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それぞれの愛情

ゴールデンウィークになり、楓は渚と美里を祖父・博之の実家がある長野県高山村に招待した。


これまでは知香も必ず付いていったが、冷戦が続いているので初めて留守番をする事となり、代わりに由美子が引率を務めている。


『最近仲が悪いんだって?』


健介と同じ病院で看護師をしている原田美久も日曜祭日は診察がないので比較的暇であり、今日はスノーホワイトでランチを楽しんでいる。


『もう毎日針のむしろ状態。なんでこんなになっちゃったのかなぁ。』


知香はため息を付く。


『うちだってそこまで酷くはないけどあるよ。商売やってると子どもの世話なんて出来ないから。』


進藤雪菜には1男1女の子どもがいて、妹のなずなは三中の三年生だ。


『先生、こんにちは。』


そのなずなが店の制服を着てゴールデンウィークの間だけ店の手伝いをしている。


『いつまで先生って言ってるの?卒園してもう8年だよ?』


なずなは知香が保育士をしているあすなろ保育園に通っていたので、今でもたまに知香の事を先生と呼ぶ。


『先生はずっと先生だよ。それとも知香おばちゃんて呼んだ方が良い?』


『でしょ?この生意気な言い方。』


なるほどと思う。


『ほら、空いている席片付けて。直ぐお客さま来ちゃうよ。』


『は~い。』


なずなは別のテーブルの片付けに行った。


『でも素直な方じゃないの?ちゃんとお手伝いしてるし。』


『お小遣いほしいだけよ。見え透いてんだから。』


今の知香にはそんな雪菜となずなが羨ましく感じる。



一方で楓は由美子の運転する車で、渚と美里と共に長野に向かっていた。


『かえちゃんのママは来ないの?』


『…………。』


渚は楓と知香は出掛ける時はいつも一緒だと思っていたので不思議そうに尋ねるが、楓の返事はなかった。


『楓とお母さんは今ケンカしてるの。』


『お祖母ちゃん、言わないでよ!』


由美子の横やりにむきになって楓は怒る。


『楓ちゃんのママって優しいよね。どうしたの?』


まだ付き合い始めて日が浅い美里も心配そうに聞いた。


『だって……ママ、生理になった事ないから……私の痛いの分からないし……。』


楓はか細い声で答えたが、それを聞いて由美子が黙っている筈がない。


『楓!!お母さんに対してなんて事言うの!!』


今までこんなに怒った由美子を見た事がない。


『だって……ママ、本当のママじゃないし、男の子だったし……。』


『楓!!あなたはここで降りなさい!』


渋滞はしているが、ここは高速道路だ。


『やだよ!』


『かえちゃん、謝んなよ。かえちゃんが悪いよ。』


渚が間に入るが、楓は泣き出して言う事を聞かない。


『ママがあなたのママじゃなかったら、ここにいるお祖母ちゃんはなんなの?』


『……お祖母ちゃん……。』


『自分のママをママと呼べない子にお祖母ちゃんって言ってほしくないわ!……楓……お祖母ちゃんはね、いつもママに言ってるの。あなたはたまたま間違えて男の子に生んじゃったけど、正真正銘女の子なのよって。楓もね、ママがお腹を痛めて生んだ子だからって。楓の傷を治してくれたのだってパパとママでしょ?』


『……うん。……でも……。』


分かってはいるけれどなかなか素直にはなれない年頃だ。


『かえちゃん。こうちゃんだって昔は男の子だったけど、女の子に夢を与える永遠の魔法少女だって自分で言ってるよ。』


『え?ななもえの社長さんも男の子だったの?』


渚の発言に、このみの過去を知らない美里だけが驚いた。


『だってこのみちゃん、結婚とかしてないし……。』


『私ね、ママとこうちゃんが結婚してこうちゃんにパパになってほしいなあって思ってるの。』


渚は願望を語る。


『このみちゃん、今は女だから結婚とか出来ないでしょ?』


楓は戸籍の変更に関しては、知香から聞かされて結構詳しい。


『だって、奈々さんと萌絵さんだって結婚したんだよ。』


正式には2人は群馬県大泉町のパートナーシップ制度を活用してみなし結婚をしたのである。


『ななもえってね、みんなが家族みたいだから誰が男とか女とか関係ないの。男の子が可愛く着れる服もあるしね。だから、楓ちゃんも気にする事ないと思うよ。』


美里には刺激が強かったみたいで黙ってしまったが、楓は渚から言われて少し反省をしている。


『……お祖母ちゃん……。』


『はい。』


由美子は察しているがまだ怒った振りをしている。


『ごめんなさい……。帰ったらママにも謝ります。』


『帰ったら?……そういうのはね、少しでも早い方が良いのよ。』


『じゃあ……。』



夕方、知香が帰宅すると、健介が待ち構えていた。


『ただいま。……どうしたの?』


『お義母さんから電話が入ったんだ。長野に着いたら、どうもお祖父さんが具合が悪いそうだって。』


『え?そんな事言ってなかったのに……。で、酷いの?』


『よく分からないが、来てほしいそうだ。お義父さんにも連絡をしてあるから3人で行こう。』


知香は慌てて仕度をし、実家に立ち寄り博之を乗せて長野を目指した。


『お祖父ちゃん、どうなのかな?』


『どうだろう?今まで病気らしい病気をした事がなかったからな。』


知香は夜の高速道路をひた走った。

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