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8. 小テストと結果と闘志

 朝教室に入ると、クラスメイト達がばっと僕の方を向いた。だが、その視線も一瞬のうちに霧散する。その後も僕に続いて入ってきたアルフとナタリアに対しても同じような反応をみせている。

 今日のクラスメイト達は妙にそわそわとしていた。


「今日なんかあったっけ?」


 一緒に来たアルフとナタリアも首をかしげているが、あっと思い出したようにナタリアが声をあげた。


「今日小テストがあるってこの前先生言ってた!」



 ということで、本日は小テストの日だったらしい。僕は完全に忘れてたが、テストを受けるのが初めてのみんなにとっては緊張するイベントだったようだ。僕と同じように忘れていた二人ですら思い出してからは他のクラスメイトと同じようにそわそわし始めた。僕らより先に来ていたラックは耳をぴんと立たせて席で必死に教科書を読んでいる。

 小テストといっても、範囲は基本文字の書き取りと一桁の足し算引き算くらいだったはずだ。授業はまだ半分が運動をしたりちょっとした工作をしたりと体験授業がメインなので、テストなんて言っても二教科だけなのだ。


「リーンはなんでそんな普通なんだよ!」

「リーンくんはテスト怖くにゃいの?」

「そうよそうよ!」


 三人に詰め寄られるも、正直なところ僕は別に緊張するような内容じゃない。言葉については最近授業外でも勉強し始めたし、算数に至ってはもっと難しいところまで勉強済みだ。

 ずるしてるように感じるもののこれに関してはどうしようもない。


「授業をちゃんと受けてればそんな難しい内容じゃないと思うけどな」

「勉強してても難しいのは難しいの! 引き算とか意味わからないじゃない」

「まあそこは慣れな気がするけど、コツとか教えられるかも」


 ナタリアに引き算を教えていると、アルフとラック、それから他のクラスメイト達まで横からのぞき込んできて軽い勉強会のようになった。とはいっても一桁の引き算なんてどう教えればいいのかわからなかったのでユリアス先生がやっていたように石板に絵を描いてみた。ほとんど授業の再現だ。

 そんな時、教室の扉が勢い良く開かれバンッと大きな音が響く。

 みんなでそろって入口を見ると、教室に取り巻き二人を引き連れ大股開きでずかずか入ってきたのはキラキラと光る金髪と燃えるような赤い目の持ち主。シールだ。彼は毎日同じ入り方をしてくるので見なくてもわかるのだが、突然大きな音がしたらつい見てしまうのが人間の性ってやつだろう。


「はっはっはー! べんきょーは完璧だ! 今日のテストは俺がトップを……とる!」


 教室に入るなりそう宣言したシールは右手を高くあげ空を指さすようなポーズをとった。そんなシールに、取り巻き二人はわーっと拍手と歓声を送っている。子供目線からしたらあれはかっこいいのだろうか……わからん。割とかっこつけたがりなアルフはあんなことやったことないけど。だが何人か目を輝かせて拍手を一緒にしているのでかっこいいのかもしれない。

 ふとシールと目が合った。シールはポーズをとるのをやめるとずかずかとこちらに近づいてくる。


「ふーん、お前ほかのやつらにべんきょー教えてんだ。よゆーみたいだな」

「え、僕……?」


 シールとは今まで一切話したことがない。それが突然、不機嫌ですという雰囲気を隠す気もないようで鋭い視線を僕に向けている。さっきまでノリノリでポーズとってたくせに何なんだ一体!


「お前に言ってるに決まってんだろ!」


 耳元で怒鳴られたついでに机を勢い良く叩かれる。


「わかった、わかったから! ごめんって!」


 こいつ、子供のくせして無駄に顔が整っているから至近距離ですごまれると結構怖い。気づいたら謝罪の言葉が口から飛び出していた。

 突然始まった僕らの喧嘩のような何かに周りに集まっていた子達が離れていく。残ったのは三人だけだった。

 アルフがシールを押しのけて僕の前に立った。


「なんだよいきなり。俺たち勉強してんだから邪魔すんなよな」


 僕の目の前にはアルフの背中があってよく見えないが、二人が睨み合って緊張した雰囲気が流れているのがわかる。だが、少ししてシールがふいと目を逸らした。そのまま自分の席に着く。


「別に、邪魔したわけじゃねーし。オレだって勉強するし!」


 それだけ言うと教科書を広げて読み始めてしまった。


「……なんだったの、あいつ」

「……さあ」


 ナタリアが呆れたように呟いた。シールはその言葉にも耳を貸さず教科書をかじりつくように読んでいる。もうこちらには興味がないことに安堵して、僕も改めて教科書と石板に向き合った。


「アルフ、さっきはありがとう。僕らも続きしよう」

「お? おう!」


 アルフは振り返ると少し照れたように笑った。顔はこっちを向いているのに、目だけナタリアの方を見ている。さては、ナタリアにいい所を見せたかったんだな。わかりやすいよ。


