最終回:後日譚
こうしてズッシーオとカッミールの物語は終わりを告げた。
残すは後日譚のみである。
ズッシーオはディアブル師とともに筋肉のすばらしさを広めるための旅に出た。
その間ルミッスル王国では庶民に文字の読み書きを広めることとなる。庶民はおろか貴族でも文盲が多いためだ。最初は反発されたが国王レオナルド2世が強引に推し進めたのである。
そのためか不満を持つ貴族が続出したがノルヴィラージュ家とアミアンファン家が逆らう者を粛正しまくっていた。
アンプリュダン伯爵の領民の一部が暴走したが、伯爵家によって粛清され、ノルヴィラージュ家と手を結び、さらに不満を抑えつけたのだ。
おかげで構成では魔人と呼ばれ、ある地方では忌み嫌われる一族として名をはせている。
ズッシーオはルミッスル王国から離れ、ポーロ王国から外の世界へ旅立った。ディアブル師は旅の途中百歳で没した。ズッシーオはディアブル師を手厚く葬ると、その地は筋肉の聖地として有名になったのだった。
その間弟のサバットが跡を継ぎ、カッミールの妹であるヴェルチュと結婚した。
ノルヴィラージュ家には弟がいたので、跡継ぎはそちらにまかせたのだ。
ズッシーオ自身は七十歳で亡くなった。最後にルミッスル王国に戻り、フロント・ダブルバイセップスのポーズを決めて果てたのである。
なおヤムタユ領の屋敷ではカッミール嬢と若き日のズッシーオの銅像が飾られてあった。
生きて結婚することはなかったが、銅像となって永遠に一緒にいられるようにしたのである。
これはノルヴィラージュのお抱え芸術家オーギュストの仕事であった。
ズッシーオはフロント・ラットスプレットのポーズを取り、カッミールはフロント・ダブルバイセップスのポーズを取っていた。
周りは色とりどりの花畑に囲まれている。ルミッスル王国は数百年後、王政が廃止されたが、ヤムタユ家はそのまま保存されているのだ。世界の観光名所では上位29位になるほどである。
そして産業革命の波が押し寄せ、近代的な国になったが、筋肉の教えは浸透している。
小学校では筋トレの授業が必須であり、正しい筋トレの勉強に力を入れているのだ。
都市部はおろか、田舎でもトレーニングジムがあるなど、力を込めている。
これらの器具はポーロ王国のチアオ商会から購入していた。チアオ商会はのちに世界的なトレーニング器具メーカーとして名をはせることとなる。
筋肉仙人チアオは百二十歳で亡くなった。最後の弟子であるズッシーオのことは最高の弟子と称しており、現在もヤムタユ家とつながりがある。
のちにルミッスル王国は共和国となり、ヤムタユ家の子孫は大統領となった。
子孫のスゥクセサル・ヤムタユ60歳は先祖のことを誇りに思っていると、口を酸っぱくして言っている。
さてズッシーオの幼馴染であるアンジュ・アミアンファンはフォルミ・ファイルーズと結婚した。彼女はファイルーズ家に嫁ぎ、夫を支えた。生活だけでなく、ボクシングのトレーニングにも付き合っていたという。
夫はボクシングの父と呼ばれる英雄となった。その子孫であるガニアン・アミアンファンはルミッスル共和国ナンバー1のボクサーとして名をはせている。
さて彼女はズッシーオとカッミールの悲劇を一冊の本にまとめたのだ。
もっともルミッスル王国では文字を読む人間が少ない上に、女性を軽視する傾向が強かった。
最初はデュー・アポートルというペンネームでポーロ王国から出版した。数百年後、彼女の名前が復活したのである。
題名は『ズッシーオとカッミール』で、ポーロ王国ではデュー・アポートルの悲劇作品として受け入れられ、オペラの原作にもなったのである。
数百年後、極東の島国にも輸入されたが、ズッシーオとカッミールでは分かりにくいということで、翻訳家が題名を変えたのであった。
『筋肉令嬢に婚約破棄された貧弱男爵は筋肉仙人の元で修業に励みます。原題:ズッシーオとカッミール』
『著者:アンジュ・アミアンファン。 翻訳:江保場狂壱』
あれ、ここはどこ?
なんで僕は眠っていたんだろう。普段着のままで草の上に寝ているなんて。まるで羊みたいだな。
あれ? なんで涙が流れたのかな。何か悲しいことがあって、胸が痛くなって……。
思い出せないや。でもここは僕の住むヤムタユ領なのは間違いない。シャンユエ一族の住むところに遊びに行く途中だったのかな。長老のフートゥが修業をしている姿を見るのは楽しい。
いや、僕には行かなくてはならないところがある。
なぜかわからないけど、僕は急がなくてはならないと思った。
走る。走る。息が苦しいけど我慢する。
僕は探さなくちゃだめなんだ。そして二度とその手を離しちゃだめなんだ。
白い鳥が僕の左右を通り過ぎた。直感だけど鳥が飛んできた方向へ走っていく。
遠くで人影が見えた。ピンクのドレスを着た10歳くらいの女の子だ。
彼女は背を向けている。僕を探していると思う。だって彼女は僕の未来のお嫁さんなんだ。
僕は思いっきり声を上げた。
「カッミール!!」
僕の声に彼女は反応した。その表情には驚きが混じっていたけど、すぐに笑顔になった。
僕は駆けだした。足がちぎれるくらい走った。息が切れてとても苦しい。でも関係ない。
そして僕は彼女の手を握った。もう離さない、離すものか。
今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
正直自分の勘は的外れでした。世間はあんまり筋肉には興味ないのでしょう。
ですが楽しんで書いたのは間違いありません。それに今まで書かなかったジャンルを書いたことで勉強にもなりました。
この事は無駄にならず、実を結ぶと思います。




