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5 フィノスポロスピティ 4

All Hallows' Eve企画 四話目

 暗い修学院の木が茂る森の中。

 普段ここは剣術科の院生が演習するのに使っている場所である。

 今日限りここがフィノスポロスピティの会場。

 南瓜で作られた怖い顔のランタンが至る所に置かれ全体的に薄暗い。

 炎のような橙の灯りはとても雰囲気があり気持ちが騒ぐ。飲んだり食べたりする為のテントがいくつも置かれ既に集まった者は楽しげに話をしていた。


(わぁ)


 全員が仮装をしている。

 魔物や悪魔の怖いものから妖精などの可愛いものまで様々だった。

 浮いてないだろうか?

 不安になりジュディを見上げると背中を押された。


「大丈夫です。まずは主催者のフェイズシエラ様に挨拶に行きましょう」


 ジュディは男性の姿で外套を羽織り牙をつけておりそれが中々かっこよかった。その横に南瓜の被り物を付け燕尾服を着たハーミットがおどおどしている。

 フィノスポロスピティでは本当の名は明かしてはならない。その為フェイズシエラからこの場限りで使う通り名を貰うことになっていると言う。

 フェイズシエラのいるテントは一番奥にあり他のテントとは違って布で目隠しがされている。

 どんな人物だろう?

 初めて会う人物にサファイアは少し緊張した。

 フェイズシエラに挨拶をするのは自分達だけではない。テントの前は数人列が出来ていた。


「思ったより混んでますね。また後で来てみましょう」


「構いませんよ。先に挨拶を交わしておくのが筋ですし」


 最近になってよくエリュシオンに「抜けている」と言われる。うっかり忘れてしまったら大変だ。

 少し寒くはあるが人がいる分熱気がある。橙の灯りは不気味でもあるが温かみがあった。

 サファイアは列に並びながら周りを見回した。

 それにしてもみんな元気だ。

 自分は袖のある衣装を着て外套まで羽織っているのに、意外とみんな露出がたかい。上半身裸の人物までいた。


「凄いですね。寒さなんてないみたい」


「どちらかと言うと寒いより暑い方が苦手なんです」


 ジュディが口許に笑みを浮かべてサファイアを見下ろした。


「ジュ……」


「駄目」


 サファイアは口を塞がれてコクコクと頷く。


「なんで呼べばいいの?」


 ジュディは顔を横に向け少し耳を赤くしていた。


「……カスタノ(毬栗)の君です」


 サファイアは思わず両手で口を押さえていた。


「笑いましたね?」


「そんな事は」


 ふるふると振り無理やり笑顔を作るとジュディは珍しく声を零して笑っていた。

 不思議。

 この空間、相手が相手でないみたい。

 それに自分も自分でないみたいだった。


「次の方」


 前の人がテントから出て来ると中に入るよう言われる。


「この度はお招きありがとう存じます」


 この人がフェイズシエラ=バルドタチオス氏。

 失礼のないようにお辞儀をするとサファイアは顔を上げて少しだけ首を傾げた。


(男性? 女性?)


