表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

不安

すみれの話が気になり、梓は夕食の後、渚と共にこのみに相談をした。


『このみさん。ホームページの事なんですけど、渚を出すのはどうかと思うんです。』


『確かに、思ったより反響が多いですからね。あのモデルは誰だ?って調べているうちに母親の梓さんの事が公になるかもしれませんね。』


梓は渚が小学一年生の時に度々自宅に上がり込み渚に虐待を加えていた男を殺害して服役中で、懲役を一年残してこのみが身元引受人となって仮釈放された身である。


そんな過去を知る人がいない桐生なら母娘2人で静かに生活していけるだろうが、それまで渚が祖父母の家で生活をしてきた八王子でホームページを見て週刊誌やネットに流せばたちまち平穏な生活が失われてしまう。


『大丈夫です。私が責任を持って2人を守ります。』


このみは自信を持って2人に言い切った。


『それだけではないんです。楓ちゃんの事で……。』


このみにとっての大恩人の先輩である知香の娘・楓にはこのみも何かと気に掛けてはいる。


『楓ちゃん?どういう事ですか?』


『私、楓ちゃんの生みのお母さんに刑務所で一緒だったんです。』


『まさか?そんな事が?』


このみは驚きのあまり立ち上がった。


『意外とまさかではないんです。女性の受刑者はそんなに多くはないので、私みたいな殺人犯やちょっとした窃盗犯や麻薬で捕まった人が一緒の部屋だったりするんです。彼女……関根睦月さんは同年代で、最初に声を掛けてくれたので親しくしていました。渚から手紙が来ると、読ませてほしいってせがまれ、そこで楓ちゃんの存在を知ったんです。自分の娘と同じ名前で親が児童虐待で捕まり、里子に出されたなんてそう何人もいないって。私は否定して、直ぐに渚に楓ちゃんの事は書かない様に伝えましたが、睦月さんも直ぐに出所したからその後どんな思いで暮らしているのか分かりません。』


『睦月さんはなぎちゃんの写真は見たんですよね?』


『はい。まだ一・二年生の頃ですが。』


『うちのホームページで、睦月さんがなぎちゃんと楓ちゃんが写っているのを発見したら、先ずはうちを調べに来る……というところでしょうか?』


『その可能性はあります。』


『ちなみに、その睦月さんは何処で働いているかご存知ですか?』


『もう5年近いですが、伊香保の仲居になるって聞きました。今もそこにいるか分かりません。』


『伊香保ですか。結構近いですね。』


伊香保温泉は群馬県にあり、草津や水上と並ぶ名湯として知られていて、麓の渋川から榛名山方面に登る途中に位置している。


桐生からも深谷からも電車とバスを乗り継いで一時間半くらいの場所だ。


『もうとっくに諦めているんじゃないですか?』


『そうなら良いんですが、渚の手紙の時は諦めきれないという感じでした。』


自らの虐待が原因とはいえ、自分の産んだ我が子を引き離されて二度と会えなくなったとして諦められるだろうか?


5年間渚に会えなかった梓は睦月に一番近い立場だと思う。


『私はこの通り、子どもが作れない身体ですから睦月さんの立場って正直どうなのかなって思います。でも、母と別れた父も暴力が原因で離婚しましたが、私にはよくしてくれましたから、なんとなく分かる気がします。』


このみがまだ男の子だった頃を思い出した。


『もしもし、知香さん?このみです。今日楓ちゃんの入学式でしたよね?おめでとうございます。』


このみはスマホで知香に電話を掛ける。


『お祝い届いたよ。ありがとう、社長さん。』


知香が入学祝いは無事届いたという礼をした。


『それでさ、ホームページを見た子がたくさんいて、あっという間にみんなと友だちになっちゃったみたい。……え?私と一緒?……私はそんなんじゃなかったし。ただの異端児でみんな面白がってただけよ。……楓はまだちょっと臆病なところもあるから。……何言ってんの、お嬢さまが?』


知香とこのみは同じ元男性のトランスジェンダーだった事から、お互いどんな事でも腹を割って話せる相手である。


『仮にですけど、ホームページを楓ちゃんの生みのお母さんがたまたま見ちゃって押し掛けて来たら、知香さんどうします?』


このみは核心を付いた。


『先ず楓が嫌がるんじゃないかな?もちろん私も健ちゃんも全力で追い返すけど。大丈夫、こっちは心配しないで。それより梓さんとなぎちゃんも気を付けないとネットで直ぐ広まるから。』


逆に心配されてしまった。


『とりあえず楓ちゃんの事は知香さんに任せるしかないですね。ただ、一度伊香保の方は調べてみたいと思います。』


睦月が楓に近付くかどうか分からないが、先手を打って睦月の所在だけは知っておいた方が良いと判断した。


このみは、先ずネットで犯罪者の出所後を支援している団体を調べ、その中で旅館の仲居を斡旋する仲介人を調べた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