表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/39

第29話 部位別ストレッチ

「ふぅ、いい湯であったな」


 筋肉仙人チアオは風呂上がりで上機嫌である。ズッシーオも同じだ。

 ふたりは一緒に風呂に入っていたのである。ふたりが一緒に入っても余裕のある広さだ。

 岩山にある家なのになぜか水は豊富であった。これはポンプと言う機械を利用したそうだ。


 なんでもポーロ王国よりも西にあり、海を越えた島国で発明されたという。

 ルミッスル王国ではありえない、思いもつかない技術力にズッシーオは驚いた。その上筋肉仙人は普通に扱っている。

 なんだか自分が田舎者みたいで恥ずかしくなった。


「さていつもの部位別ストレッチを行うかのう」


「はい」


 部位別ストレッチ。疲れた身体を癒すための行為だ。1日の最後のストレッチは翌日のトレーニングに取り組む、大切な下準備の時間である。これを怠ると翌日まで疲労が残り、やる気が出なくなるのだ。


「まずは首回りから始めるぞ」


 ふたりは両足を肩幅に開き、背筋を伸ばして立った。まずは首の後ろのストレッチだ。

 それから両手を後頭部に添え、頭をゆっくり前方に倒し、20から30まで数える。

 この時、肩の力を抜き、腕の重さを利用するのが重要だ。

 首の後ろから肩回りの僧帽筋上部に効くのである。


 次に首の前のストレッチを行う。

 こちらも両足を肩幅に開き、背筋を伸ばして立つのは同じだ。

 次の両手の手のひらをあごに添え、頭をゆっくり後方に倒し、20から30まで数える。

 この時注意するのは首の側面に痛みが出たら、無理をしないことだ。

 これで首の全面の両サイドにある胸鎖乳突筋を緩められる。


「ふぅ、効きますね。湯上りで行うストレッチは心地良い痛みが気持ちいいです」


「そうじゃろ、そうじゃろ。レイカもストレッチは欠かしておらんから、いつもきれいでいられるんじゃ」


 レイカは風呂に入っている。彼女はいつもふたりが上がってから入るのだ。なんでもふたりの筋肉が湯に染み出し、栄養になるという。

 彼女は普段着やせして細く見えるが、実際は腕の筋肉はかなり太い。毎日家事を続けているので身体は鍛えられているのだ。


 さて首の左右のストレッチだ。

 こちらも両足を肩幅に開き、背筋を伸ばして立つ。首のストレッチの基本だ。

 次に右手を左手の側頭部に添え、頭を右に倒して20から30まで数える。

 首筋から肩までを伸ばす感覚で、ゆっくりと行うと、僧帽筋に効くのだ。

 この時肩が上がらないようにして、左も同様に行う。


 最後に首の斜めストレッチを行う。

 こちらも両足を肩幅に開き、背筋を伸ばして立つ。

 右手を左側の側頭部に添え、頭を右前にゆっくり倒して20から30まで数える。

 この時はゆったりと数を数えるのが基本だ。

 肩が上がらないように注意し、頭部下部の頭板状筋や肩甲骨を持ち上げる肩甲骨金に効く。もちろん左も同様に行うのだ。


「いやー、首の周りが気持ちいいですね。ここに来てから首コリと無縁です」


「わしもじゃよ。このストレッチはわしの一族が編み出したのじゃ。戦争で披露したものたちを癒すために魔法使いたちが何十年もかけて作り上げたのじゃ。そのおかげでわしらは疲れ知らずなのだ」


 ふたりは上機嫌だ。特に筋肉仙人は80歳以上の年齢だが、健康を維持できている。人間にとって身体は誰にも奪われない唯一の財産だ。

 その財産を大切にすることで長生きできるのである。


「さて次は腰回りのストレッチじゃ」


 今度は開脚前屈ストレッチだ。

 こちらは背筋を伸ばして床に座る。次の脚は膝を曲げずに伸ばして、大きく開くのだ。

 この時上体は前方に倒して、20から30まで数える。

 ハムストリングスや腸腰筋、大臀部などにアプローチが可能だ。

 3つの前屈ストレッチを一緒に行うのが吉である。


 次に開脚左右体前屈ストレッチを行う。

 こちらも背筋を伸ばして床に座る。足は膝を曲げずに伸ばして、大きく開くのも一緒だ。

 違うのは両手で左のつま先をつかみながら、上体を左前に倒して20から30まで数える。

 反対も同様に行うのだ。こちらもハムストリングスに腸腰筋、大臀部に効果が出る。


 最後に前屈ストレッチだ。

 背筋を伸ばして床に座り、両脚を揃えて、できるだけ膝を曲げずに伸ばす。

 次に両手でつま先をつかみ、上体を前に倒して20から30数える。

 太もも裏のハムストリングスや、骨盤の奥の腸腰筋、お尻の大臀部に効くのだ。


「ああ、効きますねぇ。腰がすっきりするのは素晴らしいですね」


「うむ、ストレッチを休んだ次の日は疲れが残って最悪じゃな」


 ふたりは笑っていた。トレーニングの後は筋肉疲労が残る。

 ストレッチを行うことで披露を癒すのだ。

 疲れが残るのは大変なストレスになる。ズッシーオも領地運営で披露に悩まされていた。


 それがストレッチのおかげで疲労が癒される。これほど素晴らしいことはない。

 すでにスティーブを通じてヤムタユ領に伝えていた。

 叔父のバンブフォイユは素直に受け入れており、領民も同じだ。彼らはトレーニングや、つらい労働作業の疲れが取れたので喜んでいた。

 

 だが他の領地ではストレッチの意味が理解できない。眉唾物と思っているくらいだ。

 そこをディアブル師に協力してもらった。これを行うと双女神様が疲れを吸い取ってくれると説教したのである。


「薬を飲むのもよいですが、民草には薬を買う金がない。これなら金がなくてもできるのがよいですね」


「うむ、今のわしは金に困っておらぬが、使い過ぎて麻痺するのは怖い。もちろん金をかけるべきものには金をかけるが、そうでないときは手軽にできるものが一番じゃよ」


 ズッシーオはカッミールにもストレッチが伝わっていればいいなと心の中で思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