味見役
・じゃが芋・人参・玉ねぎを切ったもの OK
・椎茸串にオークのスライスを巻きつけて塩胡椒を振ったもの OK
ハクとライムのリクエストおかずの準備はできた。
後は、ほのかに甘い香りを漂わせているご飯が炊けるのを待つだけだ。
「飯が炊けたぞ~!」
「美味しそうですね! ありがとうございます」
炊き上がったご飯をインベントリにしまって、片方のかまどにはオークの油を引いた大鍋を、もう片方には、
「すいませ~ん! どなたか、かまどの口より大きい焼き網を持っていませんか?」
持っていたら、是非借りたい。無ければ焚き火で焼くだけだけど…。
「俺が持ってるぞ。1枚でいいのか?」
「はい、1枚で。 ありがとうございます♪」
焼き網があると、やっぱり楽だ。
かまどに焼き網を置き、椎茸の肉巻き串を乗せて、弱火でじっくりと焼く。
肉じゃが用の具材を炒めたら、水・醤油・酒・砂糖・みりんを入れてあとは放置。その間に椎茸の肉巻き串をトングでひっくり返す。 かまどがもう1基くらい欲しいけど、贅沢言っちゃダメだよね?
「暇だけど、何か出来ることある?」
オースティンさんが声を掛けてくれたので、肉じゃがの灰汁取りをお願いすると、少しだけ暇になった。
インベントリのリストを確認すると、りんごが減っていて残り25個しかなかった。マルゴさん達へのお土産用に使うと、残りが心許ない…。 先に複製しておこう。
(!!)
【複製】の残りが8/8になってる。レベルアップだ!! 検証したい! 検証したいけど……、今夜は無理だな。諦めよう。
素直にりんご入りバスケットを複製して、他は? ついでなので、食材の在庫をチェックしてみる。
残り2kgを切ってるお米に、ルベンさんのチーズとバター! それに、オークのスライスと挽肉も複製しておいた方がいいな。 肉を薄くきれいにスライスなんて、今の私にはできないし。
他には何があるかを見ている内に、椎茸の肉巻き串が焼き上がったので、焼き上がった順にインベントリへ収納していく。 空いたかまどに、カットしたりんごと水と砂糖を入れた鍋を置いて…。
「解体終わったぞ!」
「はーいっ! ありがとうございます♪」
捌きたてのハーピー肉をから揚げ用に漬け込む…。 から揚げは多めに準備しておこう。 家で作っていた時は、流威が揚げるそばからつまみ食いして、食事前に半分になっていたこともある、子供と男性に大人気のおかずだ。多いに越したことはない。
ついでに、揚げ物用にオークの油も複製しておこうか。 複製1回分がもったいない気もするけど、予備があった方がいい。
後は…。 かまどがふさがっていても、干しりんごなら作れる。10個分くらい追加で作っておいたら、十分だろう。【ドライ】で簡単な作業だ♪
「嬢ちゃんの野営は、随分と充実してるな。いつもこんなにいろいろ作ってるのか?」
自分の世界に没頭していると、オスカーさんが感心したよう言った。
「いいえ、昨夜からです。マルゴさんとニコロさんのお陰でかまどが手に入ったので。 調味料はマルゴさんからのいただき物ですよ」
ネフ村に辿り着くまでの悲惨な食生活は思い出したくない…。
「それまでは?」
「マルゴさんの紹介でニコロさんにかまどを作ってもらえて、本当に助かりました♪」
思い出したくないんだってば!
そんな私の心境を察したのか、オスカーさんは苦笑して話を変えてくれた。
「嬢ちゃんは人助けが趣味か?」
「は? そんな高尚な趣味は持っていませんよ」
りんごの鍋が良い感じに煮詰まったから【ドライ】♪ ドライアップルの完成!
