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2 フィノスポロスピティ 1

All Hallows' Eve企画

一話目

 ようやく橙の花が咲き始めた頃、邸の周りに広がる森が少しずつ色味を増していく。

 鮮やかな紅や黄色。

 それに混じる悲しげな枯れ葉色。


 みんな合わせると橙色。


(絵の具みたい)


 窓枠に頬杖をつきサファイアは外の様子を眺めていた。


(あ……)


 木に実るカスタノを見て微笑んだ。

 去年のことを思い出す。


 討伐で水涸れを起こした後、暫くして孤児院に戻る事になった。

 あの時は確か……

 それからエーヴリル様が来てその後にアシェル殿下達が来てた。奉納式の準備をしていて……


 橙の花の匂いと共に記憶が蘇ってくる。


 奉納式をするのに自分が心配だからと色々手伝ってくれた人物や補佐役が終わり思ったよりも淋しいと思った事。


 あれだけ人と関わることに抵抗があったのに今はこうしてここにいて、居心地も悪くない。

 それどころか何故かしっくりしてそれが不思議だ。

 ペルカにいた頃あそこの子供達が井の中の蛙だと思っていた自分こそが蛙。

 本当に知らない事が多い。


 今は夜会がよく行われる時期でサファイアもエリュシオンと共に何度か出席している。そのエリュシオンからこの時期うちに一つくらいは一人で夜会に参加して来いと宿題が出ていた。

 どの夜会がいいかなど分かるはずはない。


(気軽なのはどれなんだろう?)


 毎日届く招待状。

 エスコートをさせて欲しいという誘い。

 封を開ければどれもそんな内容のものだった。


 サファイアが振り返って机に並べられた手紙を眺めていると扉がノックされた。


「入るよ? いてっ」


「ジュディとハーミットです」


 声を聞けばだれか分かる。軽い口調のハーミットにジュディが何かをしたらしい。

 サファイアは軽く吹き出してから口許に笑みを浮かべた。


「どうぞ」


 入ってきたのは自分の護衛となった二人。

 この時期、積極的に夜会に行くのであればこの二人にもついて来てもらわなければならないが、大抵はエリュシオンと一緒で付き添の必要がない。

 それに今は移行時期の為、二人とも引き継ぎがあり、特にハーミットは引き継ぐ事がたくさんあるようだ。

 恐らく引き継ぎを受けるのは彼なのだろうと思うと、どうしても道理的ではないと思ってしまう。

 サファイアは少し苦笑いを浮かべた。


「少し寄るところがあって遅くなりました」


 軽く会釈するとジュディはサファイアを通り過ぎて開けていた窓を何も言わずに閉じた。ジュディの背中で一つに結ばれた髪が揺れる。

 明るい栗色に安心する。


「夜会に行くわけではないですし毎日来なくても……」


「そういうわけには行きませんし、私達を連れて行く夜会もまだ決められていません」


 口に手を当てるとサファイアは首を傾げてジュディから目を逸らした。


「いいと思うものはなくて……」


「夜会は社交の場です。あまり楽しいと思って行くものではありません」


「…………」


 さぁ、選んでくださいとジュディが手紙を前に並べるのを見て諦めて机につくと見たことのある紋章が目についた。

 太陽と剣がモチーフとなっているこの紋章は剣術科を専攻している生徒の徽章。


「これは?」


「フィノスポロスピティですね」


「そんなのまで来てるんですね。情報が早い」


 ん……?

 ジュディとハーミットが手紙に目を向けている。


「フィノス……?」


「フィノスポロスピティ。魔払い祭とも呼ばれていますね」


「凄そうですね……」


 宗教的な?