「ようこそ。フィノスポロスピティへ」


 自分らと同じで衣装を着て仮面をつけている。金髪にはツノが二本生えており、話す口許には牙が覗いていた。

 王様のような格好をしている。


「わたくしとこちらの執事に名を頂きに参りました」


「ふむ。姫君とその執事か。カスタノの君は今はこちらの用心棒と言う事だな」


 自分を自分として扱わない空間。サファイアはふわっと笑うと手で口を覆う。


「あまり使えなかったら焼いて食べてしまおうかと思ったのですが……」


 サファイアはジュディをチラッとみた。


「思いの外トゲがありました」


「ははははは。面白い! どんな少女が来るのかと思っていたが実に愉快」


 話が不快ではない。

 楽しい。

 サファイアが紅の瞳を細めてフェイズシエラを見ていると彼は下から上まで自分を眺めた後顎を撫でた。


「取り敢えず、そこの執事は『ペルシコス(桃)の執事』」と名乗るが良い。


「ありがとうございます」


 南瓜の被り物をつけたハーミットがサファイアの後ろでお辞儀をしていた。


「其方は色々名が浮かぶ」


 フェイズシエラはサファイアの近くまで来ると跪いてサファイアの手の甲に額をつける。


「魔界の姫君と言うのはどうだろか?」


「…………」


 後ろでハーミットが吹き出すのを堪えているのを感じる。


 他の人と明らかに度量が違いますよね……


 サファイアは口角を下げると後ろで手を組み首を傾げた。


「おや。お気に召さないか。ぴったりだと思ったんだが」


 名を頂く身なのであまり我儘を言うつもりはなかったがもっと普通なのが良い。


「あまり目立つものは……」


「仕方ないな。『銀の妖精』なんて言うのはどうた?」


「…………」


 黙ったサファイアを見てフェイズシエラが腕を組むと息を吐いた。


「我儘な姫君だな」


「普通ので良いのです」


「全く……不本意だが『銀の君』でどうだ? もう嫌とは言わせないぞ」


 サファイアはお辞儀をするとにっこりと笑った。

 『銀の君』これがフィノスポロスピティでの自分の名前。

 嬉しかった。


「ありがとう存じます」


 挨拶も済み名も付けてもらったのでお礼を言ってテントを出ようとすると声がかかる。


「銀の君だけ話があるので、そこの二人は外に行っていろ」


 何だろう?

