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第7話 スティーブ登場

ズッシーオ・ヤムタユ男爵は机に向かっていた。彼のためにあてがわれた部屋で、竹で作られた椅子に座り、紙に何かを書いている。もう一月以上経っていた。

 彼は筋肉仙人チアオの修業内容を自分の領地で使えるように考えをまとめていたのだ。

 チアオにこの事を伝えると彼は快く承諾してくれた。正しい筋肉の鍛え方を広げることに異存はないという。


「じゃが、できるかのう。ルミッスル王国は変化を嫌う国じゃと聞くが」


 かつてジェイクス・ノルヴィラージュ伯爵は仙人の元で修業に励んだ。その時の修業内容を自分の領地で広げようとしたがまったく無駄に終わった。

 ルミッスル王国では怠惰を愛し、変化を嫌う傾向が強い。庶民はおろか、貴族や王族も規則や法律を変えることに難色を示す。

 もちろん領主が強引に命令することはできるが、反発は必至だ。


 ただジェイクス卿は筋肉が好きだが、人の物を教えるのは苦手なのだ。

 領地の運営は優秀な家臣たちに任せてある。領主はもめ事などで威圧感を出せばよいだけだった。

 それに領民もジェイクス卿の教えが理解できずにいた。王国での識字率は低い。貴族ですら自分の名前さえ書ければよいと考えているくらいだ。それ故に科学的に説明したところで理解しろと言うのが無理なのである。


