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24 秘事は睫 1

お久しぶりです。

少し話が重いのでR15をつけました。

了承の上お読みください。

 雨の続く日々。


 雨季なので仕方ない。

 たまの晴れの日は昼間の気温は高くなり湿気でさらに暑くなる。

 晴れの暑くなった日には夏の日の夕方の様な突然の雷と共に白雨となっては大地の温度を下げていった。


 まったく、寒いのか暑いのか分からない。


 外には甘い匂いの強い白い花に黒い小さな虫が集り、雨でしっとりとした青色のオルタンシアには、体に対して重そうな殻をつけたサリガリが葉を伝って行く。


 殻があるだけで何故か可愛く見えるのが不思議だ。


 空に雷鳴が轟き大気が震える。

 特に雷に嫌な思い出がある訳ではないのに、ゴロゴロと言う不穏な音が恐怖感を煽る。


 何かを思い出しそうで怖い。

 目をつぶり手で耳を塞いで蹲って震えた。




24 秘事は睫 1


 外仕事中に急に降り出した雨のせいでノイはびしょ濡れになっていた。

 服に含んだ水分が体の熱を奪っていき唇が紫色になっていた。


「きゃっ、ビックリした」


 そんなノイの姿を見た同僚の少女が短く悲鳴を上げる。


「早く拭かないと! また汚くなったって打たれるわ」


 普通ならびしょ濡れに対して心配する言葉が聞かれるところだが、ここでは管理者の言うことを聞きいかに目をつけられない様に過ごすかがここに暮らすもの達の言葉にしない決まりだった。


「そうだね……」


 声で判断出来るジェディディアの協力でここに来れた。この前の様に声で明るみに出る事もないだろう。

 それに、今回は前みたいに話せないと言う訳には行かなかった。呼ばれたらちゃんと返事をしなければ鞭で打たれるからだ。


 ノイはタオルで体と床を拭くと急いで着替える。


「もうそろそろ生徒達が居ないだろうから、掃除しに行かないと。綴じものもあるの」


 因みにここは、貴族が通う学校の敷地内にある使用人小屋。


 朝から晩まで働かされ出されるのは少しの質素な食事。


(キトリの時よりはマシかな)


 前にいた所がなかなか過酷だったので少し感覚が麻痺しているのかもしれない。

 整えられていた髪は伸びて祭事補佐役になる前のようにボサボサになり、普通の人が我慢ならないこの状況もノイは我慢が出来てしまっていた。


 少しまえの自分なら置いて来てしまった人達の心配をしたのではないかと思うが、今はそんな余裕はない。

 仰せつかった沢山のことをこなして行くので精一杯だった。


「ノイ早く! 食事の時間までに終わらないわ」


 ここへの紹介状にウェンはノイの名前で書いたらしいのでそのままノイの名前を使う事になった。

 因みに、男か女かは聞かれなかったので引き続き男の子の様に振る舞っている。


「ごめん、行こう?」


 ペルカで明らかになった方向音痴は治るものでもなく、ここでも最初は散々迷っては時間までに仕事が終わらずに鞭で屢々(たびたび)打たれると、終いにはこのユニと言う女の子と組まされた。


