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1. 友達と遊びと学校

「おーい、リーン! 遊びに行こうぜ!」

「うん! 今行く!」


 僕は今、六歳になっていた。

 今の生活はといえば、家の手伝いをするか、今日のように近所の友達と外に遊びに行くかのどちらかだ。


 僕がここに生まれてかれこれ六年、暮らしていてわかったことといえば、どうやらこの世界は前まで生きていた世界とは全く違う、いわゆる異世界ってやつのようだった。

 そう判断した理由は二つ。


 まず一つ目、明らかに人間じゃない見た目の人々が普通にいることだ。

 髪の色が緑とか青とか派手なだけならまだいいのだが、二足歩行の人サイズの犬が歩いているのを見た時は本当に驚いた。思わず父の後ろに隠れたら、まだまだ弱虫だな、なんて笑われたのはいい思い出だ。どうやら獣人という種族のようだった。

 他にも蜥蜴人やら鳥人やら、ゲームの中にしか出てこないような人達がたくさん街を歩いていた。

 種族は違っても差別は無いようで、みんな笑って暮らしている。


 そして二つ目、この世界には魔術と呼ばれるものがある。

 前ほど便利かと言われれば微妙な所だが、科学の代わりに魔術が発展していて水道や火、街灯なんかは全て魔術式だった。テレビやスマホのようなものは無いが通信機はあるらしい。とてもお高くて一般庶民には買えないようなものだけど。

 魔術のおかげで生活が豊かで飢えの心配がなくなり、他種族とも手を取り合って暮らしていくことができるようだった。

 国によってまだまだ貧困が問題になっている所もあるようだったが、少なくとも僕が生まれたこのドラコニア王国は平和だ。


「な、な、これ見てみろよ!」

「何? ってわああぁぁぁ!!」


 友達のアルフに声をかけられて振り向くと、目の前にはわさわさと動く6本足があった。

 カブトムシっぽいやつだ。顔くらい大きくて、とにかく気持ち悪い!

 僕が逃げるように走り出すと、アルフはそいつを持ったまま僕を追いかけてくる。


「やめろってば! その気持ち悪いの離せよ!」

「何言ってんだよかっこいいだろ!」


 僕よりもアルフの方が足が速いし体力もあるのですぐに追いつかれてしまった。そもそも僕はもとから体が弱いのだ。最近はそこまで気にするほどでもなくなったが、昔はよく熱を出していた。


 アルフは僕の目の前にカブトムシを持ってくる。僕は正直もう涙目だ。


「へへっやっぱリーンはいつになっても泣き虫だな! そんなんじゃ学校行ってやってけねーぞ!」

「別に虫が苦手だからって弱虫ってわけじゃないだろ!」


 そういってもアルフは笑っている。


「こらっリーンが可愛いそうでしょ!!」


 笑っているアルフの頭を後ろから叩いた女の子はナタリアだ。いつもお姉さん風を吹かせている気の強い女の子。

 それに対してアルフはいわゆるガキ大将といった感じで、いつもやんちゃして怒られている。


 僕らは家が近いので、いつもこの三人でいることが定番になっていた。

 もちろん他の友達とも遊ぶけど、一番仲がいいのがこの二人だ。


 僕らは普段街の中を探検したり、他の男の子達と追いかけっこをして遊んでいる。

 女の子はナタリア見たいに活発な子はよく混ざってくるし、大人しめの子は女の子同士でお花を摘んで花かんむりなんかを作って遊んだりしていた。


 ……正直言って、僕もそっちに混ざりたい。もともと、外で遊ぶよりも家で絵を描いていたりするほうが好きなのだ。

 それでもここでは男の子は外で元気に遊ぶものだというのが常識で、家で大人しくしていると心配されてしまう。

 それに、外で遊ぶのが好きじゃなくても皆といるのは好きだから、結局走り回ることになっていた。


「ねえ! そんな虫はいいからあっち行きましょ!」


 ナタリアがくるりと回って言った。

 スカートがの裾がふわりと広がり、ナタリアの長い赤毛が揺れる。


 とてもかわいい。……いいな、なんて。


 スカートじゃなくて、ナタリアが可愛いから見つめすぎちゃっただけだ。

 きっと、そう。


「おっしゃ! 今日はそっちのほう探検しようぜ!」


 アルフが僕の腕を掴んで走る。

 掴まれた腕が熱い。今が夏だからだろう。


────


 ナタリアとアルフに連れられて僕らがやって来たのは、次の春から僕らが通うことになる『学校』だった。といっても中には入らず外から見ているだけなのだが。


 このドラコニア王国は、その年7歳になる子どもは5年間学校に通うよう義務付けられている。その学び舎は基本街で運営されている初等学校か、神殿に併設されている学舎かどちらかだ。

