異世界を振り返る
「お疲れさん」
焚き火の側でぼ~~っと星を眺めていると、隣にオスカーさんが座った。
「お疲れさまでした」
私もねぎらい返したけど、その後が続かない。
この世界にも、星座にまつわる神話とかがあるんだろうか。ビジュー一柱だけの一神教の世界だから、なさそうかな。
「旅は辛くないか?」
何気なく聞かれたので、ありのままを答えた。
「楽しいです♪」
ハクがいてライムがいて。好きなように時間を使って、良い人達との出会いもあって…。 最初は魔物との戦闘が怖かったけど(オークとかオークとかオークとか)、魔法を手に入れてからは格段に楽になった。
「まだ、旅を始めたばかりだからか、見るもの聞くものが目新しいものばかりで、何の責任も無くふらふら出来て…」
食糧問題も解決したし、お金も手に入った。ビジューに貰ったスキルは大活躍だし、
「生きてるって、楽しいことだな~、って実感しています!」
「そうか…。 楽しいのはいいことだ!」
オスカーさんは一瞬だけ、切なげな表情になったけど、すぐに“ニカッ”と笑って言ってくれた。
成人しているとはいえ16歳の少女1人と可愛い従魔2匹。心配させてしまったらしい。
「おっと、そうだ。 忘れないうちに受け取ってくれ」
そう言って渡されたのは小銀貨が5枚の5万メレ。私の計算では……、37,200メレのはず。
「お釣りが無いようにもらえると、助かりますね~」
「細かい計算は苦手なんだよ」
「そうなんですか? 37,200メレですよ」
5万メレは多すぎる。視線に抗議を込めながら答えた。
「いつ計算した?」
「今。商売人を舐めないでください?」
「ククッ! ああ、そうだな、そうだった。 …確認してくれ」
「小銀貨3枚に大銅貨が7枚、中銅貨が2枚で、確かに37,200メレ頂戴しました♪」
「ああ。本当に美味かった! ありがとうな。で、これが今夜の晩飯代。面倒だからまとめ払いな?」
そう言って差し出されたのは、中銀貨1枚。
「ごはん屋アリスはもう閉店しましたよ。そのお金はしまって下さい」
にっこり笑って断ると、オスカーさんは焦ったように身を乗り出して、
「待ってくれ! 今夜の晩飯、俺達の分は無いのか!? 誓って、つまみ食いはしていないぞ!?」
と訴えた。 わかってますよ~。
「ちゃんとありますよ。いろいろと手伝って貰ったから、お金は要らないってだけです」
「俺達は手伝ってないんだが…」
静かだな~、と思っていたら、会話を聞いていたらしい。網を貸してくれた『おじちゃん』がポツリと言った。
「網をお返ししますね! ありがとうございました♪」
「ああ、いや。うん…」
「?」
「俺達は遊んでいたんだが…」
「ええ、ありがとうございました! ハクもライムも楽しかったようで、気持ち良さそうに寝てますよ」
従魔たちは今、オースティンさんを枕に夢の中だ。 オースティンさんも夢の中だけど^^
「普段あまり遊んであげていないので、とっても助かりました」
「そうか?」
嬉しそうに笑う『おじちゃん達』に頬が緩んでいると、
「嬢ちゃん、嬢ちゃん! そうじゃねえ」
オスカーさんが話を引き戻した。
「昼にも言ったが、嬢ちゃんみたいな若い娘さんに負んぶに抱っこじゃ、マルゴに殺されちまうんだ!」
「ハーピーの解体に、ご飯を炊いてもらって、鍋の様子を見てもらって、網を借りて、ウチの可愛い可愛い、とっても可愛い従魔たちの遊び相手を務めてくれた人達から、お金を取れっていうんですか? そんなことしたら末代までの恥ですね。負んぶに抱っこじゃなくて、対等な役割分担です!」
「嬢ちゃんはマルゴの怖さを知らねぇのか? 本気で殺されるわ!」
オスカーさんの訴えに、男性陣はみんな頷いているが…、
「何、言ってるんですか。あんなに優しい人がそんなことするわけないでしょ? 騙されませんよ^^」
スルーしておいた。本当はちょっとだけ、マルゴさんの『教育』が頭をよぎったのは内緒だ。
でも、そうだなぁ…。ここは『男を立てて』みようか。
「じゃあ、こうしましょう! 晩ごはんのお代はいただかない代わりに、明日の朝、『ごはん屋・ぼったくり』をオープンしますので、そこで朝ごはんとお昼のお弁当を買って、散財してください」
これでどうだ!と胸を張って提案したら、
「朝飯に弁当まであるのか!?」
と、驚かれた。 にっこり笑って頷くと、
「ああ、買わせてくれ! どんどんぼったくってくれ! これで安心して晩飯が食えるぜっ!」
ぼったくりを推奨なんて…。オスカーさんは大丈夫だろうか? 気前が良すぎて、不安になる。マルゴさんに雷を落とされませんように…!
「じゃあ、私はそろそろ晩ごはんの仕度をしましょうかね」
立ち上がり、動きやすいようにマントを脱ぐと、
「さっきまでのは何だったんだ!?」
不思議そうに聞かれた。
「今夜のごはんと、明日以降の分です」
さて、気合を入れて、始めますか!
ありがとうございました!




