ぼったくり 1
「<簡易シャワー・クリーン>を開店しま~す! 【クリーン】1回につき1,000メレ、汗を落としてさっぱりしませんか~?」
「5人分頼む!」
順番に1人ずつ【クリーン】を掛けて、さっぱりしたところで、
「朝からお疲れ様でした! 寝起きの水分補給に、りんご水はいかがですか? カップ1杯150メレで~す」
「10杯お買い上げだ!」
無料でも良かったんだけど、昨夜の宣言もあるし有料にしておいた。一応まだ、適正価格のつもりだけどね。
「これも美味いな!」
「ああ」
「娘の好きそうな味だ…」
皆、美味しそうに飲んでいる。 当たり前なんだけど、家族には女性もいるんだよね。 お土産も売っちゃおうかな♪
私たちもりんご水を飲みながら、自分たちはいつごはんを食べるか相談する。
(一緒で良いんじゃないかにゃ?)
(みんなといっしょ、たのしい♪)
一緒でいいなら、話は簡単だ。
かまどを出して網を置き、塩を振って馴染ませておいた魚を載せると、自然と皆が集まり始めた。
「皆さん、お腹は空いてますか?」
念の為に確認をすると、
「腹ペコだ!」
「いくらでも食えるぞーっ♪」
なかなか恐ろしい返事が返ってきた。 食材はあるけど、そんなに大量のごはんは用意してないよ…?
(アリス、安心して売り倒すのにゃ!)
(ぼくたち、あとからいっぱいたべる)
私の心の声が聞こえたのか、従魔たちは商人の鑑みたいなことを言う。ライムがハクに感化されてきてる!?
ボアの敷物に【クリーン】をかけてテーブル代わりに敷くと、心得ている皆はその上に食器を置いた。 私たちの食器も置く。
「では、『ごはん屋<ぼったくり>』、オープンしま~す♪」
にっこりと笑顔を浮かべ、両手を広げて宣言すると、
「「「「おおおっ!」」」」
「かかってこいや~っ!」
ノリの良い拍手と、挑発の声が聞こえた。 …なんでよ?
「まずはお水から! 大鍋1杯、800メレに値上げです! 買いますか? 買いませんか?」
「もちろんお買い上げだ! まずは1杯。 後はその都度おかわりだ!」
さすが、オスカーさん。 この程度の値上げには動じないか…。
「給仕は各自でお願いしますね?」
大鍋にいっぱいのお水とお玉を添えて敷物の上に置くと、世話好きなのか、今回のお礼なのか、オースティンさんが給仕を始めた。
ハクとライムの前には私が水を注いでおく。
「次は今焼いているこの魚。 湖の魚に塩を振って焼いただけ! 1匹600メレです。さあ、いかが!?」
「買った!」
「はい、5匹お買い上げ♪ お醤油は各自でどうぞ!」
テーブルに魚と醤油を出して、私たちも一緒に食べる。
(そのまま焼くよりおいしいにゃ♪)
ハクが塩と醤油の美味しさを改めて実感している。 うん! 本当に、醤油をかけた魚はおいしいね~♪
「久しぶりの魚だ…っ!」
「全然、生臭くないぞっ!」
男性陣にも好評のようだ。
「ボアバラ大根、中鍋1杯で6,500メレ! どうします?」
「美味そうじゃねぇか! お買い上げだ! ……嬢ちゃん、いつになったらぼったくりが始まるんだ?」
オスカーさんに挑発をされたけど、乗らないよ? まだまだ、これからこれから♪
自分たちの分を大鍋からよそっていると、
「濃い味が食欲をそそるな! それはおかわりできるのか?」
と、真顔で聞かれてびっくりした。 料理人冥利に尽きるけど、
「これから出す朝ごはんは、あと2品です。 お腹に余裕があるなら、どうぞ♪」
「そうか。おかわりだ!」
「まだ、食べ始めたばかりでしょっ!?」
冗談かと疑ってみたけど、どうやら本気らしい。
「「「「おかわりーっ」」」」
の大合唱が響いた。
「はーい! 毎度あり! …と言ってもそんなにありませんね。残り全部で5,000メレです♪」
ボアバラ大根は食材がボアだからか、売り切ってしまってもハクはほくほく顔で笑っている。 ボアもおいしいよね?
