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47 秘事は睫 24

ひぇ〜

 証言台に立つと前に立つ査問長が何かを読み上げている。

 何も聞こえない。

 大体罪に問う場でこういう不正みたいのは良いのだろうか?

 サファはそう思って首を傾げるとそれに気付いたかの様にエリュシオンの声が聞こえた。


『僕が言う通りに証言してよね』


 エリュシオンは後ろの証人席にいたはずである。後ろを振り向くことも出来ず足台の上に立ったままサファは証言台に手をかけていた。


(一方通行ですか……)


 相変わらずエリュシオンは強かなようだ。


 少し騒ついている会場に査問長の声が響き渡った。


「静粛に。人定質問を始めます」


〜人定質問〜


 サファことイシュタルの使い。

 貧民街においてペルカではキトリと名乗り、ネモスフィロから使用人小屋での滞在していた期間はノイと名乗っていた。

 歳は11。22年4月11日生まれ。

 孤児院に籍を置いていたが今年初めから3の月〇〇まで失踪。その間ネモスフィロに数日滞在の後使用人小屋で滞在し事件発生に至る。



「間違い無いですか?」


 何かを聞かれているのか査問長が自分を見ているが何も聞こえない。

 会場全体の空気がざわついている感じがする。

 気分が悪い。

 耳から『間違いないと答えて』と声がしてサファはピクリと頭を動かした。


「……間違いありません」


 聞くことが出来なければエリュシオンを信用してそう答えるしかない。

 気遣いもあったのかもしれない。


(そんな事をしなくても決めているのに)


 でも、自分がいらない事を言わず言う事を聞かせるためにエリュシオンはこの魔術を自分にかけたのだとサファは目を閉じた。

 今回全力で養子に迎え入れるつもりであると言うエリュシオンの意思表示だと。


「では、マクレーン代言士。起訴状朗読をお願いします」


「了解致しました」


〜起訴状朗読〜


 サファことイシュタルの使い。以後被告人と総称する。

 3の月〇〇日、被告人は修学院の使用人の立場でありながらハムレット=ジョナ=アンダーソンへ襲いかかり怪我を負わせた。

 罪名、亡状殺未遂及び傷害 罰条 国法第122条及び108条を犯したものとしてここに起訴する。



「続けて黙秘権告知を致します。被告人。貴方には言いたくない事は言わなくても良い権利があります。但し、被告に有利であり、不利であっても全て証拠に含まれるので注意してください。また必要と考えたときには陳述をすることができます」


「…………」


「マクレーン代言士。冒頭陳述をお願い致します」


 被害者側の代言士が頷くと資料をもち冒頭陳述を読み上げた。


〜冒頭陳述〜


 使用人管理者のエリック=ボンゴールより話があると言われた被害者は、3の月〇〇 2の刻に修学院寮の一室に来るよう言われた。

 被害者が指示された日時に部屋へ行くと被告人がやって来て暴走し突然ナイフで切りつけかかった。

 ナイフを避けた被害者が逃げようとすると魔術を使い攻撃されたが、エリュシオン=バウスフィールドにより救出され亡状殺は未遂に終わった。



「これがその時身につけていた服です」


「この点々と付いているものは何ですか?」


「被害者が暴行を受けた時に着いた血液です」


 点々と血のつくシャツと切りつけたナイフが証拠品としてマクレーン代言士より提示される。

 フェルデンが隣で余裕な表情をしているユリーフを見ると彼が目で「やれ」と微笑んだ。


「その証拠品について異議を唱えます。そのシャツの血液は被害者のものではありません」


 最初の一声が自分の声ではないかのように擦れる。フェルデンは一度咳払いをして喉を整えると異議を唱えるための証拠を提示すると言い被害者尋問の要求を申し出た。

 査問長が国王陛下を見ると頷いており頷き返す。


「確かにこれだけでは証人の血液という事は分かりませんね……異議を認めます。被害者、ハムレット=ジョナ=アンダーソンさん。証言台に立ってください」


 サファは控えていたルシオに足台から降ろしてもらい被告席に移動すると、代わりに証言台へハムレットが移動して来た。

 少し緊張しているのか彼は左右の足に交互に体重を移動させて両方の代言士をきょろきょろと見て落ち着かない。


「ファーディナンド代言士、被害者の尋問をお願いします」


「了解致しました。では、被害者ハムレット=ジョナ=アンダーソンさん。あなたが呼び出されてその場を立ち去るまでの事を証言してください」


 フェルデンが頷くとハムレットに向き尋問を開始する。


 止めればいいのに。

 査問会の進行に耳を傾けていたエリュシオンは目をつぶって静かに微笑んでいた。



〜被害者証言〜(ハムレット)


