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5. 妹とお揃いと入学式

「おぎゃああああああああ!!」


 僕の立っている扉の向こうで、大きな赤ちゃんの泣き声が響いた。


────


 母さんの産気づいたのは、もう冬も終わりかというくらいの晴れた暖かい日だった。

 もうそろそろかな、なんて話していた日の夕方、母さんは突然呻き声を上げ始めた。父さんは産婆さんを呼びに行き、僕はお湯を沸かしたりしていたが、できたのはそれだけだった。

 男は入るなと産婆さんがやって来てからは部屋を追い出され、その後はずっと部屋の前をうろうろしていた。


 そうしてやっと元気な赤ちゃんの声が聞こえてきて、心底安心したのだ。


「ほらリーン、あなたの妹よ」


 生まれたのは女の子だった。

 母さんは腕にまだまだ赤くてしわしわとしてる赤ちゃんを僕に見せた。


 僕がおそるおそる指を近づけて、赤ちゃんの小さな手をつんつんとつついた。赤ちゃんはむずがるように小さく身をよじった。


「わぁ……かわいい……」

「ふふ、そうでしょう? 名前はユーリよ。今日からユーリも家族の一員、よろしくねお兄ちゃん」


 母さんがユーリの手を持って軽く手を振るような仕草をした。


「うん! えへへ、よろしくねユーリ。お兄ちゃんだよー」


 それからは大変だった。

 ユーリは朝でも夜でもお構いなしに泣き始めた。お乳を飲んで満足して眠り、ほっと一息ついたと思えばおしっこをして泣き出して、オムツを変えるとまた眠った。


 僕が赤ちゃんだった時のことはよく覚えていないが、もしかしてこんな感じだったのか。

 母さんに聞いてみると、「リーンもこうだったわよ。でももう少し大人しかったかしら」と言っていた。中身は17歳まで生きていた記憶があるだけにちょっと恥ずかしい。


 僕はそんな恥ずかしさを払拭するように、できるだけユーリのお世話の手伝いをした。

 できるだけ楽をさせたいと思ったからなのだが、2度目だからか母さんも父さんも手馴れたものでほとんど僕の出る幕は無い。それでも眠そうではあったけど。

 せっかくだったので時間がある時はユーリの服の胸元に小さな花の刺繍をたくさん入れておいた。女の子らしくたいへん可愛く仕上がったので満足だ。本当はユーリにもリボンを作ろうと思っていたけど、口に入ったら危ないからと止められてしまった。


 そうやって忙しくしているうちに時間は過ぎて、季節はすぐ春になった。


────


 今日から僕は小学生になる。

 正確にはこの世界の学校は小学校という名前ではないので、王立第二学園の生徒、略して学園生だ。

 そして今日はその入学式だ。


「おはよう二人とも!」

「おはようリーン」

「はよ!」


 もちろん僕達は一緒に登校する。入学式は両親も見に来るので、父さん達も一緒に歩いていた。母さんはユーリがいるので残念ながらお留守番だ。


「ナタリアは今日は髪縛ってるんだね。リボンも似合ってる」


 いつものナタリアは髪をそのまま下ろしていたが、今日はハーフアップだった。髪を縛っているのは僕が刺繍をしたリボンだ。やっぱり僕の見立ては間違ってなかった。すごくかわいいし似合ってる。


