6. 先生と自己紹介と新しい友達
入学式の後は、クラスごとそれぞれの教室に移動して自己紹介を行うようだ。今日はそれだけで解散となる。
ホールから教室まで担任の先生となる人が先導してくれたが、僕らを先導する先生の後ろ姿には見覚えがあった。ふわふわとした亜麻色の髪。去年この学校の前で出会ったユリアスだ。
会えるかな、とは思っていたけどまさか本当に担任になるとは思っていなかった。
僕達はユリアスに連れられて、1年生の教室に入っていった。
1年生の教室は日本の教室とほとんど変わらなかった。黒板があって、机と椅子が並んでいる。違いといえば、机が長机で4人で1つ、という所くらいだ。
そして、黒板は入学お祝いの花や鳥のイラストが書いてあった。
今日の席はとりあえず並んでいた列の順番という事で、残念ながらアルフとナタリアとは通路を挟んだ違う机になったが右にはラックが座っている。僕が一番端っこで、ラックの右側には知らない二人が座っていた。
全員が席に着くと、ユリアスから挨拶があった。
「皆さん、入学おめでとうございます。そして初めまして。僕は今日からこの2組の担任になりました、ユリアス・メーサと言います。みんなよろしく」
ユリアスは以前あった時と同じ優しそうな笑みを浮かべる。
「今日はみんなに自己紹介をしてもらおうかな。それじゃあそこの、一番前の君からお願いします」
指名された女の子から順々に自分の名前を言っていく。クラスの半分くらいは人間だったが、もう半分は他種族も混ざっているみたいだった。
ラックのように動物の耳と尻尾が生えている子や角が生えている子など、種類はいろいろだ。
「ダッシュ・ガンドルです! 走るのが好きですよろしく!」
そう言ったダッシュは狼の獣人みたいだ。ラックとは違って耳と尻尾だけじゃなくて、顔つきも狼のまんまで身体中毛がフサフサだ。手も毛があるし普通の狼とは違って指は長いみたいだけど肉球はあるのだろうか。
ちなみに獣人によって人間部分の多さに違いがあるのは獣人の血がどれだけ濃いか、ということらしい。この世界は他種族同士でも子どもが生まれるので、純粋な獣人というのは少ないようだ。
「ナタリア・フェーレースです。よろしくお願いします!」
「アルフ・アプリチコ。よろしく!」
「リーン・ウォーナットです。よろしくお願いします」
「ラック・ヴィシーニャにゃ。よろしく」
ナタリアとアルフが自己紹介をし、僕とラックの番が続いて無難に自己紹介を終わらせる。その後も他のクラスメイト達の自己紹介が続いていく。
このまま何事もなく過ぎていくと思われた自己紹介だったが、最後の1人の番で事件が起きた。
「オレ様はシール・ファルメアだ! 竜人族だからめちゃくちゃ偉いんだからな!」
机の上に乗り、口から炎を吐き出した男の子がいた。
竜人族。聞いたことがある。このドラコニア王国は名前の通りドラゴン、つまり竜を神獣として祀っている国なのだが、かつて竜と交わり子供を産んだ人間がいたとか。その末裔が竜人族。
蜥蜴人のように肌に鱗は無く、パッと見は人間そのものだけど彼のように炎を吐いたりだとか、特殊能力があったりするらしい。
話しには聞いていたけど本物を見るのは初めてだ。街ですれ違っても気づいていなかっただけかもしれないけど。
竜人族は確かに数は少なく高い地位にいる者が多いが、別に全員が貴族という訳でもない。だいたい貴族だったら第一学園の方にいく人が多いだろう。
「お前ら全員オレの子分だ!」
「いえーい! シールかっこいいー!」
「ハーハッハッハ!!」
シールは大声で宣言すると高笑いをする。
子どもらしいと言えば子どもらしいけど、口調や僕らを見下ろす態度から思いっきり僕達クラスメイトを見下していることがよく分かる。僕の苦手なタイプだ。シールの隣では取り巻きっぼい男の子が野次を飛ばしている。