 被告人から暴力を受け部屋から立ち去るまでの出来事。


 話しがあると使用人管理者のエリックに呼び出されて修学院寮の一室で待っていると、茶色の髪と瞳の小柄な人物がやって来たんです。

 イシュタルの使いという事は知りません。少年だと言われていました。

 その少年と話していると突然目を紅く光らせてナイフを振りかざして暴力を振るって来ました。

 怖くなって部屋を飛び出すとバウスフィールド卿がいて背中に隠れました。「逃げろ」と言われたので寮の出口に向かい必死に逃げました。



「その少年とここにいる被告人は同一人物ですか?」


 ハムレットが振り返るとサファを一つ睨み前を向く。


「……間違いありません」


「何故そう言い切れるのでしょうか?」


「被告の首にかけているペンダントはその時自分が鎖を千切って床に投げました」


「なるほど」


 相手もよく見ているとフェルデンは感心する。でもそれだけでは自分を不利にしてしまうなど彼は気付かないのだろう。

 ため息を吐きたくなる。

 エリュシオンは勝てない勝負は以前からしない。証人席の彼を見ると俯いて口に弧を描いている。

 初めからそういう勝負だ。


「『話をしたら紅く目を光らせた』と言いましたがどういう話をしたのですか?」


「小さくて見窄らしいと言いました。腹を立てたのでしょう? 本当の事なのに……」


 フェルデンが会話について確認するとハムレットは鼻で笑った。


「被告人は一人で来ましたか?」


「異議あり。その質問は『被害者が暴行を受けた』事に対し関係がないと主張します」


 法立館の代言士にも派閥が少なからずある。被害者側のモーセウス=マクレーン代言士はファーディナンド家が所属する派閥と敵対している相手だ。

 しかも、フェルデンと比べて年配でユリーフよりも先輩にあたる。

 彼は被害者が余計な情報を発言しないように絶妙なタイミングで異議を唱えた。


「…………」


「異議を認めます。ファーディナンド代言士。質問を変えてください。被害者に他に聞く事はありますか?」


 被害者にはこれくらいで十分だろう。フェルデンは落ち着いて首を横に振り意思を表示した。


「いいえ。ありません。被告側は更に証人であるエリュシオン=バウスフィールド卿の尋問を要求します」


 さあ。

 ここからが本番。

 フェルデンは資料を握りしめる手に力を込める。


「もう少し力を抜がないと最後まで持ちませんよ」


 ユリーフは「ふふっ」と笑ってフェルデンに何枚かの資料を渡した。


「え? もうこれを?」


「そうですよ? 出し惜しみして何になります?」


(全力で)


 彼はそう言うかのようにフェルデンを横目で見て微笑んでいた。

 ユリーフは意外と思い切りの良い人物だった。

 ただそれは査問会の時にしか見れず、いつもはぼーっとしていて何を考えているのか分からない。

 代言士となると5年は先輩に付き一人で査問会に立てるまでのイロハを教えてもらう。最初に彼が自分の担当になった時はその頼りのなさに正直残念に思っていた。

 初めて補佐として1stの査問会に行った時、その印象は何処かへ飛んでいった。

『能ある鷹は爪を隠す』という言葉は彼の為にあるのだとフェルデンはユリーフをとても尊敬している。

 この1stを担当するにあたりユリーフから言われているのは「あなたの集大成、見せてください」という事だ。

 次は一人だろう。

 そのつもりでいなければ。


「先輩、今日はなるべく見ているだけにしていてください」


 資料を受け取るとフェルデンはユリーフに笑いかけた。


「勿論ですよ。居眠りでもさせてもらいます」


 そんな冗談にフェルデンは吹き出さないように息を止めて口を噤んだ。


 コホン……

 咳払いが聞こえた。


「楽しそうな所すみませんが、ファーディナンド代言士、バウスフィールド卿の証人尋問をお願いします」


 査問長の声にフェルデンが慌てて姿勢を正す様子をみてエリュシオンが口を押さえていた。

 エリュシオンが口から手を話すと口だけを動かして何かを言う。


 それが何かフェルデンが気づくと顔つきが変わった。

 可もなく不可もないのは悪いことではない。

 フェルデンは優秀な成績で代言士となった。数名同期がいたがその中でもフェルデンは優秀で仕事も卒なく熟すが、受動的である為大事な事案になるとユリーフは自分が代言をするようにしていた。