 大きい街には学校がある方が多い。

 学校は初等部、中等部、高等部とあって、それぞれ5年、3年、4年。義務なのは初等部だけで中、高は自由だ。イメージ的には初等部が小学校、中等部は中学高校、高等部は大学といったところで、大体の人は中等部まで通って高等部まで行く人は少ない。

 試験も難しいって聞くしね。


 僕達の暮らすこの街フスティシアは王都なので大きな学校がたくさんある。

 僕達が通うのは家から近い王立第二学園。初等部と中等部が併設されている。


 第二学園は外から見ただけでも綺麗に整備されていて、そんな学園を見て2人は目をキラキラさせている。多分僕も同じような表情をしてる。

 まだ授業中のようで外を歩いてる人はいなかったけど、窓から見える授業の様子に2人は大興奮だ。


「あれ、何してるのかしら」

「多分今勉強してるんだぜ! ずっと座ったままとかすっげえ暇そう! 俺もっと走り回ったりする授業がいいなぁ」

「そういうのもあるんじゃない? でもちゃんと勉強もしないと怒られるよ。アルフのお父さん厳しいじゃん」

「うげーやだな、がっこー。俺ずっと遊んでたい」


 アルフは頭の後ろで腕を組んだ。


「勉強しないと立派な大人になれないのよ。私は早く学校行きたいな! ね、リーンもそうでしょ?」

「んー? そうだなぁ僕も早く学校行きたいな。魔術ってやつ使ってみたい!」

「げ、お前魔術って難しいんだろ。よくそんなのやりたいって思えるよな。まあお前は頭いいからいいけどさぁ」

「でも魔術は初等部じゃやらないんじゃない?」


 僕らは学校の前でわいわいと話をしていると、突然声がかかった。


「ふふ、皆さん夢があっていいですね」

「え」


 いきなりの事で、僕も2人も固まってしまった。

 僕らの後ろにいたのは、亜麻色の髪の男性だった。白いシャツに紺のズボンで、全体的にフォーマルな格好だ。


「ああごめんね、驚かせちゃったかな。僕はここで先生をやってるユリアスっていうんだ。君たちは?」

「あ、えっと、俺アルフ!」

「私ナタリア」

「僕はリーンです。えっと、今度この学校に入学するから、見に来ました」


 ちょっと困った顔をするユリアスに、アルフが率先して自己紹介をした。


「そっか。ということは来年から君たちは僕の生徒になるのかもしれないね」

「えっそうなの?」

「うーん、どうだろ。まだわからないから、かもしれないってくらい」

「ふーん」


 よくわかっていないアルフに、ユリアスはくすくすと笑う。


「おっと、僕はもう行かなくちゃ。突然声かけて悪かったね。来年から勉強頑張って」


 そう言って僕らの頭をぽんぽんと撫でると、ユリアスは学校の中に入っていった。

 知らない大人と話すという、突然の嵐が去ったような感覚で、僕らは顔を見合わせた。


「すごいね、なんか今の人、すごい大人って感じだった」

「ちょっとリーンに似てたよなー」

「え、どこが?」

「ほら、僕って言うし、何か言い方丁寧だし」

「ああ確かに! リーンってちょっと大人っぽいよね!」

「ええーそうかなぁ」


 それは多分僕が前世の記憶を持ってるからなんだろうけど、正直僕は身体に引っ張られてるのかだいぶ精神的に幼くなってると思う。主観だけど。


「ま、いいや。とりあえず学校は見れたしさ! 戻ろうぜ!」

「そうね」

「はいはい」


 そうして僕らの学校見学は終わった。

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