水の鍋が空になっていたので、指を差してみるとオースティンさんが大きく頷いたので、おかわりを足しておいた。
次はオーク。強気でいくぞっ♪
「お次はオークと野菜のスープ! 中鍋1杯でなんと1万メレです!」
「おかわりだっ!!」
「まだ、食べてもいないでしょう!?」
「俺の勘がそいつは美味いって言ってんだよ! おかわりがあるなら、全部くれ!」
ハクの顔を見てみると、満面の笑みで頷いている。 え?いいの? もしかして、野菜がいっぱいだから? 不審に思っていると、
(次は、マルゴとルベンの野菜で作って欲しいにゃ♪)
(おいしいやさい♪)
2匹が揃って言うので思い出してみると、ハクはマルゴさんの家ではご機嫌に何でもいっぱい食べていた。反応が悪くなったのは、治療の対価に貰った野菜を使ったとき…。 そう言うことだったのかぁ! ハクは思っていた以上に違いのわかる猫(虎)だった…。
「私たちの分を引いた残りを8,000メレで?」
「買った!」
「売った♪」
従魔たちが売れと言うなら売りましょう! まだ材料はあるからね♪
「続いておむすびです! それぞれに具材が入っているので、当たりか外れかは、運次第♪ 1個350メレ均一ですので、食べた数を後から自己申告してくださいね~♪」
おむすびが山盛りのお皿をインベントリから慎重に取り出す。
山盛りのおむすびを大皿ごと複製した時に、複製元のお皿からボアの生姜焼きむすびと煮ボアむすびを移したら、とんでもない山盛りになってしまった。
絶妙なバランスで乗っている状態で、下段のおむすびがどうなっているか、心配だ。
オスカーさんが支えてくれて、なんとか無事に、敷物の中央に置くことができた。
「これ、全部食ってもいいのか?」
最初は芋粥に苦手意識を持っていた人からの質問だった。 すっかりお米のファンになってくれたことに気を良くして、満面の笑顔でOKすると、
「「「「「おおおおおおおっ!」」」」」
大歓声が上がった。 …本気でこの量を食べ切るつもりなんだろうか?
「昨夜のスープに入ってた肉団子だ! 当たりだっ!」
(オークかつにゃ♪)
「オーク肉がゴロゴロ入ってるぞ! 贅沢なスープだな!」
「ショウガヤキが入ってるぞ! これも当たりだっ!」
「何だこれ? 何かわからんが、これは大当たりだぞっ!」
反応を見ている限りどれも好みに合っているらしく、凄い勢いで減っていく。オークカツは私的にも大当たりだけど、今日は皆さんに譲っておこう。【鑑定】で、煮ボアのおむすびを選んだ。
「嬢ちゃん、食ってるか?」
「食べてますよ~♪」
男性陣の食べっぷりに圧倒されていると、オスカーさんが心配して声を掛けてくれた。
「のんびり食ってると、あっと言う間に全部無くなっちまうぞ?」
「大丈夫ですよ~。 遠慮なくどうぞ? 稼がせてもらいますから♪」
「嬢ちゃん達のは別にあるのか?」
心配してくれているのがわかるので、オスカーさんだけに聞こえるように、こっそりとバラした。
「ええ、ありますよ。マルゴさんの焼いてくれた美味しい丸パンが♪」
「マルゴのか!」
嬉しそうに笑うオスカーさんだが、ここはきっちりと釘を刺しておく。
「出してあげませんよ~! マルゴさんの美味しい焼き立てパンは、私たちのものですからね! 皆さんはお家に帰ってから、美味しく召し上がってください♪」
「くくっ! そうかい、マルゴのパンは嬢ちゃん達のかい! 大丈夫だ。ねだったりしねぇから、安心してくれ」
何がツボにはまったのか、嬉しそうに笑いながら次のおむすびに手を伸ばしていた。
「おっ? これはなんだ? 初めて食う味だぞ! 美味いなっ!!」
オークカツに当たったらしい。マルゴさんもお気に入りのオークカツをオスカーさんも気に入ったようだ。 味覚も似てるんだね~、似た者夫婦だな~。 とほのぼのしていたら、
「嬢ちゃん、これのレシピを1,500万メレで売ってくれないか? これはマルゴも好きそうな味だ!」
と言われて、飲んでいたスープを吹き出しそうになった。 奥さんへのちょっとしたお土産に1,500万メレですか!?
「嫁入り道具にするので、ダメです。ごめんなさい」
にんまりと笑いそうになる顔を引き締めながら断った。
(マルゴはレシピを知っているにゃ~?)
(うん。内緒だよ。帰ってからのサプライズだね♪)
「そうか…。そうだよな。 悪かった」
オスカーさんは、とても残念そうだが、それでもきっぱりと諦めてくれた。 さすが、マルゴさんの旦那さんだ! 帰ったら、いっぱい作ってもらってね♪
ありがとうございました!