シールが笑う度に口から火の子が飛んでくるため、周りの席からは悲鳴が上がりちょっとしたパニックになっている。
その時、パチン! と軽快な音が鳴った。
シールの笑い声がぴたりと止まる。教室内の温度が少しだけ下がった気がした。
「あ? 何だ、火が出な……って、寒!!」
気のせいじゃなかった。僕のいる場所はたいして変わっていないが、シールの周囲が一番寒く、そこから冷気が広がっている。シールは白くなった息を吐いて身体を震わせていた。
「はいはい、危険な魔術はちゃんと制御出来ないのに使ってはいけません」
ユリアスが手をパンパンと叩きながらシールに近づいて行く。もう一度指を鳴らすと冷気は消えて無くなった。
ユリアスがひょいとシールを持ち上げ椅子に座らせる。それから周りの生徒達に怪我はないかと確認していた。
「今日から一緒に勉強をする仲間なんですから、みんなで仲良くしないといけませんよ」
「う、うううっせぇ人間のくせに! 俺に指図すんな!」
「こら、種族によって偉い偉くないはありませんよ。この国はみんなが仲良く暮らしている国なんですから」
「う……」
「わかりましたか?」
「わ、わかったよ」
「じゃあみんなに謝れますか?」
「……わ、悪かったよ!」
「よし、ちゃんと謝れて偉いですね、シール君」
ユリアスがにこりと笑ってシールの頭を撫でた。
すごい。不良の扱いがうまい。一瞬でシールを落ち着けてしまった。
シールは居心地が悪そうに赤い顔できょろきょろと周りを見ている。
「はい、それじゃあこれでみんな自己紹介は終わったかな。これから一年、このクラスのみんなで一緒に勉強を頑張りましょう」
今日はこれで学校はおしまいだ。
僕達四人は、ユリアスの元に集まった。
「先生! ねえ、私達のこと覚えてる?」
「もちろん! ナタリアちゃんに、アルフ君、それにリーン君。去年の夏、この学校の前であったよね。それから、ラックちゃんは今日初めましてだね」
「は、初めましてですにゃ! え、えっと……」
「あのね、僕らが去年この学校を見に来た時ユリアス先生にあったんだ。それでちょっと話をしたの」
「そうにゃんだ! すごいね」
先生と親しげに話す僕らにラックが戸惑っていたので補足をする。
ユリアスはぱちんとウインクをしていた。優しくて強い先生、という印象だったが意外と茶目っ気があるようだ。
「先生すげぇ! 俺らのこと覚えてたんだ!」
「アルフ君こそ、よくちょっと会っただけの怪しいおじさんのこと覚えてたね?」
「へへっあったり前だろ、だって先生大人って感じでかっこよかったから」
「ふふ、ありがとう」
「あ、あの先生! ちょっと聞きたいんですけど」
先程のシールの一件で、ユリアスにはどうしても聞きたいことがあった。
あの冷気だ。おそらくあれは魔術だろう。
「リーン君、どうかした?」
「えと、さっきシールを止めた時なんですけど、あの時ってやっぱり先生、魔術を使ってたんですか?」
「ああ、そうだよ。あれは冷却の魔術。何かを冷やす時に使う簡単な生活魔術だよ」
「それって僕でも使えるようになりますか? 僕魔術の勉強がしたいんです!」
「もちろん、ちゃんと勉強をしたら誰でも使えるようになるよ。でも魔術の勉強をするのはもうちょっと大きくなってからね、危ないから」
「そっかぁ……」
早く魔術を使ってみたかったのでちょっと残念だ。
魔術の勉強は四年生から始まるが、本格的に使えるようになるのは中等部かららしい。
でもシールのように闇雲に炎を吐き散らすような子どももいるから当然か。いつかはちゃんと勉強ができるのだからそれまで他の勉強をしっかりして待っていればいいのだ。
それに、難しい言葉も読めるようになったら図書館に行って独学で勉強なんかもできるだろう。こちとら地球で得た勉強慣れというアドバンテージがあるんだから活用しないてはない。
その後は五人で少し雑談をしてから帰路についたのだった。