 サファイアはその招待状を手に取ると中を開けてみた。


『来年剣術科に入学する貴殿に一足先に我ら映日の雰囲気を送らせていただきたく存じます。参加して頂けたら嬉しい フェイズシエラ=バルドタチオス』


 短い文章に簡潔にまとめられている内容が気持ちの良い手紙だ。


「この方が主催者ですか?」


「そうです。フェイズシエラ様は私の尊敬する方の一人です」


 ジュディの尊敬している方の開く夜会。

 サファイアはとても興味が湧いた。


「この夜会について教えてください」


 困惑気味にジュディとハーミットは顔を見合わせていた。

 一つに結んだ髪が胸元にあることに気づくとジュディは髪を後ろに払って姿勢を正した。


 フィノスポロスピティはバルドタチオス氏を中心にした修学院の生徒や卒業生が自由に参加できる夜会で特に剣に縁の強いもの達が集まるのだそうだ。

 体力系夜会と言う人もいるらしい。

 騎士団に所属する者は大体が出席し『魔払い』と言うのはその夜会の形式から来ているそう。


「サファイア様が行かれる夜会とは少し違いますよ」


「俺それ、あんまり行かない方がいいと思う……」


「どう言う事ですか?」


「室内では無いので体力的にではないでしょうか?」


 屋外で行われる夜会?

 この時期に?


「ダンスとかもしたりするのでしょう?」


「しますが……」


 どうやら心配されるほどそれが激しいらしい。

 それはそれで興味が湧く。

 どうやらフィノスポロスピティは体力を消耗し寒さを吹き飛ばして飲んだり食べたりしながら踊る事で魔払いをする。


「…………」


 手紙を見つめていた顔を上げるとサファイアはにっこりと笑うとハーミットが青ざめていた。


「宿題はこれにしましょう」


 ジュディは相変わらず表情に出す事はなく少しだけ息を吐くと「分かりました」と言った。


 トントンと扉を叩く音が聞こえてくる。


「ジュディ様。準備が整いました」


 声の主はハウススチュワートであるアルフォンス。

 ジュディが扉まで行くと外に顔を出して何かを言っている。


(なんだろう?)


