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2. 家族とお手伝いと趣味

 アルフとナタリアと別れて、家に帰る。

 「胡桃の森」と書かれた看板ほかかる店の裏手に周り、裏口の扉を開けた。


「ただいま」

「おお! リーンおかえり。まずは手を洗いなさい」


 そう言って出迎えてくれたのは厨房で料理をしている父さんだ。

 そう、この「胡桃の森」は僕の両親が経営している食堂で、僕はここの2階に住んでいる。そして、暇な時間はお店の手伝いをしていた。


「はーい」


 僕も言われた通り大人しく手を洗う。


「ね、手洗ったからお店のお手伝いしていい?」

「ああもちろん! 最近はよく手伝ってくれるが、さてはお小遣い目当てだな?」

「あ、バレた?」

「お前はわかりやすいからな。何か欲しいものでもあるのか?」

「秘密!」


 父さんから逃げるように、食堂の方に出ていく。

 僕のできる仕事はお客さんから注文をとることと、できた料理や空いたお皿を運ぶくらいだ。といっても今は夕食どきよりちょっと前ってくらいでお客さんは少ないので、お皿を運ぶくらいしかやることはない。

 もう少し時間が経ったら一気にお客さんが来るだろう。


「母さんただいま。手伝いに来たよ」

「あらおかえりなさいリーン。じゃあまずあそこのテーブルにこれ運んでくれる?」


 母さんから料理の乗ったお盆を受け取る。トマトの冷製スープだ。外は暑かったから、普段以上に美味しそうに見える。


「おまたせしました。トマトの冷製スープです……ってうわっ」


 スープをテーブルの上に置くと頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。


「よお坊主! 今日もお手伝いか、偉いなぁ!」


 そう言ったのは常連客の大工のおじさんだった。結婚はしてないみたいで、よく仕事帰りにうちに寄っていく。


「おじさんは今日は早いんだね」

「おうよ! 簡単な仕事が多くて困っちまうな!」


 おじさんはガハハと豪快に笑う。


 それからずっと食堂の手伝いをしていた。途中、人が多くなる前にカウンター席で僕も夕飯を食べた。


 店のお手伝いは本当に楽しい。

 いろいろな人と話して、知らないことや面白い話を聞けるからだ。それに、常連の人達はみんな優しくしてくれる。


 まだまだお客さんには出せるような出来じゃないけど、最近は料理の練習もしている。

 料理自体は昔から好きだったけど、改めて生まれ変わってやってみると思いのほか出来なかった。リーンの身体だと慣れていないみたいで、包丁で食材を切るのだって危ないからとまだ禁止されている。

 とりあえず、目下の目標はお菓子作りを完璧にすることだ。これなら包丁も使わないし、何より美味しいし楽しい。


────


 お店も閉店して上の階にある自宅へ帰ると、父さんに椅子に座るように言われた。

 僕が座ると、同じテーブルに父さんと母さんも着いた。なんだか改まった様子で、もしかして、何か怒られるのだろうか。


「実はな、リーンに伝えておかないと行けないことがあるんだ」


 父さんが重重しく口を開いた。こわい。


「あのね、リーン。……実はね、あなたに兄弟ができるのよ!」

「へ?」


 間抜けな声が出た。


「えっと、兄弟って」

「弟か妹ができるのよ〜。リーンは嬉しくない?」

「ううん、嬉しい! 何か怒られると思ったからびっくりしただけ! いつ生まれるの?」

「冬の終わりくらいよ」

「そっか、へへ、僕お兄ちゃんになるんだ」

「リーンはいい子だから、きっといいお兄ちゃんになるわ」


 お兄ちゃん、お姉ちゃん、響きがいいよね。前は兄弟とかいなかったからすごい楽しみだ。妹か、弟か。できたら弟がいい。


「それでなリーン。お前に頼みたいことがあるんだ」

「何?」

「これからレイラのお腹がもっと大きくなってきたらな、母さん、仕事をするのが大変になってきちゃうんだ。リーンも春から学校で忙しくなると思うけど、できるだけお手伝いをして、レイラを支えてあげてくれないか。俺も一緒に支えるから」

「うん、僕も母さん支える!」

「そうかそうか、リーンはいい子だな」


 父さんが頭を撫でてくれた。大きな手で安心する。


「そうだ、父さん。今度赤ちゃんでも食べれる料理教えてね」

「おおもちろんだ」

「あら二人とも、生まれるのはまだまだ先なのに気が早いんじゃない?」

「そんなことないよ! 冬なんてすぐ来ちゃうって」

「そうだそうだ、リーンはいいこと言ったぞー」


 優しく撫でてくれていた父さんの手が、ぐしゃぐしゃと僕の髪の毛をかき混ぜた。


 母さんも父さんも優しいし、来年からは兄弟ができる。僕は本当に、この家に生まれてこれて良かった。そんな両親に報いるためにも、僕はちゃんと男でいたい。


 将来はたくさん親孝行ができたらいいな。


────


 「ふふふ、兄弟ができるなら、尚更これは早く完成させないとね!」


 夜、僕の自室で、手元にあるのは、真っ白なリボンと赤い糸、そして針に刺繍枠。コツコツと貯めたお小遣いで両親に内緒で買ったものだ。

 これで、リボンに糸で刺繍をするのだ。


 お店でかわいいリボンは売っていて、欲しいなと思っても買いづらい。それなら自分で作ってみようと思い立った結果だ。

 最初は刺繍のやり方なんてわからなくて適当に縫っていたら布がヨレヨレしてしまっていた。何度も糸を買いに行ってたら見かねた雑貨屋のおばちゃんにちゃんとした刺繍のやり方を教えて貰って、今はそこそこの出来になっている。

 リボンの前には練習としてハンカチにちょっとした花の刺繍を入れていて、そっちは割と上手くいったので母さんの誕生日に渡す予定だ。


 今では実用性だけではなく、刺繍は立派な僕の趣味になっている。


 ちなみに僕の髪はそれなりに長くて後ろで一つに結んでいる。刺繍したリボンはちゃんと使えるので今から楽しみだったりする。

 それにまだ見ぬ兄弟のためにもなにか作りたい。

 この世界では男でも長髪は珍しくないのでありがたかった。やっぱり短いといまいち落ち着かない。


 そして今日も眠くなるまで刺繍をしていた。

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