「ユニ、どこ行けばいいんだっけ?」


 二人は早く目的の場所に辿り着くためにぱたぱたと足音をさせて早足で歩いて行くとノイの髪から、ポタっと何回か水滴を落ちた。


「もうっ、ノイは頭は悪くないのに本当に方向感覚だけは死んでるのね」


「……ごめん」


「昨日と同じ幻日塔の三階よ」


 昨日と同じと言われても迷ってしまう。

 何年もいた大聖堂の建物とは違うしこの建物は規模が広い。

 一月くらい経つ今でも一人でその場にノイがたどり着くのは至難の業だ。


「魔術のところだったよね?」


「そうよ、そういうのは分かるのね」


 ファクナスの討伐で水涸れを起こした時、ノイはは城の人たちに修学院に入り魔術を学んだ方が良いと言われた。


 そう、ここは修学院。


 魔術を学ぶ者が集まる「幻日(げんじつ)塔」の他にトラヴギマギアを学ぶ「月暈(げつうん)塔」、剣術を学ぶ「映日(えいじつ)塔」がある。

 昼間は生徒の寮の掃除、授業が終わった後は院内の掃除と配られる教材の準備などを総勢十人程で行なっている。


 アシェルもここに通っているとの事だが生徒達とは顔を合わせない様にするのも使用人達の規則となっていた。


 ノイはユニの後に着いて行くと目的の場所に辿り着く。

 ここまで来ればこっちのもので、手馴れた様子でノイは掃除を始めた。


「私は綴じものの方を貰ってくるわね」


 ユニはノイの掃除ぶりを見るとそう言って何処かにその物品を取りに行った。


 講義室にポツンと一人になる。


 この階だけの掃除は広範囲になるので少し大変だが掃除が好きな事もあり、一刻もすれば大体が終わる。

 雷鳴で滅入ってた気持ちが少しすっきりする。

 邪魔がない分効率よく掃除を終わらせると、ユニはユニで貰ってきた用紙を留め具で一纏りずつ分けていた。


「おわったの? こっちももう直ぐ終わるわ」


 ユニが手に持っている用紙を見ると魔術の事が書かれていた。


(これは転移のやつかな?)