 自分からやると言う事を待っていたのだ。


 今回の事も、補佐として動こうかと思ったがフェルデンは自分が主でやると言った。

 依頼主はアシェル王子殿下ということだが恐らくバウスフィールド卿の指示。

 フェルデンとは修学院で成績の首席を争う相手。


(やっぱり、張り合いというものなのですかね)


 ユリーフはこの後が楽しみになり代言席で静かに佇む事にした。


「ファーディナンド代言士、どの証言を要求しますか?」


 フェルデンは息を整えると落ち着いて発言した。


「現場に駆けつけたときの被告人と被害者の様子を証言してください」


 査問長が頷きエリュシオンに宣誓を読み上げるように促す。


「良心に従い真実を述べ,何事も隠さず,偽りを述べない事を誓います」


「では、エリュシオン=バウスフィールド卿。証言をお願いします」


 エリュシオンが宣誓書にサインをして書記官に渡すと証人尋問が開始された。



〜証人尋問〜(エリュシオン)


 被告人と被害者と現場で会ったときの様子。


 呼ばれて現場に駆けつけると開けようとした部屋から被害者が飛び出して来ました。

 確かにその証拠品のシャツを着ていた覚えがあります。ですが、被害者は怪我をしているようには見えませんでした。

 被害者は飛び出して来るなり自分の後ろに隠れて「化け物だ」と言いました。

 部屋の中を見ると傷だらけで腕から血を流している被告人を確認しました。

 魔術が飛んできて障壁を使い防御しましたが、被告人はかなり興奮している様だったので被害者に逃げる様に言いました。



「あなたは被告と被害者を見てどう思いましたか?」


「被害者が被告人に一方的な暴行を行い怒らせたのだと思いました。シャツの血液はその返り血ではないかと」


 悠々と語るエリュシオンの声がサファにも聞こえる。確かに偽りは述べていなかった。

 不利な証言にハムレットとその両親がエリュシオンを睨みつけていた。


「異議あり。証人の発言は個人の予測の範疇に過ぎません。証拠の提示を求めます」


「確かに……予測の範疇ですね。被告側は証拠を提示できますか?」


 フェルデンは一枚の報告書を提出するとその際に映像を写す魔道具も一緒に渡した。


 エリュシオンが他所行きの表情で笑っている。

 サファにはエリュシオンの声だけは聞こえる。

 まさか……

 映像が映し出されるとサファは怖くて俯き目を逸らした。

 

 空気がざわつく気配がする。


 一呼吸置いてエリュシオンの声がした。


「この映像の状態と相違有りません」


 想像を掻き立てる。

 聞こえないのに騒がしくて堪らない。サファは思わず耳を押さえていた。

 ルシオが背を撫でる感覚と肩に乗るニュクスが顔を近づけている事に気づきサファは何度か深呼吸をして息を整えた。


『見なくてもいいから頷いて』


 エリュシオンの声が聞こえて首を縦に振る。


(エリュシオン様は意地悪だ……)