 ジュディを見上げると頷いていた。

 危なくはなさそうだった。

 一人テントの中に残されたサファイアは不思議そうにフェイズシエラを見ていた。


「君は美しいな」


 急にそんな事を言われサファイアは目を逸らして俯いた。


「ははは。恥ずかしがり屋な所も良い」


「話は何でしょうか?」


 不満げに手を握ったサファイアは目を吊り上げてフェイズシエラを睨んだ。


「はははは。怒る姿も可愛らしい」


「フェイズシエラ様!!」


 何処となくエリュシオンの意地悪と似ておりサファイアは顔を曇らせた。


「いやいや、すまない。私はあまり君のような少女と話す機会がないのでな」


 サファイアの両手を掴むとフェイズシエラが見上げていた。


「…………」


「ところで君はどっちのダンスが踊れるんだい?」


 その言葉にサファイアは大きく目を開けるとフェイズシエラは「秘密だ」と小指を絡ませ眩しそうに目を細めていた。

 結局フェイズシエラは男性なのか女性なのか?それは分からずじまいであった。



 同じ会場でアレクシスが会場を見回して歩いていた。

 あいつは頼まれてくれないかと言った。

 あの時はしつこくされそうだった為、同伴を変わる事を了承したが肝心の頼まれごとを聞かずエリュシオンはガラルチュランに行ってしまった。

 思い返してみれば話の始まりはフィノスポロスピティ。

 『それは駄目なんだよ……』と言う言葉に違和感があったがそう考えれば腑に落ちる。


「やあ、紅のアルクダじゃないか! 今年もこの日を迎えられて嬉しいぞ」


 知り合いに声をかけられてお互い肩を叩き合い笑い合う。


「来年はどうだかな」


「わははは。誰かを探しているのか?」


「カスタノの君を探していてな」


「男色がお好みとは紅のアルクダも隅に置けないな」


 そんなんじゃないと叫ぶ衝動を抑えて適当に大声で笑って誤魔化した。


「でもがっかりするな? カスタノの君は今日は子守のようだったぞ?」


 当たりだ。

 アレクシスはニヤッと笑った。


「仕方ない。今日は挨拶だけさせて貰おう」


「テントで並んでたから早く行って来るといい。来年はちゃあんと約束をとりつけるんだぞ?」


 バシバシとアレクシスの背中叩くと楽しげに歩いて行ってしまった。

 教えられたテントの前に行くとばいんばいんと南瓜を叩いている子供がいた。きっと今年剣術科に入学した子だろう。


「悪魔は出ていけ!」


「ちょっ、やめて」


「あはは。いい音がするぞっ」


 なかなか悪戯好きの子供のようだ。

 ただ南瓜の被り物をしていただけの理由で背中に飛び乗り頭を叩かれている。


「ちょっと! カスタノの君助けて!」


 誰かが出て来るのを待っているのか後ろで起こっている事には目もくれず、ジュディはテントの出入り口を見つめていた。

 アレクシスが歩いていき南瓜に飛び乗る子供を小脇に抱えて後ろに並ぶ保護者らしき人物に渡す。


「悪魔に喰われるから目を離すんじゃないぞ。わははは」


 その声でじっと前を向いていたジュディが振り向いた。


「紅のアルクダ……何故?」


「それはこっちのセリフだな。何でここで並んでいる?」


「それは俺が名前をもらっていて」


 さっきまで子供に叩かれ情けない声を上げていた南瓜が口を挟んだ。


「俺は『紅のアルクダ』だ。お前の名は?」


「ペルシコスの執事です」


 『桃の』と言う事はこれは恐らくハーミットだろう。

 それでまだ中に誰かいる?

 テントの出入り口の布を眺めていると捲し上げられフェイズシエラの補佐が姿を現した。


「足元にお気をつけください。次の方どうぞ」


 後ろにいた子供連れと入れ違いで小さい女の子が出てきた。


「サ……グボっ」


「『銀の君』だって言ったでしょう!」


 鳩尾に拳を食らってハーミットが腹を抑えて蹲っていた。

 真っ黒いふわふわした髪にソーブの実が飾られている。仮面の奥から覗く真っ赤な瞳は良く見れば元のように煌めいているのが見えた。

 ハーミットを見て笑っていたアレクシスも思わず目がいってしまったほど存在感があった。


「銀の君? お話は何でしたか?」


 衣装である趣味の良い黒いドレスの裾を持ち上げて歩いて来る。


「秘密だと言われました」


 唇に人差し指を立ててはにかんだサファイアはエリュシオンの様だ。

 一緒に暮らすと似るものなのか?

 アレクシスはサファイアの仕草に苦笑いすると彼女の前に立ち軽く会釈をする。


「貴方の名前は?」


「俺は『紅のアルクダ』だ」


 先日森でアルクダに会った事を思い出すとふふっと笑いが漏れた。

 フェイズシエラの名付けは適当そうなのになかなかどうして。ぴったりである。


「私は先程『銀の君』の名を授かりました。どうかお見知り置きを」


 ゆっくりお辞儀をしたサファイアにアレクシスは大したもんだと思った。

 もともと孤児であるのが不自然なほどの所作を彼女は身につけていた。それがエリュシオンの邸で作法を学び洗練されたように感じた。


「こちらこそよろしく頼むな」


 話をしているとさっきテントに入っていった子供が出てきてその後にフェイズシエラも補佐達と出てきた。


「開会式が始まります。会場に行きましょう」


 慣れた足取りのジュディについて行くと開けた場所に演壇があり周りに人がいっぱい集まっていた。

 人に囲まれて背伸びをしていると体を掴まれて肩に座らされた。


「…………」


 高い。


「相変わらず軽いなぁ」


 下からアレクシスの声がする。

 少し恥ずかしい。

 いつもより高くて落ち着かないのに何が起こるのか期待が膨らんだ。

 フェイズシエラが演壇をあがると会場の気温が何度か上がったかのように熱気が増した。


「静粛に!!」


 息を大きく吸うとフェイズシエラは大きな声で皆に呼び掛ける。

 開会式の始まりだ。



 ここに集う、剣を握りし兄弟達よ

 今年もこの日がやって来た


 戦地に赴き命を落としたものもいる

 不治の病に倒れたものもいる


 また皆に会えて本当に嬉しい!


