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21 ケラスィアの記憶 11

 翌朝。

 大聖堂に呼び出された面々はエリュシオンに再度作戦の説明を聞き、最終的な確認をする。


「アシェルが魔術を使うのはここ」


 地図を指差してエリュシオンが知らせる。


「ここまで誘導してね。見計らって檻を使うから巻き込まれないように気をつけてよ」


「それはいいがエアロンの安全は?」


 昨日からエミュリエールはそればかりだ。


「ジェディディアに頼んだよ……」


 エリュシオンはそれが面白くないかのように言うとエミュリエールはそれ以上何も言わず作戦会議の内容に耳を傾けていた。


「とにかくエアロンにも気づかれないようにしてね」


 エリュシオンはこの作戦の事についてエアロンには話さずに進めるつもりであるらしい。

 その理由は誰も聞いたりはしなかった。

 だが、エリュシオンがエアロンに対し嫌うでもなく「面白くない」と思っていることだけは感じていた。


「昨日そんな話をしたのか?」


「成り行きで」


 ジェディディアの名前を聞いてアシェルが聞くとエリュシオンが愉快そうに笑い「お陰で良い料理になりそうだよ」と恍惚としていた。


「あぁ、後システィーナにも縁談の件言っておいたからね」


 アレクシスがほぅっと眉を上げる。


「バッ……」


 アシェルは焦ってエミュリエールの方を向くが彼は驚くでもなく穏やかに笑っていた。


「ふふ、別に驚きはしませんよ。彼女の地位ならそうでも納得いきます。それに、どちらかと言えば縁談避けが目的なのでしょう?」


 これを聞いたらシスティーナは怒るか泣くかのどちらかだろうとその場にいた者は思った。


 思い思いに準備をし、昼食を取った後出発するまで少し時間が空く。

 エリュシオンが執務室のソファで寛いでいるとうとうとし始めたことにエミュリエールが気づいて声をかける。


「エリュシオン、昨日眠れなかったのか?」


 子供の頃はよく楽しみにしている事があると眠れなくて体調を崩す事が多かった事をエミュリエールは思い出した。


「大丈夫、終わったらきっとよく眠れるから」


「隣の部屋にベッドがある。少し休んだらどうだ?」


「…………」


 今日集まった中で一番若いのがアシェル、その次少し離れてエリュシオンが年下になる。

 二人とも年齢の割にはかなり頑張っている方だった。

 だけどそれは本人達が嫌がるので言葉に出す事はしない。


 見知った相手ばかりで気が緩むのか船を漕ぎ始めたエリュシオンにエミュリエールは呆れた顔で溜め息を吐いて近づくと「だらしないぞ」と耳打ちをする。


「…………」


 エリュシオンが驚いて何度か瞬きをしてエミュリエールを見上げる。

 兄の顔をしていた。


「一刻したら起こして……」


 エリュシオンが言われた通りにふらふらと隣の部屋に入っていくとアシェルが驚いたように見ていた。


「え? だれ?」


「エリュシオンの場合、エミュリエールの存在は特別だからな」


 アレクシスは特に驚く様子もなくアシェルに言った。

 その割には、エミュリエールの元からサファを攫ってきたりしてたが……

 アシェルは分からないとでも言うように首を傾げる。


「アシェル殿下にはまだ分からないかも知れませんね」


 ぶすくれて頬杖をつく。

 その言葉が仲間外れのような気がしてアシェルは少し嫌だった。



 一刻してエミュリエールが当たり前のようにエリュシオンを起こしにいく。

 部屋から出て来たエリュシオンの顔はすっきりしていた。


「だいぶ充電もできた事だし……」


 これから起きる出来事が待ち切れないかのようににやりと不敵な笑みを漏らす。


「さぁ……大捕物と行こうじゃないか」


 一気に緊張感が高まり一同は作戦を開始すべく待機場所に向かって行った。





 ノイが唄を唄い、何者かの襲撃を受けた。


 ジェディディアに言われてエアロンが勝手口から飛び出ると既に雨は止み、欠けた月が辺りを照らしていた。


「出てきたぞ!」


 どいつも黒くフードのある外套で誰だかは分からない。

 何の目的で?

