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『紬くんへ』

『紬くんへ


 こうしてきちとしたお手紙を書くのは初めてですね。

 この手紙は、私が入院する日よりもずっと前に書いています。


 正確には、紬くんに告白した、その日に書いています。

 花梨ちゃんにも、紡くんにも書きました。紬くんが、最後です。


 今、どんな気持ちでこの手紙を読んでいるでしょうか。

 驚いていますか。それとも、怒っていますか。

 きっと心配してくれているのでしょう。身勝手なことばかりして、逃げてしまった私なのに。

 今まで、きちんと病気のことも話しませんでした。

 聞かないでくれたこともすごく嬉しかったです。


 私の病気は、正直よくわかりません。

 わかりたくないですが、わかっているのは頭の手術をしなければ、私は死んでしまうということです。

 手術をしなければ死んでしまうけれど、手術しても助かる確率は低くて、その上後遺症が残るかもしれないと説明されました。


 どうして私がこんな目に遭うのでしょうか。

 中学生の時に、すでにこの診断は下っていました。

 その頃はこんなにひどくはなくて、様子を見て治療方法を探しましょうって先生も言ってくれました。


 けれど、見つからないままに私の症状は悪化していきました。

 怖くて、怖くて、毎日泣いてばかりだったけれど、花梨ちゃんには言えませんでした。

 大したことがないなんて嘘を言いました。

 そうであってほしいなという私の勝手な願望からでした。


 花梨ちゃんは知っていると思うけれどとても優しいです。

 だから、花梨ちゃんを通して紬くんの話を聞いて、紬くんを好きになりました。


 本当は、告白なんてする気はありませんでした。

 下駄箱に入れたあの手紙で、全部終わりで、思い出として持っていこうと思いました。


 退院して思い出を作りたかった。

 恋をして、その人を見て、この目に焼き付けて、声を聴いて、耳で覚えて、そうしたら勇気が持てるかなって思ったからです。

 だから、恋する気持ちを送れたら、それで満足するつもりだったんです。


 でも、まさかのクラスメイトで、花梨ちゃんを通じて友達にもなれました。

 そうしたら、もう少しだけ、もう少しだけって思うようになってしまいました。


 私は、病気で、こうして入院することが決まっていたから告白なんてするつもりはありませんでした。

 ただ、恋がしたかったんだと思います。

 病院のベッドの上で、私はクラスメイトらしいクラスメイトもいないまま、高校もちゃんと通えないままで過ごすのかと思ったらそれが悲しくて、花梨ちゃんから聞いた話を、自分に置き換えていたのだと思います。


 私は、私の気持ちに正直に、紬くんのことが好きになりました。

 そうしたら、今度は苦しくてたまりませんでした。

 代わりでも構わないと言いました。あれは嘘です。でもそのくらい好きでした。

 オッケーをもらっても、すぐ入院するのに何を必死に言っているんだろうと自分でも悲しくてたまりませんでしたが、言わないでいられなかった。


 私は、紬くんが好きです。

 身勝手な想いをあなたに押し付けて、ごめんなさい。



 あなたと、恋がしたかったです。


                             雫より。』

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