「エリュシオン様の指示でね」


「ハーミット!」


 言いかけたハーミットをジュディが制止すると彼は口を押さえていた。

 ジュディが後ろに人を二人連れて自分の前まで来る。

 サファイアは首を傾げていた。


 ジュディが退くと使用人の服を着ている人物二人がお辞儀をして顔を上げた。

 サファイアは目を見開くと思わず息を呑み二人の手を取った。


「エナ! ユニ!」


 ぎゅっと握る。

 エナの優しい栗色の髪、ユニの頼れる笑顔かそこにあった。


「この二人はエリュシオン様から貴方が気を許していた相手だったと聞いています。この場限りなら身分も関係なく話す事が許されます」


 ジュディはそう言うと壁の近くに行き目をつぶっていた。

 信じられない。

 もう会う事はないと思っていた。


「ありがとう……」


「今日はこの子達を迎えに行っていたんです。それで少し遅くなって」


 ハーミットが何故か泣きそうな表情をしていた。

 嬉しい。


「ありがとうございます」


 サファイアはもう一度言うとふにゃっと笑いエナとユニに順番に抱きついた。


「びっくりしたわ。突然エミュリエール様から言われるんだもの」


 エナはずっとエミュリエールの命令で孤児院に残留していたらしい。因みにライルはエアロンの立ち位置になると言う事だった。


「レイも一緒よ」


 エアロンは恐らくハーミットがいた所に上がるはず。元々貴族であるエアロンの穴を埋めるにはレイとライルの二人いなければ難しいだろう。


「レイは元気?」


「勿論!」


 その元気な返事にサファイアは安心した。


「ユニ!」


「私、いつか返せたらいいと思っていたの。それが叶って嬉しいわ」


 ラセルは相変わらず使用人小屋にいるらしい。でも、ユニにお呼びがかかった時ラセルは迷わず「行ってやれ」と言ったのだそうだ。


「ラセル……」


「ラセルは貴方の方が心配だと言っていたわよ?」


 笑って言うユニの言葉にエナも両手で口を覆って笑っていた。


「私はそんなに信用のおけない人間なの?」


「信用がおけないと言うか……」


「そうね、みんな心配しているのよ? 貴方は自分で気づかないから」


「でも安心した」


「ん?」


 サファイアは首を傾げてユニを見上げる。ユニとは少し会ってないくらいなのに随分背が伸びたように感じた。


「暗い顔をしていたらどうしようかと思っていたから」


 ユニの言葉にエナも頷くと優しく微笑みサファイアの髪を撫でていた。


「本当に綺麗」


「そんな事は……」


 首を横に振ると、エナが懐かしんで話をし始めた。サファイアがまだ孤児院にいた頃の話。


「貴方はとても存在感があるの」


「…………」


 自分に存在感があるなんて言われてなんて答えたら良いのか分からなかった。

 確かに目立たない様にと過敏になっていた時期もある。消えてしまえたら良いと思った事も何度もあった。


「だって、エミュリエール様はね、就任されてから数日で私を呼び出して貴方を見守る様に言ったのよ?」


「え……?」


 サファイアは振り返るとハーミットを見た。すると彼は自分の頭を撫でて罰の悪い笑顔を作っていた。


「俺が来た時にはもう見守られている状態だった……かな?」


「……知りませんでした」


「君はあまり人を近づけさせなかったからね」


 そんな前から……

 驚きで言葉が浮かんで来ない。今更知ってしまった衝撃的な事実にサファイアは両手で顔を覆いしゃがみ込んでいた。


「あれ、感動のご対面真っ最中?」


 仕事を終えて帰ってきたエリュシオンが前触れもなく扉を開けて中を覗き込んでいた。


「そういう訳では…………」


 しゃがんだままサファイアは顔を上げると他の四人がエリュシオンにお辞儀をしている為、自分も立ち上がり頭を下げた。

 エリュシオンは何故かため息をついていた。


「君は僕の娘なんだからお辞儀とかしないでよ……それと、二人は仕事を覚え次第君の侍女になるから」


 侍女はレディーズメイドとも呼ばれ女主人の部屋、特に髪結いや着替えなどの身の回りの世話をしてくれる。

 突然そんな事を頼まれて二人も困ったのではないだろうか?