 空気が更にざわついて大きな声を出しても相手に伝わらないそんな中にいる様な感覚だった。

 何かが込み上げて耳を押さえる。


 怖い……


 怖い……


 自分を抱えたルシオから振動を感じる。

 ルシオはかなり大きな声で何かを言っていた。サファは耳を塞ぎ目を閉じたまま、その時の怒りが戻って来たりしない様に何度も自分に言い聞かせる。


 駄目……


 ギュッと目をつぶり身を固くしているといつの間にかサファは控え室に戻っていた。

 少しずつ目を開けるとソファに座ったルシオの膝の上にいる事に気づく。ルシオが何かを言っているが分からなかったが一言だけは唇の動きで分かるものがあった。


 大丈夫か? と


 サファが声を殺してルシオに泣きつく。

 ルシオは事情を知っていたがそれがどんなに怖かったかという事は彼女の普段の振る舞いからは感じていなかった。

 普通ならユニと言う少女の様に振る舞うのが自然だろう。

 11歳。

 平民なら親元を離れて仕事に出ている歳。貴族であるならようやく貴族とはどういうものであるか、四つの機関がどういう働きをしているかが分かる歳である。

 こんな子供に。

 ルシオはエリュシオンの采配に不満を感じつつ、取り乱して縋るサファをただ撫でてやることしかできなかった。




 騒めく傍聴席を無視してフェルデンが証人尋問を再開した。

 途中で退場したサファの事は少しかわいそうだったが、それはルシオに任せる事にした。


「被告人側は今提示したものを証拠品として提出します」


 彼女が取り乱すことも想定内だ。それすらも証拠とする強かさがここには必要だった。


(……かかれ)


 モーセウスが不敵な笑みを浮かべている。彼は腕を組むと自分の腕を叩いていた。


「異議を申し立てます。証言に不明瞭な部分があります」


 査問長がアンセル国王陛下を見ると頷いた。


「発言を認めます。何が不明瞭か理由を述べてください」


 モーセウスが不潔なものを見る目でエリュシオンを見る。


「バウスフィールド卿。あなたはその現場へ呼び出されたと言いまいたが?」


「…………」


 口を覆ったエリュシオンがその下で口角を上げたのは誰も知る由もない。

 ただその仕草を見てフェルデンは嬉しそうだと思っていた。

 慎重に。

 フェルデンは発言するタイミングを見計らった。


「あなたを呼び出した人物は誰ですか?」


 エリュシオンは躊躇うように口を押さえたまま黙っていた。懐から一箇所に金の糸で薔薇の刺繍があしらわれている黒い扇を取り出すとぱたぱたと自分を仰いだ。


「どうしましたか? 証人。答えられませんか?」


 薄ら笑っているモーセウスを斜めに、査問長からも返答を早くしろと要求されてようやくエリュシオンは扇を仰ぐ手を止めると口を開いた。

 あまりやるとわざとらしくなるとユリーフが小さく「ククっ」と笑う。


「……私を呼び出したのは被告人です」


 モーセウスがニヤッと笑っている事を確認するとエリュシオンは扇の下で口許に笑みを浮かべた。


「査問長。バウスフィールド卿が被告と連絡のやり取りをしていた事が判明したからには二人の関係を明らかにする必要があると主張します」


「ファーディナンド代言士は………」


 エリュシオンを見ると口を扇で隠したまま、横目で自分を見て一度瞬きをした。

 確か黄色い薔薇はエリュシオンの象徴だったと扇の刺繍を見てフェルデンは思い出した。


「異議はありません」


「では、マクレーン代言士の主張を認めます。証人は被告との関係を証言してください」


 軌道に乗り始めた。

 エリュシオンは扇で数回仰いでからパタンと扇を閉じる。


〜証人尋問〜(エリュシオン)


 被告との関係。


 被告とは養子の契約を交わしています。

 契約を交わしたのは事件の数日前、その時に被告は友人が死にそうだから助けてほしいと言いました。



 一気に会場の騒めきが大きくなった。


「馬鹿馬鹿しい…………バウスフィールド卿。あなたはそれがあったのになぜ証人の了承をしたのですか?」


 モーセウスが呆れた顔で腕を組んでため息をついた。

 そもそもこの査問会は罰条は国法の亡状殺人罪未遂と傷害罪どちらも位の高い相手に行い罪に問われるもので、既にバウスフィールド家の養子になっている場合は適応ではなくなる。


「そもそもこんな貴族同士の事案なら1stな訳ないでしょ?」


「…………」


 エリュシオンの言葉にモーセウスは言葉を失す。

 モーセウスもおかしいと思っていた。この事案なら1stではなく2ndなはず。それでも1stなのは被告がイシュタルの使いだからなのかと思っていた。


(制裁か……)


 モーセウスがこの査問会を利用されたことに気づくと腹を括る。

 付き合ってね?