 詳しい事は分からない。

 だが、奴らは『イシュタルの使い』を手中に収める為に襲いに来たのだということをエアロンは理解した。


『対象が出てきた、作戦を開始する!』


『了解』


 通信会話で聞こえてきた声に一同は緊張の糸を紡ぐように返事をした。


 エアロンはノイを外で待ち構えていたフードの奴らの反対側を進みそこから塀を乗り越えた。

 水溜りを踏みつけ水飛沫が音を立てて飛び散った。

 間もなく同じ様に水が跳ねる音がする。

 追って来ている……


「…………」


 先程からずっとノイは黙って、視点が合っていない様だった。


(ショックだったのかも知れないな)




『気づかれないように目的地まで誘導しろ』


『了解した』


『…………』


『フィリズ手を出すなよ』


『分かってますよぅ』



 アレクシス達はエアロン達を追う黒いフードの奴ら達に気づかれないようにエアロンのいく先を阻みながらいく先を誘導していった。



 走りながらエアロンは考えていた。

 ここから大聖堂までは少し有るが近いペルカに行ってもどうしようも無い。

 こういう時どうしたらいいか聞いておくんだったな……

 エアロンがそうは思っても、もう今更でしかなかった。


 路地を抜けてひた走って行くと、人通りのなくなる所でフードの奴らに道を塞がれた。


『塞がれています』


『これくらい騎士団にいたやつなら平気だろ? あいつは割と身軽だ』


 誘導隊は手助けは無用と判断しそのまま様子ををる事に決めた。

 魔術を発動するところまで後少し。



 エアロンはチラッと壁を見る。


 助走をつけて壁を走ると塀の上を走って行く。


(行けるか)


フォスリーネア(光の線)!」


『『あ!』』


 エアロンは奴らとの距離を空けそのまま撒いてしまおうと思っていると、光線が飛んできてすんでのところで躱した拍子にバランスを崩して塀から落ちてしまった。


(クソっ光線……)


『酷い!』


 エアロンは落ちた時にノイを庇った為、足を痛めたらしい。

 激痛の走る足に力を入れたがとても立てる様な状況では無い。



『だめだ手を出すな』


『うぅ……』


 アレクシスが飛び出しそうになったフィリズを強く制止する。



「さっさとその子供を寄越せ!」


 ずっと黙っているノイは相変わらず明後日の方向を向いている。

 その違和感。


「ははっ……」


「何だこいつ笑ってるぞ?!」


(そういう事か)


 フードの奴らはエアロンからノイを取り上げると掌を向けて呪文を唱える。


アペルピスィア(絶望)


 こんな魔術も使えない、丸腰の状態でなす術もない。本来ならもっと早く無くなっていた命だ。


 甘んじて受けよう。

 エアロンが目を閉じて諦めると、受けるはずだった黒い炎は自分から発動された障壁魔術によって弾かれた。


 やつの青葉色の魔法陣は所々音楽の文字が刻まれているのが特徴だった。


 店を出る前に肩を押された事を思い出す。


(あの時か)


「コイツはもう魔術なんて使えない筈だろう?!」


 フードの奴らがエアロンの出した魔法陣を見て深追いはしない方がいいと思ったのかノイを掴んでその場から立ち去ろうとした。


『アシェル』


『了解』


 その時だった。


バシレウスアウレー(国王の庭)!」


 地面に出された魔法陣が軽い地響きと共に広がり薄いヴェールで一帯を飲み込んでいく。

 「国王の庭」と呼ばれるこの空間魔術は王族だけが使う事の出来るものであった。


 パ パ パ パッ と空中に魔法陣が浮かぶ。

 その数七つ。

 その数個の魔法陣を挟む様にして向かい合わせに馬と鹿の召喚獣が浮かんでいた。


「「クルヴィ(抒情の檻)!!」」


 ダンダンダンダンダンダンダンッ!!


 叫ぶ声と同時に魔法陣から光の格子が現れて行く手を阻むと今度は格子同士から縄の様なものが出て来て人が通り抜け出来ない網状になり少し離れてみると巨大な鳥籠の様に見えた。


 逃げようとしていたフードの奴らはなす術もなく「抒情の檻」で一網打尽にされる。


 その緊張溢れる場面には相応しくない声が聞こえて来た。


「わぁ、大漁!」


「不謹慎だぞ」


 てへっと笑いながらエリュシオンがハーミット達に「後はよろしく」と言ってエアロンのもとにやってきた。

 エアロンはエリュシオンを睨んでいた。


「ごめんね、怒ってるね」


「…………」


セラピア(回復)


