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クラスの人気者

高木知香は高校三年生の時に性別適合手術を受け女性となったMtFである。


専門学校を卒業し、保育士となった知香は中学時代から付き合っていた同級生の健介と結婚し旧姓の白杉から高木となり、同時に山梨の児童養護施設にいた楓を引き取り里親になった。


それから8年、楓も中学生となる日がやってきたのである。


一家は4年前に健介と知香の実家のある埼玉県深谷市に住み、楓は両親の母校である市立第三中学校に入学をする。


『どう?似合ってる?』


楓は伸ばした髪をポニーテールに結び、真新しいブレザーの制服に身を包んだ。


『ばっちりよ。さすが[ななもえ]のモデルさんね。』


『だーかーらー、私は臨時だって言ってるじゃない!ななもえの専属モデルはなぎちゃんだけなんだから。』


[ななもえ]は知香の同級生である菊地奈々と八木萌絵がデザイナーで後輩MtFの今井このみが社長を務めるティーン向けのファッションブランドである。


ななもえの専属モデルで楓の親友である西脇渚は母親の梓と共にこのみの元で暮らし始めていた。


『なぎちゃん、中学校で新しい友だち出来るかなぁ?』


『人の事を気にする前に自分の事考えなさい。青小出身の子の方が坂東小より多いんだから。』


青小とは青葉台小学校の略で、知香の出身小学校で市の中心にあり比較的生徒が多い。


対して楓が卒業した坂東小は健介の出身小学校でもあるが、三中には青葉台小学校出身生徒と比べると半分強くらいの勢力しかいない。


『懐かしいなぁ。三中はいろいろ思い出があるから。』


『入学式の日でしょ?パパに[俺はお前の事認めねぇ!]って言われたの。』


知香と健介の出会いは最悪で、健介には入学式の当日から難癖を付けられていたのは事実が、正確にはその様に言われたのは入学式翌日の事で、言われた言葉も[俺は絶対おめぇの事認めねぇかんな]であった。


小学六年の3学期から女子として生活をする様になった知香と健介は共に学級委員になったが、男子のくせに女子の制服を着る知香を許せないと言っていたのだ。


『そんなパパが今はSRSの第一人者だっておかしいでしょ?』


健介は次第に知香を認め始めるどころか、一気に片想いに進展してしまい、思い込んだらとことん一途な健介に知香も惹かれて付き合い始めた。


もともと健介は医者の家系で、健介自身医師を目指していたが、知香に感化され日本ではまだ少ないSRS(性別適合手術)を行なう形成外科医となり注目されている。


『楓も可愛いからいっぱい男子が寄ってくるかもね。中学生活、楽しんでね。行ってらっしゃい。』


『後で写真撮ってね!行ってきます!』


これから楓は入学式に臨み、知香も今日は勤務している保育園を遅番にして参列する予定だ。



三中に到着した楓は、受付でもらった名簿を見て自分のクラスが両親と同じ一年A組だと知った。


『かえちゃん、一緒のクラスになったね。』


声を掛けたのは三・四年生で同じクラスだった森野あかりである。


『うん、また宜しくね。』


決して友だちが多いとはいえない楓にとって、ひとりでも仲良しで自分を知ってくれているクラスメイトがいるのは心強い。


『ねぇ、あなた高木さんだっけ?』


見知らぬ生徒から声を掛けられ、楓は戸惑った。


『は、はい。……えと、あなたは?』


『私は青小から来た会田恵梨花です。私の両親と高木さんのお父さん、お母さんが同級生って聞いてます。』


恵梨花は背が高く、すらっとしている。


『そうなんですか?』


今ここで調べる事は出来ないから後で母に聞いてみようと楓は思う。


『それより、高木さんって[ななもえ]のモデルやったでしょ?ななもえのデザイナーさんも同級生だっていつもお母さん言ってるから、いつもチェック入れてるの。』


それなら知香に聞かずとも間違いはないみたいだ。


『へぇー?ななもえのモデルだって!』


人気のブランドのモデルを一度やった事で、楓の回りに女子が集まってきて楓は一躍クラスの人気者になってしまった。


『どうしよう、あかりちゃん?』


『良かったじゃない?この機会に友だちたくさん作りなよ。』


小学時代、友人が少ない楓を心配していたあかりはわざと楓を突き放す。



体育館での入学式が無事終わり、知香はカメラを持って楓のホームルームの終わりを待っていた。


『ともち!』


知香が振り返ると、懐かしい顔がある。


『ゆりっぺ?!』


知香の中学時代の同級生・野村優里花で今は会田姓となっている。


『元気そうね。健介くんは?』


『相変わらずぶっきらぼうだけど、元気だよ。会田くんは?』


『元気どころか、未だにバレー馬鹿。土日は子どもたちのコーチやってて全然何処にも連れてってくれないわ。それより、楓ちゃん、うちの恵梨花と同じクラスね。』


『そうなの?気付かなくてごめん。』


とりあえず三年生の時に楓と同じ班だった森野あかり、蛭間祐希、母親が天敵の熊田太陽が楓と同じA組であるのは確認しており、知香は先ほどから太陽の母・熊田梨香の冷たい視線を浴び続けていた。


『楓ちゃん、ななもえのモデルやったでしょ?うちの恵梨花もやらせたいなぁ。このみちゃんに頼んでもらえない?』


『恵梨花ちゃんって背が高いんでしょ?美形だし、ちゃんとしたプロダクションに入れた方が人気でるよ。ほら、奈々も萌絵もこうちゃんも3人共小柄だから普通の子を可愛くするってのが生き甲斐なんだよね。』


美人は何を着ても美人だが、萌絵たちは何処でにもいる女の子たちを可愛くするための洋服作りを心掛けているのだ。


話しているうちにホームルームを終えた楓たちが校庭にやって来た。


『ママ、みんなと一緒の写真撮って。』


楓の回りにはクラスのほとんどの女子がくっついている。


『どうしたの?みんなお友だち?』


『ななもえ効果じゃないの?さすがはともちの娘さんね。来年は生徒会長かな?』


『ばか言わないでよ!じゃあ順番に撮るから。』


知香は保育園の出勤時間に遅刻した。

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