 エリュシオンはにっこりと笑った。


 査問会はここで半刻の休憩を挟むことになった。

 少し早いが、昼食を取るには良い時間。


「昼食は摂らない方が良いかと思われます」


 フェルデンはそう最後に発言すると首を傾げていた査問長に背を向きユリーフと共に会場を後にした。

 モーセウスから被害者側は退去してもいいのか質問が来たが被害者達も関わりがあるのに返すわけにはいかない。

 フェルデンが「却下」と返事を返すと彼は渋い表情をしていた。


「しかしバウスフィールド卿。見かけによらず随分と思い切った事をしましたね」


 査問会は国王陛下もいて、法を重んじるものが集まり、貴族も集まる場。

 確かにちょうど良い。


「あはは、貴方に言われるなんて嬉しさの極みですよ。ユリーフ=エクレストン殿」


 ユリーフとエリュシオンが笑い合う社交辞令の会話がフェルデンにはお互いに腹に何を一物抱いている様に見えた。

 どちらも相手にしたくない。

 フェルデンは見なかったことにしておいた。


「控え室に行きましょう」


 サファは査問会の途中で体調不良を起こして退場している。そちらは国手であるルシオが付き添っているので心配はしていなかったが、控室に行き実際具合悪そうにソファで丸まっている彼女を見てフェルデンは可哀想に思った。

 トイレで桶の中を流して来たルシオが戻ってきてサファの様子を見ると自分らを睨む。


「終わったんだろうな?」


「まだ、休憩なだけ。半刻後に後半が始まる」


 ルシオがエリュシオンに掴みかかった。先日よりもずっと荒っぽい。


「この子に見せるつもりか?! 泣いて! さっきまで吐き続けていたんだぞ?!」


「当たり前。だって唄ってもらわないといけないし」


 ユリーフがルシオの腕を掴むと張り付けた笑顔でエリュシオンから離した。


「エリュシオン殿、ルシオ先輩は少し情熱的なのでもっと丁寧に伝えないと……」


 別にいいんだけどね。

 エリュシオンが肩を竦めるとサファの方に歩いて行くのでルシオが止めに入った。


「ルシオ兄。僕は別に無理してこの子を後半に出席させるつもりはないよ。ただ僕の養子として本人に決めてもらう。それでいい?」


 これを明らかにしたいと言ったのは誰でもないサファだ。自分が参加の是非を決める権利はない。ルシオは遮っていた手を下げると「分かった」と言った。


 今回の査問会、未成年のハムレットには両親が同伴していた。未成年のサファも同じように保護者が必要だが孤児の為両親というわけには行かない。

 エリュシオンは養子とすると言った時にエミュリエールから保護者の権利を譲渡してもらっている。

 既に養父のエリュシオンが付き添えば良いが、今回はエリュシオンが証人として出る必要があった為、もう一人身元引き受け人として立てたのがのがルシオだった。

 その場合双方同意では無いと査問会には出席させる事はできない。


「せめて聞こえるようにしろ。この子はトラヴィティスだ。聴力を奪われるほうがずっと混乱する」


「うん。分かったよ」


 息を吐くとソファの前で屈みエリュシオンがサファの耳に手を当てた。彼女の側にいたニュクスが腕を伝ってエリュシオンの肩に乗りキュイキュイ小さく鳴いている。


「珍しいね。僕あまり生き物に好かれないんだけど」


 エリュシオンの薄い金髪と白い服にニュクスの黒がとても目立っていた。

 耳の暖かさがなくなり周りの音が聞こえる。サファが腫れぼったい顔を上げると大人が覗き込んでいるのが見えた。

 特にルシオの表情が怖かった。

 かなり心配させてしまったらしい。


「大丈夫です。聴こえないのは意外と駄目でした……」


「そう。ちょっと話をさせてくれる?」


 エリュシオンはこれは親子の会話だと言うと、他の三人を部屋から追い出した。

 しばらくして話が済んだからと中に入るとサファはまた泣いていたのか目を赤くしており何を言ったのかエリュシオンを問い詰めようとした。


「ルシオ様、違うんです。これは悲しいのですが嬉しいのです」


「出なくてもいいんだぞ?」


 サファはふるふると首を振った


「私は最後までこの査問会にいる義務があるのです」


 ルシオはサファの頭にぽんッと手を乗せると「そうか」と諦めたように言った。


 もう暫くすると査問会の後半が始まる。

 三人が食事を摂らないのを見てルシオがなぜかと言うと「吐きそうだから」とユリーフが軽く答え、フェルデンが苦笑いしていた。

 その様子を見てルシオは今日は食事が取れなさそうだとため息をついた。

次回査問会後半、魂送りまでかければいいのですが。


設定のちょっと話はありません。

ご想像ならお任せします。


読んで頂きありがとうございました。

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