 ちなみにあのリボンは、あのアルフと喧嘩をした日から十日後くらいで作り上げてナタリアに渡した。




「わあっ! かわいい! リーンありがとう」


 僕がリボンを渡すと、ナタリアはそう言ってふわりと笑った。

 その横顔を、アルフはじっと見つめていた。


「どういたしまして。それからアルフも、はいこれ」


 そんなアルフにも、僕はリボンを渡した。アルフのリボンは青色だ。


「お前これ……」

「仲直りの印。せっかくだからさ、みんなでお揃いにしようよ。ね?」

「……俺は別に髪長くねーけど」

「アルフもお揃い? 前はいらないって言ってたじゃない」

「そーそー。俺は着けるとこ無いっての」

「別に首元とか手首とかいくらでもあるでしょ。ほらいいからいいから」


 首を傾げるナタリアやしぶるアルフをよそに、僕はアルフの手にそのリボンを握らせた。


「ね、せっかくだから学園の入学式はみんなでこれ着けよう。約束!」

「ふーん、いいねそれ! でもアルフが嫌なら着けなくてもいいのよ?」


 ナタリアはアルフを見てニヤニヤとしている。


「べっ……つに、嫌じゃねぇし! わかったよ、お揃いな!」


 アルフは顔を真っ赤にして叫んだ。




 そんなこんなで今日は、三人みんなリボンを着けてる。僕とナタリアは髪に、アルフは首もとだ。


「えへへ、似合う? やっぱりリーンのおかげだよね! アルフもちゃんと似合ってるよ。かわいい」

「うんうん。アルフもナタリアもかわいいよね」

「だーもう! かわいいって言われたって嬉しくないからな!」

「はいはいかわいいかわいい。何だかんだ言ってもアルフはちゃんとリボンつけてくれるもんね。偉い偉い」

「おいリーン、子ども扱いするなって。俺たちはもう学校に行くんだからな!」


 ぎゃいぎゃいとアルフは横で吠えているが、それでも律儀に約束を守ってくれるあたりアルフは本当に優しいと思う。

 僕らの会話を聞いて後ろの大人たちはくすくすと笑っていた。


「わかったから、落ち着きなよ。入学式までそんなに騒いでる気?」

「何だよ、元はと言えばお前がだな」

「そうそう。学校行くのに騒いでたら今年の1年生は子どもだなーって思われちゃうわよ」

「ぐっ……」


 僕が注意してもなお反論してたくせに、ナタリアが注意をするとすぐに黙った。

 アルフは本当にナタリアに弱いみたいだ。


「ほらほら三人とも、もう第二学園に着くんだからシャキッとしな!」


 後ろからパンパンと手を叩いて、ナタリアのお母さんが言った。確かに学園はもうすぐで、見える所まで来ている。


 学園は入学式仕様のようで、今日は花でいっぱいに飾り付けられていた。周りには人が沢山居て、中には他種族と思われる人達もいる。

 普段街でもよく見かけるとはいえ、実際同年代の他種族の子達と話したり遊んだりしたことは無かったので、期待に胸が膨らんだ。


 学園に着くと僕達は親と別れて、新入生用の列に並んだ。受け付けで名前を告げると列が振り分けられたので、多分これがクラス分けになっているんだと思う。幸い、僕ら三人はみんな同じ列だった。


「ね、ねえ、あにゃたも同じクラスだよね。えっと、これからよろしくにゃ! っあ!」


 声をかけてきたのは、ちょうど僕の後ろに並んでいた女の子だった。ふわふわの髪の毛からはひょこんとかわいい耳が飛び出している。


「よろしく。ええっと、どうかした?」

「にゃ、にゃんでもないの! えっと、その、まだ上手くしゃべれにゃくて……」

「なんだ、気にしないでよ。その喋り方もかわいいと思うな。僕はリーン。君は?」

「にゃ、あたしはラック! ありがとうリーン」


 それから入学式が始まるまで、ラックも交えて僕らは4人で話をしていた。


 入学式は大きなホールで行われた。

 よくある校長先生や先輩の話が続き、その後は新入生歓迎で在校生達が校歌を歌う。

 新入生はさすがに7歳児の集まりと言うだけあって、先生の話で寝ていたり、周りの子達と喋っている子が多かった。まあさすがに話はつまらないし、仕方がないか。

 入学式自体は前の世界と変わらず正直言って退屈だったが、ホール内は四方に青く光る石が浮いていたりして、とても幻想的な空間だった。

 さすがは魔法の世界だ。


 そんな長い入学式を終えて、僕の学園生活は始まった。

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