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携帯食の試食会

 先に食べ終えて煮ボアの鍋を見てみると、煮汁が半分に減っていた。味も程よく染みていそうだ。


 かまどの火から下ろして肉を休ませておく間に、硬いパンと、インスタントスープを自分なりに考えて作ってみる。


 マルゴさんのパンは実験に使うにはもったいないから、ご飯で代用しよう。要は乾飯(ほしいい)やアルファ化米を作ればいいんだ。


 小鍋にご飯を1膳分入れてから【ドライ】すると、見事にぱらぱらの米のような状態になった。

 

 多めに作っていたスープをカップに注いでから【ドライ・トリプル】! 見た目は、インスタントスープの素みたいになる。


 最後に煮ボアを薄く切ってから【ドライ】を掛けると、これも見覚えのある、ジャーキーっぽくなった。


 後はお湯で戻せばいいんだけど、ジャーキーも戻す? このままでいい気もするし、このままだと“おかず”じゃなくて“おやつ”みたいになる気もする…。


「何してるんだ?」


 悩んでいるとオスカーさんが近寄って来た。


「さっき話していた、『堅めのパンと干肉、お湯で野菜を戻したスープ』です。パンの代わりに米ですが…」


 煮ボアのジャーキーは、乾燥したままと、お湯で戻すのを両方味見しよう!


「嬢ちゃんの言い方だと、普通の食いモンに聞こえるが、違うからな!?」


 オスカーさんは子供に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。 一緒でしょ?


「時計を貸してください」


 とりあえず、乾燥させたご飯の鍋にお湯を入れて蓋をする。アルファ化米はお湯で20分くらいだっけ? 同じだけ時間を置いてみる。


 ジャーキーはお皿に置いて、上からお湯を掛けるだけ。スープの(もと)入りカップにもお湯を入れておこう。


 お湯を吸収するのを待つ間に、


「オスカーさん、はい!」


「あ?」


 オスカーさんは差し出した煮ボアのジャーキーをとっさに受け取った。


「干し肉です。一緒に味見をしてみましょう!」


 渡されたジャーキーを観察しているオスカーさんが断る前に、強引に巻き込む。


「次に“せーのっ”って私が言ったら、一緒に齧りましょうね! “せーのっっ!”」


 ジャーキーを握ってるオスカーさんの手を掴んでオスカーさんの口元に押し付けながら、合図を告げる。


 ““パクッ””

 ““もぐもぐもぐもぐ……””


 ……変な臭みもないし、噛めば噛むほど味が出て、


「美味い!!」


 うん、想像どおりに美味しくできた♪


「美味いぞ、嬢ちゃん! これが嬢ちゃんの干し肉なのか!?」


 オスカーさんは私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶるけど、そんなに興奮される程のものでもない。普通に美味しいだけだ。


 次はスープを乾燥させたものに、もう一度お湯を注いだだけのインスタントスープ。半分に分けてから、カップをオスカーさんに渡す。


「お湯で戻したスープです」


 今度は“せーの”の合図はいらなかった。オスカーさんはカップを受け取るとすぐにごくごくと飲み始める。


「これも美味い! さっき飲んだスープに似てるな…?」


「さっきのスープから作ったので。でも、味が落ちますね…」 


 野菜をもう少し小さく切るべきだった? 戻り方がイマイチ…。


「嬢ちゃんは、この味で文句があるのか…」


 次は、お湯で戻したジャーキー。半分ちぎって差し出すと、オスカーさんは嬉しそうに口に入れる。


「これは、昼に食ったのと似てるな」


「食感が悪くなった…。これなら戻さずにジャーキーのまま食べた方がいい…」


「十分に美味いじゃねぇか…」


 時計を見たら、アルファ化米にお湯を注いでから20分を過ぎていたので鍋の蓋を開けてみると、なんだか水っぽかった。 時間が早すぎたのか、お湯を入れ過ぎたのか…。


 鍋にスプーンを突っ込んで口に運ぼうとすると、強い視線を感じた。 顔を上げると、オスカーさんがじっとこっちを見ている。


「俺のは?」


「お湯の量を失敗したかもしれないので、まずは味見をしようと思ったんですが…?」


「俺にも味見させろ」


 …不味くても良いのか? 文句は言わせないぞ? 視線で問いかけたら頷き返してきたのでスプーンをもう1本取り出して渡す。


 オスカーさんはスプーンを受け取るなり、ご飯をいっぱいに掬って迷い無く口に入れた。


 私も食べてみたが、


「美味い」

「…まずい」


 どうやらお湯を入れ過ぎたらしい。柔らか過ぎるご飯になってしまった。


「嬢ちゃんは何が不満なんだ? 十分に美味いじゃねぇか!」


「ジャーキー…、干し肉は美味しくできたと思うんですが、それ以外がちょっと…」


「ああ、あの干し肉は美味かった…。あんなに美味い干し肉があったなんてなぁ…」


 ジャーキーはおやつとして十分に楽しめる味だった。


 オスカーさんと2人でジャーキーの味に思いを馳せていると、従魔2匹が足元に寄って来た。


「どうぞ♪」


 ジャーキーのおねだりだと思って一切れずつ渡してやると、ご機嫌で食べ始める。


(おかわりにゃ!)

(おいしい♪)


 2匹も気に入ってくれたようだ。果物以外のおやつができた♪


 そう思ってほくほくしていると、複数の強い視線を感じた…。


「…味見、します?」


 声を掛けてみると、口々に嬉しそうな返事が聞こえる。 結構な量の晩ごはんを食べてたけど?


 味見の残り部分の1本を分けたら、1人2枚ずつにしかならなかった。もちろん、ハクやライム、オスカーさんの分もある。


「美味いな! こんな干し肉があれば、長旅の辛さも和らぐぜ!」

「でも、酒が飲みたくなるな!」


 そんな歓声を横目に、


「嬢ちゃん、この飯も食っていいか?」


 オスカーさんが柔らかすぎるアルファ化米入りの鍋を持ち上げならが言うので、喜んで了承した。


「食べてもらえるなら助かります♪ おかずも出しますか?」


 聞いてみると、オスカーさんは首を横に振りジャーキーを細かく割き始めた。どうするのかと見ていると、割いたジャーキーを鍋の中に入れて軽く混ぜて食べ始める。 


「やっぱり美味いぞっ!」

「父さん、俺にも!」


 オースティンさんが、オスカーさんが機嫌よく食べ進める鍋を横から奪い、勢いよく掻き込んだ。


「これも美味いな!! 少し柔らかいが、美味い飯だ!」


「だろう?」


 オスカーさん親子のお陰で、失敗かと思った携帯食作りはなんとか成功で終わった。


ありがとうございました!

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