「ね、ナタリア。今のアルフすごいかっこよかったよね!」

「は!? い、いきなり何言ってんだよ!」


 アルフは顔を真っ赤にしながら、手をやみくもに振り回してる。だが視線だけは変わらない。対するナタリアはにこりと笑ってアルフへの称賛の言葉を口にしている。


「確かにかっこよかったわね! ヒーローだったよアルフ!」

「かっこよかったにゃ!」


 ナタリアとラックでねーっと顔を合わせて笑っている。


「そ、そうか……? ま、まあそんなことよりテストだろ! 勉強!」


 ようやく落ち着いたアルフは顔に赤みを残しながらも手元に教科書を引き寄せている。だが残念ながら、そんなことをしているうちに時間切れになってしまったようですぐに先生がやってきてしまった。


────


 小テストから三日後。学校が休みの日もはさみ本日は満を持した小テスト返却日である。


 小テストが終わった後の反応はバラバラだった。アルフは全然集中できなかったと嘆いており、ナタリアとラックは大体はできたかなと安堵しているようだった。僕も特に躓くようなことはなく、見直しもできたので満点の自信がある。


 そんなテストが返ってくる。自信はあってもこの待ち時間はドキドキするし慣れるものじゃない。満点は百点。地味に問題数多かったし、一問でもミスしてたらどうしようと不安が募る。教室はすでに返ってきた子達の喜怒哀楽様々な声で満たされていた。

 ちょうど今アルフが名前を呼ばれ取りに行ったところで、結果を見て少々暗い顔になっているのがわかる。次のナタリアも呼ばれたので、僕の番もすぐだ。


「リーン君」

「はい」


 ユリウス先生に呼ばれ席を立つ。移動する短い時間だけで心臓がバクバク言っているのがわかる。

 恐らくガチガチに固まっているであろう表情のまま先生の前に立った僕に、頭上から優しい声をかけられた。


「リーン君、大変よく頑張りましたね」


 先生にふわりと優しく微笑まれ、小テストを渡された。次のラックの邪魔にならないように席へ戻りつつ、恐る恐る点数を確認する。そこには百点満点の数字が、おそらく先生の自画像だろうかわいいイラストともに添えられていた。


「やった……!」


 僕が安堵に声を漏らすと、どうだったのかと机から身を乗り出してナタリアがテスト用紙を覗いてきた。


「すごい! リーン満点じゃない! 私は四つも間違えちゃったのに」

「は!? すげぇなリーン!」

「ほんとにゃ! 難しかったのに!」


 ナタリアが大声で叫んだことで、アルフと帰ってきたラックも後ろから覗き込んでくる。それだけでなく教室中で驚きの声が上がっている。この様子だと満点はまだいなかったのかもしれない。

 一応昔の記憶があるわけだし今回のテストはかなり簡単だったわけなのだが、言葉関係はそれなりに努力したわけだし賞賛されて悪い気はしない。

 だがそんな空気も長くは続かなかった。


「通れないだろ! 通り道ふさぐなよ!」

「あ、ごめんね……」


 またしても不機嫌なシールが通路越しに僕のテストを覗いていたナタリアの前に立っていた。ナタリアが素直に道を開けると、シールが進んでいく。その時、シールが一瞬だけ僕を睨んだ気がした。


「シール君も、よく頑張りましたね」


 そう言って先生はシールにテストを渡す。シールは勢い良くテストの結果を確認して、叫んだ。


「きゅ、98点!? なんで! 自信あったのに!」

「あぁ、そこは惜しかったね。ひっかけ問題だからみんな間違ってたよ」

「でも! あいつは満点だって!」


 シールは僕を震える手で指さしている。


「確かに、合っていたのは彼だけだったかな」

「んなっ……!!」


 目を丸くしたシールは僕をキッと睨むと、自分のテスト用紙を握りしめ大きな足音をたてながら僕の前へと歩いてきた。そして、ぐしゃぐしゃになったテストを僕のテストの上に叩きつける。


「おい! お前どんなずるしたんだよ!」

「はぁ!? ズル!?」

「だってお前、いつも勉強してるように見えないし! テストの日だって朝ほかのやつらに教えてたけど自分は勉強してなかったしその後は話してただけだろ! 俺は毎日勉強してるのにお前よりできないなんておかしい!」

「な、なんだよそれ! 言いがかりにもほどがある……! 僕だって勉強くらいしてる!」

「くらいってなんだよ!!」


 シールは興奮してるのか、口からは炎が漏れ出ているのが見える。感じる熱気にひるみながらも反論するが、シールは取り付く島も与えてくれなかった。

 先生や取り巻き達がシールを止めるまで、僕たちは睨み合っていた。

 僕はその時、シールが僕に対して闘志を燃やし始めたことだけは感じていた。


 だが、これをきっかけに一生こいつと競い続けることになるとは、まだ思ってもいなかったのだ。

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