「理路整然と説明するから頭が痛くなるのです。要は自分たちの生活に根付くように教えればよいのですよ」


 ズッシーオはそう答えた。筋肉仙人の教えは効率的であり、合理的である。

 だがそれをきちんと説明し、理解させるのは厳しいだろう。

 ズッシーオの場合、父親が学問に理解のある人間で、幼少時から勉強をしていた。なので文字の読み書きはもちろんのこと、計算の仕方や王国の歴史などを習っている。


「ジェイクス卿はチアオ様に関わるなと言ったのは、この事だろうな」


 人に教えることは難しい。なぜそれをしなければならないのか納得させなければならないのだ。

 ジェイクス卿はそれができなかった。チアオの教えを忠実に守れても他人にうまく伝えることができないのである。


 ところでズッシーオは背筋をピンと伸ばして座っている。

 これも仙人の教えだ。きちんとした姿勢はきちんとした生活に直結する。

 坐骨ざこつを座面につけて、椅子に少し浅めに座っていた。足と膝は自然にそろえ、両足をしっかりと床に付けている。

 背筋を伸ばし、骨盤が前傾、後傾しないように気を付けていた。

これが座るときの基本姿勢である。


 たまに椅子に座った状態で足上げをしていた。腹の真ん中にある腹直筋や腸腰筋を鍛えられるのである。

 やり方は両足を揃えた状態でひざを90度に曲げる。それから足をしばらく床に浮かせるのだ。


 他にもドローインといい、座ったまま腹部をへこまし運動などもしている。

 椅子に深めに座り、背もたれには寄りかからない。この時、骨盤を立て、目線をまっすぐ前に向ける。

 そして腕は身体の横にして、息を吸って腹を膨らませたり、息を吐いて思いっきり腹をへこませたりするのである。

 この運動で腹部のインナーマッスルの腹横筋が鍛えられるのだ。


 椅子に座るだけでも色々なトレーニングが可能となる。ズッシーオはこれを聞いたとき目からうろこがこぼれた。


 さて庭にはチアオの孫娘レイカが竹ぼうきで掃除をしていた。彼女は16歳ほどで東方の服を着ていた。

 麻で作られた水色の上衣に白い長ズボンを穿いている。

 髪の毛は団子のようにふたつにまとめ、布にくるんでいた。


 ふいに彼女は周囲を見回した。そこにはいつの間にかひとりの男が立っていたからだ。

 着ている服は黒い執事の服で、短く刈られた銀髪に、高級品の眼鏡をかけている。端正な顔立ちで人形と錯覚しそうになった。

 だが目付きは猛禽類のように鋭く、獲物を狙うようだ。


「初めまして、わたくしはスティーブと申します。若旦那様がお世話になっていると思いますが……」


 スティーブと名乗る男が挨拶をすると、レイカは竹ぼうきを振り回した。

 その動きはまるで雷のようで素人では目に捕らえることは不可能だ。

 しかしスティーブは右足をまっすぐ蹴り上げると、竹ぼうきを足の裏で止めてしまう。


「痴れ者め、何者だ!!」


「だからスティーブと名乗ったではありませんか。断りもなく敷地内に入ったことは謝罪しますが……」


 スティーブの口調はあくまで慇懃無礼だ。レイカがなぜ彼に敵意をむき出しにするのか。それはスティーブの容姿にあった。

 かつてズッシーオはボロボロになりながらも岩山を登ってきた。しかしこの男は異質である。

 執事服の存在は知っているが、この山に登ってくるには不自然だ。なのでレイカは目の前の男を敵と認定したのである。


「やぁ!!」


 レイカは容赦なく竹ぼうきを振り回した。それはまるで舞踏を見ているような美しさがあった。

 コマのように身体を回転させ、左右に変則的に竹ぼうきを叩きこむ。なのにスティーブは軽くあしらっていく。

 そのくせ息をひとつ切らさない。レイカにとってこの男は魔界から来た魔人に思えてきた。


「スティーブ! なぜおまえがここにいるんだ!!」


 大声を上げたのはズッシーオであった。彼は庭の異常を感じ取り、やってきたのである。

 スティーブはヤムタユ家の執事だ。そんな彼がなぜここにいるのか現実が追いつかなかった。

 レイカも相手がズッシーオの知り合いとわかり、攻撃の手をやめた。


「おお、若旦那様。おひさしぶりでございます。このスティーブ、心配のあまりお言いつけを破り、会いに来てしまいました。お許しを」


「会いに来たって……、いったいどうやってここまで来たんだ?」


「もちろん岩山を登りました。わたくしにとっては小山を登る感覚でしたね」


 ズッシーオは呆れてしまう。この時点で執事に対し畏怖など抱かず、ありきたりのように感じているようだ。


「……ズッシーオ様。この方はもしかしてシャンユエの一族の者ですか?」


 レイカが訊ねてきた。


「おや、わたくしのことをご存じなのですか。さすがはチアオ一族の人間ですね。わたくし、いいえ、わたくしたちはズッシーオ・ヤムタユ男爵家に仕えております」


「……噂には聞いていましたが、シャンユエの一族が忠誠を誓うなんて……。ズッシーオ様は偉大なお方なのですね」


 レイカは感心していた。彼女はシャンユエのことを知っているようだが、ズッシーオは否定する。


「私は偉くないよ。私の父親がスティーブの一族を自分の領地で暮らせるようにしただけなんだ」


「若旦那様は軽く言いますが、わたくしたちにとって生涯を捧げるほどの大恩ですよ。あなたは自分を卑下しすぎです」


 スティーブにたしなめられ、ズッシーオは頭を掻いた。それから思い出す様に頭を上げる。


「そうだ、スティーブ。君がここに来たということは何か私にしてほしいことがあるんじゃないかな」


「はい。領地を預かるバンブフォイユ様と、王都に滞在中のサバット様の仕事が溜まっているのです。できれば若旦那様に処理していただきたい所存です」


「しょうがないな。すぐに片づけるから書類をよこして」


「はい、どうぞ」


 そういってスティーブはどこから取り出したのか書類の束を手渡した。

 ズッシーオは自分の部屋に持ち帰る。後に残るのはスティーブとレイカだけであった。


「……あなたは自分の領主に仕事をさせるためにここに来たのですか?」


「そうですよ。わたくしは執事なので、若旦那様に仕事をさせるのが役目なのです」


「嘘ですね」


「嘘ですか?」


「あなたはズッシーオ様に何か別に伝えることがある。違いますか」


「違いませんよ。あなたの言う通りです。ですが若旦那様には仕事に集中していただきたいのです。恐らく話を聞けば仕事の邪魔になりますからね」


「いったい何を伝えに来たのですか」


「……カッミール嬢のことですよ」


 スティーブは初めて苦々しい口調で答えた。

 スティーブのモデルはフランス人の保育士フィジカーがモデルです。

 アニメ、ダンベル何キロ持てるのイメージ動画に出演していました。

 容姿は正反対です。 

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