 説明書きと魔法陣の感じからして転移魔術のものであると思うと、パラパラと綴じた物をめくって首を傾げた。


「ノイ? 貴方字が読めるの?」


「あ……うん。少しだけ」


 そんなことよりも綴じられている順番が気になった。


「これ、順番平気?」


「私はこう言われただけで内容は分からないわよ?」


 うーん……

 続きの文章の間に図説の用紙が綴じられてとても不自然だったが、ユニがそう言われたのであれば仕方ない。

 ノイはまた晴れない気持ちになり、じっとりと綴じものを眺める。


「…………」


「どうしたの?」


「ううん、ここの学生さんは凄いなって」


 確かここは魔術Ⅲの学級でこの用紙を見る限りなかなか高度な魔術を学んでいるらしい。

 ノイは残りを綴じるのを手伝い終わらせると、ユニと一緒に事務所へ届けにいった。



「これじゃあダメ。綴じ方が間違っているわ」


「でもさっき確かにこうって………」


「まぁ! 私が間違ったって言うの?!」


 事務員の女性が興奮しだすと、指摘を受けたユニが目に涙を溜めて黙る。

 ノイは多分伝える時に間違えたのは事務員だったのだろうと思った。


「すみません、やり直してきます」


「報告させてもらいますからね!」


 黙ってしまったユニの代わりにノイが冷静に受け応えると事務員は捨て台詞を吐いて奥の方に引っ込んで行った。


 二人はまた講義室に戻って来て綴じものをやり直していた。


「ノイ、ごめんね」


「大丈夫、それにきっと間違えたのはあっちだよ」


 いくら相手が間違ったと主張しても弱い立場の自分たちではどうすることもできない理不尽と不平等。

 食事の時間には終わりそうもない。

 さっきの事務員から連絡が行き管理者から罰を受けるのは仕方のない事。


「ありがとう、ノイ」


 それは孤児院で虐められていた時に少し似ているとノイは思った。

 違うのは一人ではなく同じ境遇の人が周りにいると言う事だった。


「ノイはなんであれが間違ってるって思ったの?」


「文章の続きがおかしかったから……」


「そうなんだ」


 あまり下手な事を言って不振がられても嫌なので差し支えない程度で返事を返しておくと、特にユニは不思議にも思わないのか何も言ってこない。


「早くやってしまおう」


「そうね」


 美味しいご飯が待っている訳ではないがこれが終わらなければ話にならない。

 二人でやり直しを終わらせるとさっきの事務員が「全く、こんなのも出来ないで偉そうな事言って!」と綴じものを奪い取る様に受け取り追い出された。


「はぁ……」


 まだこれから管理者による罰が待っている。そう思うと折角終わったのに二人して気も滅入る。

 でも、私達には今、ここしか居場所がない。


「帰ろう……」


「そうね……」


 ユニは同年代のエーヴリル様見たいな人で、少し強めの口調だがノイが言いたくないと思っている事は深く詮索して来ない。


 少し雨足が弱まっていたかと思えば、外は本降りで日も落ちて暗い。

 此処から、小屋までは少し距離があるので二人とも合羽を来て帰路についた。


 時間は3の刻半。

 使用人小屋に帰ると食事の時間はもう終わっている。

 残して置いてくれても良い気がするが経費節減の為だろう、何かにつけて理由を作り食事を没するのはここの管理者のやり方だ。

 小言を言おうものなら鞭で打たれて鬱憤晴らしに使われる。


「見つからない様に気をつけて」


 部屋に戻れば同室の子にパンを一つ渡された。


「ありがとう」


 同じ様に他の子が食事抜きにされるとノイやユニがこうやって食べる物を確保していた。

 厳しい状況ながらも皆んなで管理者に知られない様に協力し合って生活をしている。

 そんな場所だった。


 部屋は個室ではなく六人部屋で、ユニと他二人の同室者がいる。


「ミリィは帰って来てないね」


 一週間程前から姿を消したミリィと言う少女はゆっくりと話し、よくノイが罰を受けると慰めてくれる優しい姉の様な人物だった。


「逃げたって言われたけど、あいつは此処に捨てられたも同然なんだ。そんな訳ない」


 さっきパンをくれた、ミリィと仲の良かったラセルが何かを握り潰す様に拳を握る。

 ノイとユニはパンを半分にして分けて食べると終わった頃に訪問があり使用人管理者から呼びつけられた。


「おいでなさったわね」


「…………」


 仕方ないと思いノイと二人顔を見合わせて苦笑いをすると、いつもの様に言伝をしに来た補佐官について行く。


 使用人が暮らす小屋と管理者が暮らしている場所は分かれており渡り廊下でつながれている。

 差し詰め、管理者の暮らす所は本館で私達の暮らす小屋は離れみたいなものだ。

 その渡り廊下を通る時に青いオルタンシアが大降りの雨に打たれているのが見えた。


 あんなにも降られて綺麗に咲いているオルタンシアは凄いなとノイは思った。


 本館二階、部屋に着くと使用人管理者のエリックが偉そうに椅子に踏ん反り返っていた。

 

「お前達、時間で仕事が終わらなかっただけじゃなく学院の事務にまで生意気なこと言ったそうだな」


「…………」


「…………」


 理不尽な言われにも多少の忍耐が必要で、ノイは手っ取り早くエリックの姿を話を聞いているフリをして眺めると現実逃避し始める。


 腹は水が溜まっているかの様に迫り出しており、首が何処にあるのか分からないほど丸々とした臭いそうな顔。


 とても醜い。


 さらに醜さは見た目だけではなく性格までもと言うのだから救いようがなかった。

 実際彼は結婚したが妻に逃げられてしまったらしい。


「おい! 聞いてるのか?! フンっ」


 ノイが哀れんだ目で見ていると一声で現実に戻され鼻で笑われる。


「低脳には体で分からせるしかないな」


「…………」


 補佐官が頭を押さえつけられて起きた上がらせない様にするとエリックが鞭を持ちノイの背中を打ち始め歯を食いしばった。


「お前達ごときが私の手を煩わせるんじゃない!」


 50回程打つとエリックはふーふーと苦しそうに息を切らし鞭を床へ叩きつける。


「あと100打て!」


「畏まりました」


 投げ捨てられた鞭を拾い補佐官が代わりにノイを続けて打った。


「お前はこっちだ!」


 ユニが腕を掴まれると怯えた顔をする。

 隣の部屋に連れて行かれるがそれを二人はどうすることもできなかった。



 ノイは罰を受け終わると立ち上がることも出来ず補佐官によって使用人小屋に投げ入れられるとラセルが心配そうに手を貸しに来た。


「今日はまた一段と酷いな」


「いたた……」


 ラセルがノイに肩を貸し部屋まで連れて行く。


「ユニは?」


「まだ帰ってない」


「…………」


 ノイは部屋に連れて行かれる時の怯えたユニの表情を思い出し眉間にシワを寄せる。

 ラセルがノイの背中を見て熱が出るかもしれないと言うがそれよりもユニの事が気になった。

はっきりしない季節を過ごしつつ迷いながら自分で選ぶ。がテーマです


雨季が明けるまでのお話


明日は更新出来ないのでフライング

また、よろしくお願いします。

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