 そして今日新しく誕生した兄弟は16人

 ようこそ新しい兄弟


(おぉ!! ようこそ、兄弟!!)


 今年も楽しもうぞ! 

 兄弟達よ!


 会場の人々から空を震わせるほどの歓声と勇ましい声が上がり溺れる。

 肩に乗せられたサファイアは下から昇ってくる熱気にのぼせてしまいそうだった。


「大丈夫かぁ? 銀の君」


 顔が熱い。

 気温が高いのではなく体が昂って血液が熱くなるような感じだった。


「ほれ。あんまり当てられると熱出すから気を付けろよ? 俺はその辺見て来る」


 肩から下ろして顔を赤くしているサファイアを見るとジュディに引き渡してアレクシスは人混みに消えていった。


「少し飲み物を飲んで少し休みましょう。もう何で貴方まで変な顔しているの!」


「びっくりしたぁ」


「大丈夫ですか? ペルシコスの執事」


 被り物をしているのに仕草で冷や汗を流しているのが分かるハーミットがおかしくて少し気持ちが落ち着いた。


「飲み物を取ってくるので、貴方は銀の君のそばにいてちょうだい」


 そう言うと、ジュディも人混みに紛れていった。

 ハーミットと二人で椅子に座りながらジュディを待ってると会場でダンスが始まる。

 最初は一つの円だった踊りの輪は人が増えるに連れて二重になった。音楽に合わせて掛け声をあげながらみんな知り合いかのように手を合わせてパチンと音があがった。

 会場の周りでは話が盛り上がって肩を組んで歌い出しているのが見えた。

 少しお酒も入っているようだ。赤ら顔の彼等は片手にクレアスを持ち剣を持つかのように翳している。

 みんなが楽しそうに見える。

 サファイアも楽しそうに笑った。

 遠くの方で自分の姿に気づくと走ってやって来る人影が見えた。

 白金の髪をした可愛らしい男性?

 彼はサファイアの前で跪くと手を取って突然手の甲に額をつけた。


(あ……)


 誰だか分かってしまったサファイアは立ち上がってスカートを広げてお辞儀をした。


「今宵『銀の君』と名を授かりました。お会いできて嬉しいです」


「私は『アフィティビトスの盾』です。今夜だけはの貴方の盾になります」


 ん……?

 彼女を護衛から外してしまった事に少し罪悪感があったが名の通り彼女の屈しない態度にサファイアはふにゃっと笑った。


「喜んでお受けいたします」


 そう言うとフィリズはサファイアに抱きついてきた。


「可愛い! 連れて帰りたい!」


 抱きついたフィリズを少しだけ押し戻して困ったように眉を下げる彼女の顔を見ていると、後ろで子供達が走って行く。

 その一人が立ち止まり仁王立ちしてハーミットを指差した。


「いたぞ! 南瓜の魔物だ!」


 突然の攻撃にハーミットは両手を前に出して後退りしていた。

 あらら……


「アフィティビトスの盾。彼を助けてもらえますか?」


「仰せのままに!」


 フィリズは嬉しそうに立ち上がるとハーミットの前に立ち塞がった。


「このお方は実は魔界の姫君。その方の執事であるその南瓜に傷をつけて御覧なさい。貴方達もただではおきません!」


「…………」


 フィリズは何を……

 彼女は足元に魔法陣を出すと剣に手をかけた。


(ちょっと!)


「クソォ! 部が悪い。みんな逃げろ!」


 集まっていた子供達が悲鳴を上げて逃げて行く様子を見てサファイアはため息を吐く。

 フィリズはとても得意げな表情をしてサファイアの方を向いた。


「後で問題になりませんか?」


「大丈夫ですよ? 実際に手を出さなければ平気です」


「俺はさっき散々叩かれてたけどね!」


 本当なのだろうか?