「二人とも二つ返事で心良く引き受けてくれたよ?」


 心配そうな表情をしたサファイアにエナもユニもにっこりと頷いていた。


 本当は仕事を覚えてもらうまでは主人とは合わせてもらえないらしい。今会わせてもらえたのはエリュシオンの計らいだろう。


「勉強頑張ってくれるかなと思ってね」


 何を考えての事かは分からなかったが、それでもサファイアは嬉しかった。


 暫くはまた会えないだろう。

 エナとユニが出て行くのを見送るとエリュシオンが座る様にと言う。


「宿題。何処にするか決められたかなと思ってね」


 夜会のこと。

 エリュシオンの前にお茶を置いたハーミットはサファイアの方にもやって来てお茶を置く。その際にハーミットを見上げると彼は急に目を逸らしてそそくさと下がっていった。

 ジュディを見ると彼女は静かな表情で小さく頷いた。


「フィノスポロスピティにしようと思ってます」


 ゴフッ。

 エリュシオンは目を丸くして軽くお茶を吹き出していた。暫く口を押さえて体を震わせているのでいけない事だったのかと思いサファイアは立ち上がった。


「あはは。あはははは。本当に?!」


 体に手を触れようと手を伸ばすとエリュシオンが大笑いし出したのでサファイアはきょとんとした後半目になった。


「あれ? どうしたの?」


 すぐそこまで来ていたサファイアに気づいたエリュシオンが手を差し出した。

 隣に座れという事だろう。

 その手をとり隣に座る途中もエリュシオンは今にも吹き出しそうな顔をしていた。


「何かいけない事を言ってしまったのではないかと心配したのに……」


「ごめんね。まさかそれを選ぶとは思わなかったから」


 サファイアは俯いてブツっと呟いた。


「これも宿題に該当しますか?」


「まぁ、本当は普通のやつがいいけどね。該当する事にしよう」


 サファイアは目を輝かせて両手を握りしめていた。その様子をエリュシオンは不思議そうに見ていた。


「君もそんな風に思ったりするんだね」


 サファイアはエリュシオンを見上げると首を傾げてから両手を眺める。

 確かに……


「驚きました」


 というか、同じ事を少し前にも言われた気がした。


「意外と剣術科にしたのは正解だったかも」


「剣なんて見たことくらいしかありませんよ?」


「分からないよ?」


「…………」


 確かに確かに。

 分からない事は本当に沢山ある。

 サファイアは口許に笑みを浮かべるとコクッと頷いた。


「そこの二人。サファイアにはフィノスポロスピティについて説明した?」


「はい。簡単に」


 体力系が集まる魔払い祭。

 昔を懐かしんで皆集まるもの。

 会場は外。動き回っていなくては寒い。


「衣装の話はした?」


「いえそれは了承が得られてからと」


「ドレスではなくてですか?」


 エリュシオンが人差し指でサファイアの唇を押し黙るように目くばせする。


「…………」


 この人は凄いなぁとサファイアは目を細めた。


「サファイア。このフィノスポロスピティはね仮装パーティなんだ」


 悪魔や天使。魔物などの仮装をして大騒ぎするらしい。しかも、仮面をつけ誰だか分からないようにするのが決まりなんだそうだ。

 でも大体は誰だか分かる。

 そうらしい。


「僕は行ったのは一回くらいしかないけどね」


「私は毎年参加させていただいてます」


 エリュシオンがジュディを見ると理解した彼女はテンポよく答えた。


「ハーミットは?」


「俺……私はその。あの雰囲気が怖いので行った事ないです」


「…………」


「大丈夫そう?」


「たぶん……」


 返事を聞くとエリュシオンがカラカラと笑う。


「じゃ決まり。二人とも準備と護衛をお願いね」


「了解しました」


「……了解しました」


 ハーミットはその決定事項に顔を青くしていた。


 フィノスポロスピティに参加することが決まるとそれに参加する為の準備が進められた。

 着ていく衣装をどうするかという事と体力づくり。あとは、ダンスを覚える事が勉強と同時進行で行われる暫くの課題となった。

 日は半月後。

 衣装については使用人達がああでもないこうでもないと言い出し、なかなか決められそうもなかった。

 朝起きて食事を済ますとグエナヴィア先生から魔術以外の講義と礼儀作法の指導をされる。ダンスはその後昼までの間教えてもらえる事になった。

 昼食をとりエリュシオンが帰ってくるまでの時間は自由時間。サファイアは雨が降っていないと外に出て森の中を歩いて回っていた。


 エリュシオンが帰ってくる時間に合わせて邸に帰ってくると少し今日のことを話しながら魔術を教えてもらう。

 それは、貴族界で自分を守る為の方法の一つにする為だとエリュシオンは言った。

 夕食までの時間はお互いあまり集中して取り組まない。遅めのお茶程度である。

 集中して取り組むのは夕食を食べた後から。

 そして、エリュシオンがよく怖い。笑っているのに無言がとても怖かった。

 エリュシオンはサファイアに自主練習を指示すると、自分は紙に何かをまとめている。


「エリュシオン様まで勉強しなくてもいいじゃないですか……」


「これは万が一の時の為だよ」


 手元は動かしたままエリュシオンは器用に答えた。

 万が一。

 エリュシオンの書いている用紙を見るとの正二十面体の魔法陣が見えた。


「誰かと魔術を使う事になったら君には無理だなぁと思って。それなら僕が君に合わせた方が早いと思っちゃったよね」


 僕って天才。

 エリュシオンはそう言ってにっこりと頬杖をつくものだからサファイアは口を押さえて「ふふっ」と笑い声を零した。

 エリュシオンはまたペンを動かすと下を向いた口に弧を描いていた。


 その数日後。

 良い天気の日で午後から外に出るとサファイアはニュクスを連れて森に向かって走っていった。

 周りに広がる森にはコウネリやスキウロスなどの毛に覆われている動物達がおり機嫌が良ければ触らせてくれる。

 とても幸福だ。

 帰り道が分からなくなってもニュクスが渋々案内してくれるので迷う事は無い。

 ガサッと音がして振り向くといたのは見たことのない動物だった。

 大きな耳で犬のような顔なのに目が細い。

 細い手足の先は黒くなっていて金色のような毛並み。


(うわぁ、触りたい……)