空いたかまどでオーク肉を炒めて…、
「じゃあ、どうして俺達にここまで親切にしてくれる?」
どうやら、オスカーさんとの間に認識の違いがあるようだ。
「特別に親切にした覚えはないですが? マルゴさんとルベンさんからいただき過ぎたので、“お釣り”を皆さんにお返ししただけです。 それ以降は商売でしたよね? あとでさっきの分のお金をください」
よし、オーク肉は良い感じ。
「灰汁が出てこなくなったぞ~」
「は~い!」
炒めたオーク肉を鍋に投入して、もう少し見ていてもらう。
「商売って言うならもう少し値段を考えねぇと。どう考えても、食ったモンと払う値段が釣りあわねぇぞ」
オスカーさんは諭すように言うが、私にも言い分はある。
「それは、ハーピーを譲られた分です。第一、マルゴさんの旦那さんから暴利を貪るなんて、できません」
「マルゴか…。息子の部屋に泊まったんだったな?」
「ええ、いろいろと親切にしてもらいました」
そろそろハーピー肉に味が染みた頃かな? かまどにオーク油の鍋を置く。
あ、解体台が血で汚れたままだった。クリーンを掛けてから振り返ると、オースティンさんと目が合った。
「良い香りがしてますね。 もう良い感じですか?」
「良い感じだと思うぞ。腹が減ってなくても食いたくなる」
おおっ、すごい褒められた! でも、味見をしてみるとちょっと甘みが少ないかな?
砂糖を足して、鍋ごと回して馴染ませて…、
「つまみ食いはダメですよ?」
複数の視線を感じたので、先に言っておく。
「つまみ食いは晩ごはん抜きです」
そう続けると視線が逸らされた。 すぐにインベントリに入れるからつまみ食いの暇はないけどね^^
かまどごとインベントリに収納して、そろそろかな? 振り向きざまに【ウインドカッター】を3発放った。
「!!」
(ハク!)
(任せるにゃ!)
ハーピーの襲撃にオスカーさんが反応していた。 私は【マップ】で確認していたから早くから知ってたけど、オスカーさんは多分【魔力感知】だけで反応してる。やっぱり凄いなぁ…。
「嬢ちゃん、やるな!」
「オスカーさんこそ! ……凄いオスカーさんに、お使いをお願いしてもいいですか?」
「ああ、拾ってくる。ついでに解体だな?」
オスカーさんは足取り軽く、ハーピー3羽の回収に向かってくれた。
オーク油が温まってきたので、肉を漬け込んでいた鍋に小麦粉を入れて混ぜ混ぜしながら視線を巡らせると、こっちを見ていたオースティンさんと目が合った。
「凄いな…」
「まだ、出来てませんよ?」
「いや、料理じゃなくて…。 ああ! もちろん料理もだけど…! 違うんだ…」
「?」
「アリスさんはまだ若いのに、凄いな。美味い料理に優れた回復魔法。それに攻撃魔法も強力だ。 俺には無いものばかりだ…」
オースティンさんは寂しげに笑うが、理由がわからない。
「オースティンさんは腕の良い魔道具職人さんですよね? ルシィさんから聞きました」
マルゴさんも、オースティンさんの魔道具目当てに村に行商人が来る回数が増えたと言っていた。
「ルシィか…」
あれ? 顔が赤い! ルシィさん、やったね! 年の差があるから片思いかと思ってたけど、両思いだったみたいだ!
「ええ、私には無い才能です。 あ、ちょっと離れていてくださいね。油が跳ねますよ」
“ジュワワワワワァ”
肉が油で揚がる音は、聞いているだけでお腹が空いてくる。
「つまみ食いはごはん抜きだよ?」
串焼きに使っていた網で、油切りをしながら注意をすると、
「し、しないぞ! 美味そうだけど、つまみ食いなんて…」
ハーピーを回収して戻ってきたオスカーさんが慌てて言った。
「ウチの仔たちですよ?」
いつの間にか戻って来ていたハクとライム。と、男性陣。
ハクとライムが足元でそわそわしていたのだ。
(つまみ食いじゃないにゃ! 味見なのにゃ~♪)
(あじみ、する♪)
(味見は私がするよ~?)
“パクッ!”
((あ~~~っ!))
うん、上出来♪
従魔……、と男性達の視線には気が付かないふりで、ひたすらから揚げを揚げ続けた。
ありがとうございました!