 何から何までこの夜会は驚く事ばかり。

 でもみんな楽しそう。


「銀の君にはここに来てもらいたいと思ってました」


 フィリズの言葉はいつも真っ直ぐで揺るぎがない。自分への充分を通り越した情。

 信頼できる。でも、自分のそばに置くには適さなかった。


「今まで来たどの夜会よりも楽しいです」


 フィリズは満面の笑みを浮かべ「ですよね」と言った。

 ジュディが帰って来るとフィリズが今夜限りの護衛となった事に驚いていたが女性同士なのに側からみれば見目の良い男性二人と南瓜を得体の知れない少女が引き従えていると視線を集めサファイアは少し居心地が悪くなってきた。


「踊りにいきましょう!」


 踊りの輪は既に三つになっていた。


「適当でいいですよ」


 フィリズに手を引かれて一番外側の輪に加わるとなんとなく周りを見ながら踊る。

 二つ目の輪は逆回転で周り誰かも分からない相手と手を合わせ音が弾ける。

 この場限りの関係なのに一体感がある。

 とても心地よかった。


「お? 銀の君。踊ってるな? 大丈夫かぁ?」


「楽しいです」


 すっかり頬を染めたサファイアがいつの間にか二つ目の輪に加わっていたアレクシスと手を合わせた。


「そうだろう? わはは」


 アレクシスはニカッと笑って後ろにいたジュディと手を合わしていた。


「だいぶ出来上がってる。少し休ませろ」


「そうですね」


 二人がそんな会話をしているとはサファイアは全く気がつかなかった。


「銀の君。そろそろ少し休みましょう」


「でもまだ……」


 踊りたい。

 自分が興奮状態である事は他人から見られて気づく事らしい。

 ジュディは最後までいる為にも休憩が必要であると言ったのでサファイアは言う通りにする事にした。


「少し食べ物をもらって来ます。アフィティビトスの盾。銀の君をお願い」


「了解」


 すっかり空気のハーミットはダンスの途中で既に休憩していた。被り物はこの夜会に向かないと言うのが彼の感想だった。


「来てみたら意外と楽しいですね」


「うん。これだったらまた次も来たい」


「主催者のフェイズシエラ様はその想いその言葉がこの夜会を続ける理由だと言います」


 それは、日々生活する者が来年も来れるように努力ができるよう命をつなぐためのもの。

 サファイアは目に涙を浮かべると静かに流していた。


「尊いのですね。ここは」


「そう思ってくれた貴方はここにいる資格が有ります」


 抱きしめてくれるフィリズからは躑躅の匂いがした。


「大丈夫か?」


 泣いているサファイアを目撃してアレクシスが様子を見にやって来た。

 目を赤くしているサファイアを見てアレクシスが横取りする様にサファイアを抱き上げる。


「ちょっと!」


「話がある」


「…………」


 そう言われてはフィリズも何も言えないらしく無言になった。


「もう少し落ち着いてくれ」


 アレクシスが言うにはこの夜会は戦場のような所らしい。彼は自分がかなり興奮状態であると言った。


「お前は分かりづらいからなぁ」


「そうですか?」


「お前は生死と言うものがよく分かっているように見える」


 抱き上げているアレクシスの顔を見上げて不思議そうな表情をして首を傾げた。


「アシェルが初めて来た時な。アイツ開会式でのぼせて吐いてた」


「そう言う事言っていいのです?」


 サファイアは半目になり不機嫌そうに体を起こした。


「わははは。俺はあまり難しい事は分からないが、ここは戦地で浴びるのと同じ士気が集まる場所だと思っている。お前は……」


 騎士達の想いが分かるとアレクシスは言った。

 上に立つ者。

 多分自分でなくとも誰かが気づく。


「たぶん尊い」


 たぶん?