 その尻尾がとてももふっとしておりサファイアは目を見て輝かせていた。

 姿が見れたのは少しの間。

 その動物は耳をピクッとさせるとすぐに行ってしまった。


「エリュシオン様?」


「ん?」


「今日初めて見た動物がいたのですがエリュシオン様なら知っているかと思いまして」


「どんなの?」


「ええと、まず耳が大きくて。尻尾が凄くてこうもふっとしているんです」


 サファイアはあのもふっとした尻尾を両手で掴む仕草をした。


「目が細くて黄色い毛並みをしている?」


「そうです! あの子はなんて言うのですか?」


「あの子ねぇ……。まだ居たんだ、アローペークス」


 エリュシオンはとても懐かしそうだった。

 食事の後エリュシオンが部屋に来るようにと言ったので、尋ねてみると何枚かの写し絵を見せてくれた。


「これは、子供の頃のエリュシオン様とエミュリエール様ですか?」


 おぉ。

 別に子供は好きではないが、二人にもこんな時期があったと思うとサファイアは少し感動してしまった。


「そんな事はいいからさぁ。兄上の横に居るでしょ? 昼間見たってやつ」


 エリュシオンに言われてサファイアが目を移すと言った通りに昼間見た動物がいた。


「これですね」


 サファイアは両手で絵を掴むと瞬きもせずずっと見ていた。


 アローペークスはアクティナでは珍しい動物らしい。この土地を気に入っているのか昔から森に棲みついているのだという。

 攻撃的ではなく警戒心がとても強く足が早いのですぐに逃げられてしまうんだそうだ。


「でもこれ……触ってますよね?」


 絵のエリュシオンの手は確かにアローペークスの尻尾を掴んでいた。

 羨ましい。


「ちょっと、食いつきが凄くて僕怖いんだけど」


 エリュシオンは苦笑いしてサファイアから写し絵を受け取り本に挟んでいた。


「危なくはないから、遊んでもらったら?」


 遊んでもらえたらだけどね。とエリュシオンは笑っていた。

 その本には色々な写し絵が挟まれているのが見えどうやって作るのだろうかとサファイアは気になっていた。


(今度聞いてみよう)


 今はフィノスポロスピティに向けての準備が先。

 でも……

 一つだけ聞きたいことがあった。


「エリュシオン様!」


「ちょっと。怖いから普段のようにしてよ!」


 何かを触るような仕草をしながら寄って来たサファイアが少し怖くてエリュシオンは後退っていた。


「あの……尻尾はどんな手触りだったのでしょうか?」


「んー……秘密」


 エリュシオンは天井を見て黙るとニコッと笑ってそう言った。


「エリュシオン様!」


 この表情をする彼はもう教えてはくれない。

 サファイアは仕方なく諦めて肩を落とすと、とぼとぼと自分の部屋に戻っていった。


「エリュシオン様。秘密ではなく、覚えてないと言って差し上げれば良いですのに」


 夜間の水差しを持ってきたアルフォンスがカップの埃が気になりフキンで拭いてからトレーに置いた。


「あはは。楽しくてつい」


 エリュシオンは人差し指を立てて口に当てている。言うなという事だ。

 アルフォンスはフキンを折り畳みおとしに入れると承とも辞とも言わずお辞儀だけして言葉を飲み込みエリュシオンの部屋を出た。


 やれやれ。

『楽しくて』ではなく『可愛くて』ですよエリュシオン様。

 人知れずアルフォンスはため息を吐いた。

 言える日が来るといい。

 そう思いながらアルフォンスは静かに扉を閉めると突き当たりにあるサファイアの部屋に向かって歩いて行った。

ハロウィンもそうなのですが、討伐などで命をかけて働く修学院の卒業生達は大学生とかであるhomecoming dayみたいなものがあるといいと想像しました。

また会う約束をすれば一年死なずに頑張れる。

主催をしているフェイズシエラの願いの込められたフィノスポロスピティは『秋に訪れる故郷』と名付け誰の故郷にもなれるイベントとなっています。

 そんなフェイズシエラにも大切な人をなくす過去が……まぁ主催者は何かしらそれを主催した理由があるのです。


世界は繋がっていて、世間は広くて意外と狭かった。

サファイアはエリュシオンからエアロンの事を聞いた時にレイの面倒を見ていたことを知りました。

なので、エナからレイの名前が出た時も然程驚きはありませんでした。


BGMにやなぎなぎさんRainy veilお聴きください。

今日も読んで頂きありがとうございました。

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