 痛めた足にエリュシオンが癒しをかけるとエアロンは黙っていた口を開いた。


「ジェディディアが絡んでいるなんて……」


 ハーミットとレイモンドで檻の中の奴らをピアーセで縛っていくと、中の一人がノイを掴んで首に刃を当てる。

 追い詰められて半狂乱になっている様だった。


「こ、こ、殺すぞ!!」


 エミュリエールの片眉が上がる。


「どうぞー?」


 エリュシオンが状況に似合わない明るい口調で言うと振り返って影のある笑顔でフードの奴らを見た。

 

 その表情に檻の中の奴らは戸惑いを見せる。


「どうぞ? 早く殺してみてよ」


 エリュシオンは冷血な表情をした後「やらないの? じゃあ……」と言って魔術で作り出した槍で躊躇いもなくドスッとノイの胸を突き刺した。


「きゃああっ」


「フィリズ静かにしろ」


 苦痛の表情を浮かべる事なくノイの口から血が出て瞳が虚になるとパリンと割れる様にしてノイの体が砕け散った。


 その様子を見てエミュリエールが悪いものを見た様に顔色を悪くし、向こう側ではその残酷な光景にフィリズが地面に(えず)いていた。


「随分と写実的(リアル)な……」


「ジェディディアは拵え物(こしらえもの)が得意ですから」


 エアロンは修学院時代を思い出す様に言うと、何故すぐにでも気がつかなかったのかと落胆した。

 認めたくなくても認めなければならないだろう。

 顔を俯かせると眉を寄せる。

 自分を囮に使われたことよりも残念に思ったがそれはエリュシオンの次の言葉によってかき消された。


「ジェディディアはイシュタルの使いと一緒にネモスフィロにいるよ」


 だから安心して?とエリュシオンが言う。

 俯かせていた顔をゆっくり上げてエリュシオンを見ると彼はにっこりと笑っている。今言われた言葉をもう一度頭の中で繰り返すと流れた汗が顎からポタっと落ちた。


「…………え?」


「君が連絡してくれたんでしょ?」


「そう……ですが」


 でもそれだけでジェディディアがエリュシオン達に協力している理由はエアロンには分からない。


「これは制裁だよ、彼は制裁されるに値しない」


「あ…………」


 時間が取れなくて、エアロンには詳しく説明を出来なかったとエリュシオンが言った。


「じゃあ ジェディディアは……?」


「彼には耳で探してくる様にだけ言われてたらしいからね」


 ふふふ、とエリュシオンは面白そうに笑った後「思ったよりも君達は親友だね」とまぶそうに笑う。


『エリュシオン、そろそろ限界なんだが』


 通信の向こう側でアシェルの声がする。


『あぁ。忘れてた』


『おい!』

 

 エリュシオンが檻の中の捕獲状況を確認する。


「兄上、地面に縛ってくれる?」


 そう言われてエミュリエールは魔法陣を捕らえられ集められている所に向かって出した。


エルクシー(重力)


 囚われた者の体にかかる重力が何倍にもなり立ち上がれなくする。


『アシェル解いて』


「ハーミット」


「あ、はい。既に連絡しました」


 思い通りにいくことに対しエリュシオンがにっこりと笑う。


「無事に済んだのか?」


 エリュシオンの表情を見て魔術を解いて来たアシェルが聞く。


「意外と」


 ハーミットの知らせで其の筋のもの達が到着すると身柄を引き渡してそれぞれ別行動となった。


 アシェルとアレクシス、セドオア、ジュディは城へ。

 フィリズは絶対について行くといい、エミュリエールも同行すると言ったがエリュシオンとエアロンが行くのは決定事項で人数も増やしたくない。


 結局絶対に譲らないと言ったフィリズに根負けしたエミュリエールは仕方ないと言う様に二人の補佐官達と大聖堂に帰っていった。


 少し前まではサファが絡んでいてエミュリエールが譲るなんて事は無かった。


(子離れしたのか)


 エリュシオンは歩いていくエミュリエールの姿を眺め寂しそうにその背中を見ていた。

追い込み漁をしたアシェル達。


彼らの通信は耳飾りの魔道具で行っています。

個人会話とグループ会話の出来る優れもの。


アシェルが使った『国王の庭』はヴェールで包まれますが外から見たらなんの変哲もない普段の街並みになります。

中にいる人はそのままなので、いかに人が居ないところを選んで今回魔術を使っています。

そんな大掛かりそうな『国王の庭』は大昔のお忍びが大好きだった国王が街に繰り出すために作られた魔術だそうです。


ちょっと話しです。

意外と長く続いた「ケラスィアの記憶」ですが残すところ後1.2話くらいの予定です。

でもまだ、二章は終わらないので頑張って読んでってください。

今日も読んでくれてありがとうございました。

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