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ウェブの反響

楓の親友で、念願叶ってようやく母の梓と共に暮らし始めた西脇渚も、新天地の桐生で中学校の入学式を迎えていて、渚の教室でも[ななもえ]のモデルである渚がひとりの女子生徒から声を掛けられていた。


『あなた、ななもえのモデルの子よね。どこの小学校から来たの?』


渚が通う市立清風中は元は泉中という名前の学校だったが、人口が少なくなり、北に位置する久方中と川向こうの黒川中を合併して改称された学校である。


従って入学の時点からそれぞれの出身小学校でグループが形成されているのであり、渚は奥野すみれに目を付けられるまで誰とも話を出来ずにいた。


『東京……八王子からです。』


『なんでこんな何もない田舎に来たの?』


奥野すみれは[ななもえ]の工房近く、つまりは渚と同じ地区に住んでいて、同世代の子に人気の[ななもえ]が自宅近くにあるのが自慢だったが、そのモデルである渚が引っ越してきた事はたった今知ったのである。


『ふ~ん。ななもえのモデルって言っても大したことないわね。』


すみれは渚を舐め回す様に覗き込んだ。


『は……母と社長さんのお付き合いで、母も[ななもえ]のお針子をしているんです。』


『私、近所だからさ。今度家に遊びに行って良い?』


押し付けがましい様だがすみれは渚にとって中学の友人第1号となった。



『お疲れさま。』


『すみません。まだろくに仕事出来ないくせに時間戴いて。』


渚の母・梓は渚の入学式が終わると、一目散に工房に戻った。


『何言ってんの。アンタはなぎちゃん第一、仕事は第二で良いの!』


口は悪いが菊地奈々は人一倍他人思いである。


『奈々はちゃんと仕事しなさい。』


奈々の同性パートナーでチーフデザイナーの八木萌絵は放っておけば倒れるまで手を休めない仕事人間で、たまに口を開いても目はミシンから離さない。


ななもえは会社の名前でもあるデザイナーの奈々と萌絵の他に社長の今井このみ、工房最年長の裁縫主任・山岸陶子、スタッフは梓と高草木五月、学生アルバイトの森下星花(きらり)、それと総務兼経理部長の岡部ひよりの8人からなる小さな会社だ。


梓と共に工房の隣に住み込んでいる渚も、小学校を卒業して桐生に引っ越して春休みの間中みんなの食事を作ったり掃除や梱包を手伝う貴重な戦力となっていた。


『ただいま帰りました。』


その渚が帰ってきた。


『お帰り、なぎちゃん。ななもえの服も良いけど、中学校の制服も似合うねぇ。』


みんなが思っている事を陶子が先んじて言った。


『そりゃあなぎちゃんは、ななもえのモデルだがね。なんでも似合うよ。』


地元から出た事がほとんどない五月はたまに上州訛りが混じる。


『お陰でホームページ更新してから受注が増えて大変さね。』


10代女子のカリスマブランドである[ななもえ]の業績は右肩上がりで止まるところを知らない。


『私、買い物に行ってきます。』


夕食の準備と買い物は主にひよりの役目だ。


渚も夕食の準備は手伝う様になったが、まだ任す事は出来ず、買い物もスーパーが徒歩圏にないので会社の財布の紐を握っているひよりがほとんどその役を担っているのだ。


『こら、待ちなさい!』


ひよりが外に出ると同時に素っ頓狂な声を上げた。


『どうしたの、ぴよちゃん?』


ひよりが渚と同じ制服を着た中学生を捕まえて戻ってきた。


『この子なんか工房を覗いていたからさ。逃げようとしたんでつい捕まえちゃって。』


『何もしてないから、放せよ!』


中学生は本当に覗いていただけで何もしていないが、急に捕獲されて暴れだした。


『この子、近所に住んでる子じゃない?たまに覗いているから[ななもえ]の服に興味あるんだと思うよ。』


『奥野さん?』


自分の部屋で制服からななもえの服に着替えてきた渚が、すみれを見て驚いた。


『え?なぎちゃんのお友だち?』


『そう。今日最初に声を掛けてくれた奥野すみれちゃんです。』


『ごめんね。最初っから言ってくれれば良いのに。』


『最初からって、言う前に追っかけられたからつい逃げたら人を泥棒みたいに言うから。』


ひよりの早とちりだった。


『ごめんなさい。ななもえのファンでなぎちゃんのお友だちなのに手荒い真似をしてしまって。社長の今井このみと申します。せっかくだから工房を見学していってね。』


このみは渚とすみれを応接コーナーに座らせ、自らお茶を淹れる。


『改めて申し訳ございません。すみれちゃん、ななもえの服は好き?』


『着てみたいと思うけど、高いからお母さん買ってくれないし、自分のお小遣い貯めるしかなくて。』


『うちはこれだけの小さい会社だから、大量に作れないの。その代わり一着一着心を込めて作るからどうしても値段が高くなっちゃうの。ごめんね。』


本当は多くの女の子に着てもらいたいが、品質を下げたくないという拘りがあるのだ。


『実際、受注が増えている割りにこの近くで着ている子ってほとんど見掛けないからどれだけ人気かってよく分からないのが本音なの。良かったら、モニターやってみない?』


『モニター?』


『服を着て街を歩くだけ。自分が着た感想や、回りの視線とかを見てほしいの。せっかくだからなぎちゃんと一緒に。』


それならただで服を着る事が出来る訳だ。


『結構友だち同士でも大人気ですよ。それに、この間ホームページが変わったらあの娘誰?ってみんな言ってたし。それで今日西脇さんに声を掛けてみたんです。』


ミシンを動かしながら、すみれの話を聞いていた梓は少し気になっていた。


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