの事ですか?」


「別に、隠すような事でもない。お前のいう通り、確かに魔力切れだ。詳しく言うと、魔力をなくした体が、魔力を生みだそうとして、体内を食いつくそうとする生体反応の事だ」


「そうなると、どうなるのですか?」


 少し怖い。だけど、わたしも知っておかなきゃいけないだろう、と思った。


「口から血が吐き出され、その状態まで陥れば、魔力回復の薬は飲むことが出来ない。焼けるような痛みが続き、やがて死に至る。それが、『水涸れ』だ」


 こわい……


 ゾクっとして、サファは自分の体に手を回していた。


「起こしたら、助からない……ですか?」


「その状態でも助かる方法は……あるにはある。ただ確率的にかなり難しい。だから魔術を使う人間は、『水涸れ』ならないように、回復薬を持ち、魔力を回復する為の食事は欠かさないようにしている」


「大丈夫か? サファ」


 怖くて。わたしはエミュリエール様にすり寄っていた。


「随分と、懐かれてるんだな。ま、そんな所だ。診察をするぞ」


 サファは、エミュリエールの服を掴んだまま、コクッと頷いた。


「怖がらせないでくれ。まったく」


 歩いてくサファの後ろ姿を見て、エミュリエールはため息混じりに言った。



 診察にはあまり時間はかからなかった。それに、結果もまぁまぁだそうだ。


 エーヴリルにお礼を言い、2人は薬室を出て、廊下を歩き始める。


「おや? 珍しい人もいるもんだな」


 声がして、振り向いた。


 土気色の顔。紫色の少しクセのある髪を、綺麗に硬め、濃いグレーの瞳を細くして、わたし達を見ていた。


 だいぶ高価そうな服を着ている。男は気高そうな口髭を指で弄り、薄気味悪い笑いを浮かべていた。


 怖い


 サファは一目見て、そう感じると、エミュリエールの後ろに隠れていった。

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