プロローグ
私の人生は、結構幸せだったと思う。
今日はいつものように学校に行って、休み時間には昨日見たテレビの話とか好きな歌手の新曲の話なんかで盛り上がって、退屈な授業でちょっとうとうとして、いつも通りの平凡な日常だった……はずだ。
部活が終わって帰ろうとしたあたりから記憶が無いけど。
覚えているのは、真っ暗闇の中で聞こえてくる私の名前を必死に呼んでいる友達の声だけ。
何があったんだっけ。事故にでもあったのかな、なんて。どうせ死んだ私には関係ないけど。
私は今、何も無い白い空間に一人浮かんでいるかのような状態だった。
手足の感覚なんて無いし、視界も動かない。そもそも周りは全部真っ白だから視界が動いてるのかなんてわからない。
気がついたらこの空間にいて、ただ漠然と、ああ、私は死んだんだなってことを理解した。
たとえ今までが幸せでも、終わりが悪ければいいことなんて何一つ無かったように思えてしまう。
まだ生きていたかった。
勉強はあまり好きではなかったけど、学校は楽しかった。友達とまたくだらない話で騒ぎたいし、いろいろな所に旅行にだって行きたい。
それに、恋だってしたかった。
私はまだ高校生で、これからもっと勉強して、いろんな人と出会って、楽しいキャンパスライフを送って、仕事もして、恋もして、好きだって思える人と結婚して子供を育てたりしたかった。
──もっと生きたい!!
声なんて出ないけど、それでも叫んだ。
「その願い、叶えてあげようか?」
突然、知らない声がした。
そして、それが誰の声だったのかなんて気にしている暇もなく、私の視界が暗転した。
──オギャアアァァァ……ァァ…………
赤ん坊の大きな声に導かれて、私の意識は浮上した。
そして、このうるさい声は他の誰でもない自分の発している声であることに気がつく。
これが私、いや僕、ウォーナット家長男である、リーン・ウォーナットの誕生した瞬間だった。