 サファイアは首を傾げてアレクシスを見上げていた。


「買いかぶり過ぎですよ」


 冗談だと思いサファイアがそっぽを向くとフィリズが手招きしていた。ジュディも帰ってきてテーブルに食べ物が置かれており、アレクシスから解放してもらってしばらく休憩をとることになった。

 しかし入れ替わり立ち替わり人が途切れずずっと踊りの輪はなくならない。サファイアが羨ましそうに眺めていると視界を誰かに遮られた。


「やい! 魔界のお姫様。さっきは撤退するしかなかったが今回はそうはいかない!」


「…………」


 さっきハーミットに襲い掛かろうとしていた子供達だ。

 後ろを向いてフィリズを見上げると彼女は耳打ちした。


「捕まえて南瓜の餌にするって言いましょう」


「…………」


 仕方ない。

 これはこの夜会の社交みたいなものだろう。

 サファイアはテーブルに肘をつくと、足を組みエリュシオンのように顎を少し上げて見下すように男の子の体に視線を這わした。


「見逃してあげようと思ったのに、仕方ない……」


 ゆっくり立ち上がって一歩前に出ると足元に無記入の魔法陣を出した。よく、エリュシオンとの勉強で使っているものだ。


「実はあの南瓜。子供が大好物なの」


 えーと……

 口許に手を当てて笑い声を囀ると紅い瞳でじっとりと子供を見た。

 子供は青い顔をすると声も出せずに走って逃げていった。

 少しやり過ぎたかもとサファイアはため息をついてもう一度椅子に腰掛けた。


「わはは、見事だったな銀の君」


「笑い事ではないですよ」


 少し恥ずかしい。

 そんな気持ちはよそに周りは声を上げて笑っていた。


「もうそろそろだ」


 今まであった踊りの輪がなくなり広場を取り囲むように人が並んだ。

 再び演壇にフェイズシエラがあがる。


「宴もたけなわ。今年も締めくくってくれる兄弟を紹介する」


 拳を挙げて歓声が湧き上がった。


『水上のイドラヴィア』

 名前を呼ばれると歓声がより大きくなり細身で神経質そうな男性?が歓声に答えるように片手をあげながら会場の輪からうちへ入った。


『悪戯好きのスキリオン』

 指笛が鳴る。

 軽い足取りで女性が満面の笑みを浮かべて両手で手を振りながら出て来ると観客に向けてお辞儀をした。

 二人は向かい合ってお互い礼をすると手を組んだ。


『紅のアルクダ』

 慣れた様子で出てきたアレクシスはいつものニカッという笑顔を浮かべて礼儀正しくお辞儀をする。


「そして本日新たに私達の兄弟となった『銀の君』」


「アイツは魔界の姫だぞ!!」


 言った主はさっきの子供だろう。

 それでも狼狽てはいけないとサファイアは含んだ笑みを見せ前に出てやうやうしく頭を垂れた。

 アレクシス様。

 まさかテロスティの相手になってしまうとは……

 かなりの体格差。

 サファイアを前にしてアレクシスは苦笑いを浮かべていた。彼も相手が自分になるとは思ってなかったらしい。

 体の大きいアレクシスと手を組んだ。

 大きな手。

 大雑把な印象。

 彼についていけるのか?

 不安は隠してサファイアはただ笑顔浮かべる。


「お手柔らかにお願いします」


 裏である『魔物の宴』の音楽が鳴る。

 ニカッと笑い頷く彼を信頼するとサファイアは音楽に合わせてステップを踏み始めた。

昔。コスプレダンスパーティーにハマっていた事が有ります。そんな感じなのかなと思って書いた文章です。あの頃は楽しかった。

アレクシスと踊ると言うのは、二章始まってすぐイメージしていた事なので文章化できて嬉しいです。


突然PVが増えるのでとてもびっくりすると同時に読んでくれている人がいるのだとめちゃくちゃ嬉しいです。

そんな私は今日トイレットペーパーを買ってくるのを忘れてしまいました。

一人で細く笑みながら話の続きを考え忘れないように胸に刻みました。


皆さんもトイレットペーパー忘れなきよう。

今日も読んで頂きありがとうございました。

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