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反泥に咲く華

作者: けだせな

面白くないです



梅雨の時期

仄暗い曇天模様だった



それでも泥溜まりは僕の顔を映した

土砂降りで潰れた髪の毛に

体温を失って血の気が無くなっていた



濡れた衣服は重くぽたぽたと雫を垂らしている

その雫は決して綺麗ではなく薄汚れた茶色だ



寒さで奥歯を鳴らしながら走った

虚ろな目で走り続ける

走る度に飛沫をあげる泥が

僕のズボンを汚そうがお構い無しだ



それでも人の体力には限界がある

体力を失った身体は

錆び付いた玩具のように緩慢な動きになった



前のめりになりすぎたのか僕は転んだ

咄嗟に腕を前に出したが無駄な足掻きだった



骨の軋む音が耳の奥で響いた

そのまま転がるようにコンクリートに

身体を打ち付けた



前に出した腕はもちろんのこと

膝や腰の辺りに酷い痛みを感じた



試しにズボンを巻くってみた

酷い有様だった

膝のあちこちの皮が剥がれて

そこから血がじわりと滲んでいた



このままでは埒が明かないと僕は歯に力を込めた

これで多少は痛みがマシになるだろうという

少年の少し意地の張った考え方だった



痛みに耐えながらゆっくりと身体を起こした

怪我をした足を引きずりながら前へ進んだ



それでも雨は手加減をしてくれる理由がなく

ゆっくりと独特の冷たさで身体を侵食していく



少し進むと紫陽花が見えた

綺麗な紫色で周りとは空気が少し違う

僕は誘われるようにふらふらと近づいた



確か紫陽花には毒があると

誰かから聞いた記憶がある

そうやって見えない敵から身を守るのだ



しかしこの紫陽花はどうだろう

立派に咲く一輪の花だ

生き物に対して

「私に触れられるものならふれてみなさい」

と言わんばかりの傲慢の香りがする



僕はこの花を恐ろしいと錯覚してしまった

見ているだけなのに

僕の心臓をギュッと締め付けてくるのだ

そんな痛みでさえ何故か心地よく感じてしまう



あまりの寒さで神経が麻痺してしまったんだろうか

とにかく恐ろしかった



目の前にナイフを持った

無邪気な子供がいるかのような純粋な気持ちが

この紫陽花から伝わってくる



それからどれくらいの時が経っただろうか

そして僕はハッと呼吸した

息をしていなかったのだ



再び激しく波打つ心臓に驚いてしまった

一刻も早くこの場から立ち去りたかった



僕の頬に雨の露の他に汗がだらだらと流れ始めた

疲れからくる汗ではなく恐怖からくる汗だ



だがそんなことを許す紫陽花ではない

捕食者は彼女なのだから

今も腹を空かせて僕を狙っているに違いない



不意に首あたりから違和感を感じた

触ってみるとこれはまた奇妙で

ツルツルした首ではなにかだった



これは蔦だ

この花が僕を食べようとしてるんだ

そう思い無理やり引きちぎろうとするが

電流が流れるような痛みがその行動を止めさせた



忌々しく紫陽花を睨みつけるが

雨風に揺られてひょこひょこと動くだけだ

なんだか猛烈に腹が立ったが

その感情は一瞬で萎えた



そんなことも考えられなくなったが正解だが

僕はもう蔦に覆われて姿かたちも見えなくなった

目の前が真っ暗になった



僕は紫陽花になったようだ

隣には先程の綺麗な紫陽花が咲いていた

なんだか凄く嬉しそうだ

僕もなんだか嬉しい



空はいつの間にかすっかり晴れていた

雲と雲の隙間から光が漏れて神秘的だった



いつの間にか僕は夢を見ていたのか

そうに違いない絶対そうだ

僕は道端に咲く花なんだから夢なんてみないのに



ところでどんな夢をみていたんだろうか

先程まであった記憶は虚無の彼方に

いや無限の果てに逃げてしまったらしい



ところで僕は誰なのか分からない

もう意識は闇の中に溶けて消えかけてる

酷い雨の音と寂しそうな風の音だけ聞こえてる




だめですよね

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